初めての重症者

 「いやーすまんすまん!遅参申し訳ない!あまりにも破竹の勢いかの如くだな!流石、織田軍の面々だ!」


 「確か・・・梶川様でしたよね?」


 「おぉ〜!覚えていてくれたか!水野信元様 支配内の梶川高秀以下500 尾張衆、遅ればせながら馳せ参じました」


 「ありがとうございます。そろそろ茨木を出陣しようと思っていたところです」


 「おぉ〜!梶川殿か。久しいな」


 「森殿!お久しぶりですな!お館様もそろそろ芥川山城に着陣される!このまま池田城を落とす事を、大いに期待しているご様子ですぞ!」


 「そうかそうか。ならば共にお館様に吉報を齎そうぞ!」


 「よろしく頼みますじゃ。して、剣城殿?ワシはどこの軍に入れば良いか?」


 「そうですね・・・坂井様に先駆けを任せております。手柄が欲しいなら混ざりますか?坂井様の指揮は素晴らしいですよ」


 「いやいやいや!剣城殿!?何を言っておられるのですか!?某なんかは──」


 「あぁやって謙遜ばかりする方なのに、戦が始まればこの茨木城も瞬殺でしたからね。誰よりも首を取っておきながら誇らない、部下や皆に手柄を渡すような、素晴らしい方ですよ」


 「なんと!?そのように猛っておる軍にワシが・・・梶川高秀と申す。よろしく頼む。命令あれば単騎でも突撃いたしますぞ!ははは!」


 何で・・・何でまた稲葉のおっさんのように好戦的な人なのだ・・・。3人ですら持て余しているというのに、剣城殿と云えば・・・・、


 「さて・・・出陣しましょうか。坂井様!よろしくお願いします!」


 気が重い・・・。誰よりも戦を嫌っている方かと思っていたのに・・・。こうなれば皆、酷使してやる!池田城はまだ抗ってくる様子に見える。さっさと美濃3人を突撃させて、適度に敗走させよう。


 だが、間違えて討死なんかさせようもんなら、俺も今度こそ連座だ。まずは相手の士気を下げる。そして、この梶川殿には悪いが殿(しんがり)を任せ剣城殿に素直に謝り、更迭させてもらおう。今までの手柄は無くなるだろうが、それで切腹は免れる筈だ。



 「美濃隊!敵は池田城 池田勝正の首!!だが池田城は城下にまで出張ってきている!一当てして籠城するつもりだ!城下を焼き払う!行くぞ〜!!」


 「「「「「「オォ────ッッ!!!」」」」」」


 「ね?梶川様。凄い激でしょ?さぁ、梶川様も遠慮せず、怪我しないように頑張って下さい!オレの隊の者が国友大筒で牽制します。その後、敵を狩って下さい」


 「畏まって候」


 

  


 「氏家隊!進め進め!懸かれ〜!稲葉隊はその後を追えぇ〜!安藤隊はこの2隊の討ち漏らしを討ち取れ〜!懸かれ〜!」


 「なんと!?坂井殿は若いのにあの3人を手足の如く・・・中々やるではないか!」


 「ふん!坂井!中々鋭い突撃をさせるじゃないか!!敵も中々やりおる!」


 「氏家殿!お喋りじゃなく早く町を燃やして下さい!!」


 あの我の強い氏家殿に命令をしておる!誠にやるではないか!まるでお館様の若き頃のようだ!うん?あの矢は・・・これはいかん!!


 「柴田殿!ここは頼む!ワシは出る!」


 「あっ、おい!梶川殿!!えぇい!!柴田隊!号令は無いがワシに続けッッ!!!ただただワシの背中を追って参れッ!!!」


 「坂井殿!!避けろ〜!!!」


 うん?梶川殿に号令は出しては──


 ビシュンッ


 あれは敵の矢か!?あぁー上手くいきすぎていたと思ったんだ。そうだ。これが自然の事だ。俺如きが城をこうも容易く──


 グスッッ


 「梶川殿ッッ!!!!!!」


 「クッ・・・若い者の・・・この坂井殿を死なせるのは・・・織田軍のかなりの損失・・・坂井殿・・・間に合った・・・」


 「梶川殿!!!!某のせいで・・・ぐぬぬぬ!!!金剛殿!!国友銃を!!!」


 「はっ!装填済です」


 ズドンッ!!   バタン


 「梶川殿!!すみません!!!誰ぞ!!誰ぞある!!急いで梶川殿を衛生班に!!!この御仁は某を守ってくれた!!!急げ!!誰ぞ!!」


 「クッ・・・腰の骨まで刺さっておる・・・最早助かるまい。坂井殿・・・一戦しか共に戦えなかったが良き采配だった・・・。これからもお館様を・・・」


 「梶川殿ッッッ!!!!!」


 「はいはーい!衛生班、只今参上!!これは・・・」


 「確か鞠殿でしたよね!?梶川殿はやはり・・・」


 「あっ、大丈夫ですよ!後方で手術小屋で矢を抜いて縫えば多分問題ないですよ。歩くのが少し辛くなるかもしれませんが、リハビリすれば元通りになると思いますよ。じゃあ衛生班は下がりますね」


 「え!?な、治る!?腰に深々と矢が刺さって・・・消えた・・・?やはり剣城殿の子飼いの者は草というのは・・・いかんいかん!!まだ戦は終わっていない!こうなりゃ敗走なんて言ってられない!是が非でも勝つ!!坂井隊!!奮起せよッ!!」


 「「「「オォ────!!」」」」



 「いい感じかな!」


 「随分と余裕が出てきたではないか」


 「森様、はい!戦というものが・・・は!?梶川様!?何で!?」


 「剣城殿・・・若い芽を摘んでは・・・坂井殿を失えば織田軍の損失・・・どうか・・・」


 「鞠ちゃん!!どうなってる!?」


 「坂井様を狙った矢をこの梶川様が庇った、とお聞きしました。すぐに麻酔をかけて矢を抜けば大丈夫かと。急ぎますね」


 「クッソ!クソ池田勝正!!!!金剛君!!いや金剛君は前線か。剛力君!!」


 「はっ!ここに!」


 「小泉さんに言って池田城に全門斉射!!」


 「木っ端微塵になるかと思いますが、よろしいですか?」


 「ふっ。剣城もいかんな。戦に慣れたとはいえ、怒りで作戦を変えるのは良くない事ぞ。今暫し待っておれ。ワシが出よう。すぐに勝利を届けてやる!森隊!続けッ!!!」


 「あっ!ちょっ!森様!!」


 「剣城様?どうされますか?」


 「あぁもう!剛力君は森様の援護!小泉さんに斉射の判断は任せると伝えて!くれぐれもこれ以上、深手を負う人を出さないように!こんなに戦力差があって武力の差もあって、重傷者が出るなんて信長様に何て言えばいいんだよ・・・」


 「・・・・・・畏まりました。池田勝正は剣城様の手で処断下さい。俺が連れて来ましょう。御免」


 「え!?剛力君まで!?あっ!ちょっと!」


 「がははは!城攻めに無傷とは中々ないですな!いやなに!梶川殿も、鞠がああ言いますから大丈夫でしょう!」


 「確かに無傷というのは・・・ですが、まさかあんな矢が刺さるとは・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る