言葉の威圧
「甲賀隊ッ!!向かってくる者は遠慮せず討ち取れッ!!」
「痛ぇ〜」
「芝田殿。大丈夫か?」
「上泉様。すいません。オレは痛みに弱いんですよ」
「はいはーい!衛生班、鈴参上!剣城様!」
「あれ!?大津は大丈夫なの!?」
「濃姫様付きの任を解かれた琴に任せました!それより傷を・・・。刺されたのですか?」
「待て待て!この者も芝田殿の配下なのか!?」
「誰ですか?このおじさんは?」
「ば、馬鹿!鈴ちゃん!謝りなさい!この方は剣聖、剣鬼、剣豪と名高い上泉信綱様だ!」
「これは失礼しました。私は芝田軍 衛生班の班長 鈴と申します」
「きぃぇゃぁぁぁ〜!!死ぬるでない!まだまだ温い〜!!剣城様!見てちょうだい!」
「牧村お婆ちゃん!そんなのしなくていいから!あっちの敵を突いてきなさい!」
未だ古の甲賀忍者は興奮冷めやらぬって感じだな。
「ふむふむ。剣城様?縫合の練習をさせてもらってもいいですか?いいのですね!直ぐに準備しますのでお待ち下さい!あっ、今度、グルコース分析装置や電解分析装置など、他にも色々買って下さい!」
「え!?縫合!?ここで!?しかも実験・・・まだ許可出してないんだけど・・・」
「大丈夫ですよ!曼陀羅華から麻酔薬も抽出しました!前に頂いた医療歴史書にも、華岡何某様が300年後くらいに使用した物と同じですから!」
「いや、ちょ!待っ・・・」
鈴ちゃんは笑顔で布を被せ、オレは意識を失った。
〜夢の中〜
「こんにちわなんだなぁ」
「あぁ!やっぱり農業神様が来るのですね」
「今回の戦も勝ったんだなぁ。常勝なんだなぁ」
「そうですね。農業神様から色々な物を買い、皆に装備が行き渡ったりして、格段にオレの軍は強くなりました。ありがとうございます!」
「中々に面白かったんだなぁ。それに子飼いの女も中々面白かったんだなぁ。チクチクと我が兄弟の肩を縫い、最終的には我が社の薬を飲ませてたんだなぁ」
「まぁ、そういう約束でしたからね。オレの部下はオレが居なくなっても問題ないように、自分達でも自活できるように色々作ったり、勉強したりしてますよ。まぁ、だから最近は購入が減ってしまって、申し訳ないんですけどね」
「我が兄弟が好きなようにしてくれたら、いいんだなぁ」
「それで・・・今回の夢に現れたのは?」
「何も無いんだなぁ」
何も無いのかよ!?
「そうですか。恐らくですが、皆を労わないといけないので、近々にまた色々購入すると思いますので、よろしくお願いします」
「・・・・・」
「あれ!?おかしな事、言いました!?」
「いや、本当は色々分かれている世界線で、我が兄弟はここで死んでしまう世界線も、あったんだなぁ」
「え!?マジっすか!?」
「そうなんだなぁ。肩ではなく首に短刀が刺さって、死んでしまう世界線もあったんだなぁ」
「って事は・・・あの時何か違和感を覚え、あまり踏み込まなかったのですが、農業神様のお陰ですか!?」
「違うんだなぁ。おいは、Garden of Edenの事務所でこの《神様印 リザレクションポーション》を持って、スタンバイしていたんだなぁ」
「え!?それは!?」
「部下にこれは『気軽に使うな』と、言われているんだなぁ。けど、我が兄弟の為ならばおいは使うんだなぁ。あげるんだなぁ」
「え!?くれるって・・・」
「それは一度だけ、寿命を迎えずに死んだ者を蘇らせる薬なんだなぁ。使えば即座に蘇るが・・・なんだなぁ」
「その・・・って何ですか!?含みというか、何か縛りがあるのですか?」
「それは言えないんだなぁ。持っておくと良いんだなぁ」
「なんか怪しくて使いにくいんですけど・・・」
「気にしなくていいんだなぁ。我が兄弟には必要ないかもしれないが、いつか使う時が来るかもしれないんだなぁ。来ないかもしれないんだなぁ」
「ま、まぁ、これは頂いておきます。ありがとうございます」
「さよならなんだなぁ」
〜現実〜
「剣城様!」 「我が君!」 「芝田殿!」
「クッ・・・う、うん・・・」
「我が君!起きられましたか!?おい!鈴!金輪際、我が君に手術は駄目だ!」
「あ、あれ!?戦は!?戦はどうなった!?」
「おう!起きたか!完勝も完勝だ!奉行衆の者は何人か脱落してしまったが、甲賀隊は全員無事だ。寧ろ、暴れ足りないと言ってるくらいだ。ほれ!あそこを見てみろ!」
「はぁ!?首!?首!?」
「明らかに格上らしき者の首は、首桶に入れてあるからな!ははは!実に愉快な戦だった!小が大に勝つ方がやはり面白いな!」
「慶次さんらしいですね。他の人達は!?」
「ここからは俺が」
「金剛君か。続けて」
「はっ。明智様、細川様と敗残の三好の兵を散々に追い詰め、かなりの数を討ち取ったようです。大殿は大津に到着しており、明朝までにここへ来ると」
「そっか。筒井の兵は?無傷だったよね?」
「剣城様が敵の首領を討って間も無く、退いていきました。流石にあそこの兵には、追い討ちはかけませんでした」
「甲賀隊や牧村お婆ちゃん達は?」
「それが・・・」
「うん?どうした?」
「「「「剣城様ッ!!!!」」」」
「お、おぉ・・・皆!?どうしたの!?」
「鈴がチクチクチクチクと糸で剣城様の肩を、ボロ雑巾かのように縫い合わせているのを見て、ワッチは・・・ワッチは・・・」
「手前も見ていられなく・・・」
「いやいや、牧村お婆ちゃんや、野田お爺ちゃん達の戦の姿の方が、見てられないくらいだったよ!?何!?あの突き刺すのは!?何!?あの敵をグチャって潰すのは!?」
「談笑してるところ、悪いんだけどねぇ〜」
「うん?あっ、そう言えば・・・」
「まさか、俺ぁ〜達の事忘れてたんだねぇ〜?小便がしたいんだけどねぇ〜。殺すなら殺すでもいいんだけどねぇ〜」
「金剛君?何であそこに雑賀が居るままなんだ?」
「あっ・・・いえ・・・」
「まさか忘れてたの?」
「いや、忘れてなんかおりません!」
うん。金剛君は完全に忘れてたんだろうな。
「よっこらせっと・・・。待たせて申し訳ないです。さて・・・貴方達の意見を聞きましょうか?」
「がははは!我が君!ここは一つ首を刎ねましょう!」
「そうよ!小川の爺の言う通りです!」
「うむ。剣城様の手を煩わせる訳にはいくまい。ここは俺が」
「はい!ストップ!鞠ちゃんも小川さんも青木さんも黙ろうか。誰でも直ぐに殺すとか言わない!一応この人達は降伏したんだから。降伏した者も殺せば、三好のように堕ちた将になってしまうよ」
「俺は堕ちた将だろうと草だと言われても、剣城様を狙った者を許せません。こればかりは、剣城様がどうこう言おうと変わりません。是非俺に首を刎ねる許可を!」
青木さんは暴れ足りないのかな。確かにオレの後ろで少数を、吹き矢と槍で刺していたのは覚えているけど・・・。他の皆とは違って、久々の現場仕事だからな。負い目を感じているのか。頼りになるし信頼しているから、例の村の最重要警備をお願いしてたんだけど、仇となったか。
ここは甲賀隊の人達、皆が弱い言葉を使うか・・・。
「青木さんは暴れ足りないと思うけど、青木さんはこの後に誰よりも(チラッ)大きな仕事が残ってるから(チラッ)そんなイライラしないように!(チラッ)」
「え!?大きな仕事ですか!?」
「うん。この辺はまだ大丈夫だけど、端々の町を見て来なよ。オレはドローンで見たから分かるけど、焼け野原・・・とまではいかないけど、まぁまぁ酷いよ?(チラッ)以前は剛力君達が家を建てたりしてたけど・・青木さんも元は建築班だったでしょ?(チラッ)今回は是非、青木さんにとオレは思っているんだ。(チラッ)それに、元の畿内の覇者は三好だったでしょ?(チラッ)それを贔屓にしてた有能な人も居る訳じゃん?(チラッ)うちには文官が少ないから、誰か探して来て欲しいとも思うんだよね〜?(チラッ)」
「そ、そんな大役を・・・」
「そうだね。大役だね(チラッ)今までは人物に関しては、金剛君が事前に調べたりしてくれてたからね?(チラッ)オレの家臣の中で二つも仕事が与えられるのは、青木さんが初めてだね?(チラッ)」
「権左衛門!良かったではないか!出世だ!おめでとう!元甲賀頭領としてこんなに喜ばしい日はない!ワシより出世して羨ましいくらいだぞ!」
「望月頭領・・・・ぬぉぉぉ!!剣城様!この青木権左衛門、野田殿や小泉殿、後は・・・あそこの爺より、信頼が無いのかと思っておりましたが、杞憂でした!与えられた任は必ずや果たしてみせます!」
「おい!誰がそこの爺だ!ワシは小川だ!筆頭家老の小川だ!」
うん。チョロい。けど、本当に二つも仕事を与えた人は、青木さんが初めてかな。信頼しているからこそ、例の村の警備も任せてたんだけどな。
それと、望月さんのナイス援護だ。オレの意を汲み取ってくれたか。
「まぁそういう事だから、青木さんは信長様が到着次第、事に当たるように。まず否定はされないと思うよ。木材の運搬は大膳君を使って。それでと・・・。明智様や細川様、上杉、浅井など他の隊の人達はどこかな?」
「明智様達は将軍の相手をしてもらっております。剣城様が起きれば、伝えるように言われておりますが・・・」
「うん?何か?」
「いえ。将軍は・・・某は嫌いです」
「オレもあんな人嫌いだよ。まぁとりあえず・・・望月さん。雑賀の人達の縄を解いてあげて」
「おっと?切腹かい?首を刎ねるとか聞こえたんだけどねぇ〜」
「ゴホンッ。オレ達は特殊な立場なんですよね。捕虜という捕虜は今まで相手した事はないけど、その捕まえた人達の処遇は、殆どオレの意見を汲んでくれるのですよ。信長様という人は」
「どういう意味かなぁ?」
「別にここで貴方達を斬首しても、『そうか。ご苦労』で、うちの殿は終わる人です。逆に『家臣にしました』と言っても、『そうか。良きに計らえ』で終わる人なんですよ」
「クッフッフッフッ。面白い殿なんだねぇ〜。それとも信頼されているって自慢かい?」
「自慢ではないですが、まぁ信頼はされていると思いますよ。織田家の中でも指折りに。そのオレが聞きます。希望はありますか?」
「クッフッフッフッ!殺すとは言わないのかなぁ?それにそこにある鉄砲で撃たれると、思わないのかなぁ?」
「あぁ。撃てるものなら撃ってもいいですよ。その瞬間、ここに居る・・・貴方と、怪我を治した人、女の子3人は即あの世行きでしょう。ついでに、明後日までに紀伊国の雑賀惣国、雑賀荘でしたっけ?紀ノ川付近でしょう?まぁどこでもいいけど、まぁ、貴方達が治めている場所は灰燼と帰すでしょう。オレの配下は優秀な人達ばかりですからね」
「雑賀荘にはまだまだ俺ぁ〜の部下が居るけど、そんな易々と殺られるものなのかねぇ〜?」
「えぇ。オレは嘘を吐いても何故か皆にバレてしまうくらいに、下手くそなんですよ。そのオレが嘘を吐かずに、これだけは本当の事だと約束しますよ。オレを殺せば雑賀に連なる人間は女、子供誰だろうと根斬りとなるでしょう。脅して従わせるつもりはありませんが、どうしますか?」
「・・・・・・・」
「まぁ、直ぐには決められないでしょうね。オレは今から将軍に謁見するから、それまでに決めておいて下さい。帰るなら帰る。戦うなら戦うでお好きにどうぞ。漏れなくその時は信長様が出陣すると思います。オレなんかより苛烈で、雑賀荘にはペンペン草も生えないと思いますよ」
「帰る?どういう意味かなぁ?」
「そのままの意味ですよ。敵対しないというなら帰ってもいいですし。鉄砲隊が居ないなら喉から手が出る程、貴方達を欲しますが・・・隼人君。この石を投げたら撃てる?」
「容易いです。いつでもどうぞ」
シュンッ パンッ
「ね?貴方達より優秀な鉄砲隊が、うちには居るんですよね。その事を踏まえて今一度考えて下さい。オレは元来、平和主義なんですよ。望月さん?この雑賀の人達にも飯を食べさせてあげて。あっ、皆も酒飲みたい?」
「いいのですか!?」「我が君!ワシはビールを!」 「手前はウィスキーとジャーキーを!」
「私は久しぶりに酎ハイと温泉卵が食べたいです!」 「・・・ケーキが食べたい・・・」
「しょうがない!皆、頑張ってくれたから大サービスだ!」
本当に皆、頑張ってくれたからGarden of Edenの力を見せる時だな。まぁ、別に今でなくてもいいけど、この雑賀の人達は本音を言えば家臣に欲しい。射撃の腕は本物だし、敵対して常に狙われたりするのは、勘弁してもらいたいからな。
それと、オレの下に着いた方が良い事があると知れば、敵対なんてしないだろう。ましてや米だけじゃなく、ここで甘い物なんてオレにしか出せないだろうしな。
酒やなんかは行商からある程度、紀伊国まで入ってきているかもしれないけど、Garden of Edenで出した食い物は絶対に流れていないだろう。
どれどれ・・・?
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