下卑た笑い

 《緑州 樽ウィスキー》


 効能・・・この道200年の伝統と歴史を持つウィスキー。熟練の技を持つ職人が熟成させる樽一つ一つを厳選し、作り上げた逸品。識者の間では『山先30年と緑州30年は甲乙付け難い』とまで言われている。


 《(株)天照物産 アースガルド産レッドボアのビーフジャーキー》


 効能・・・神界一の物流量を誇るのがGarden of Eden。その双璧を成すのが(株)天照物産。その(株)天照物産が作ったアースガルド産 レッドボアのビーフジャーキー。料理女神監修の元、塩漬け工程に使う塩から厳選し、食べた者の舌を唸らす絶妙な味。


 《神色 ビール100ケース》


 効能・・・その色は金色という他ない。神色ビール。神界で最も消費量の多いアルコールドリンクの一つがこの神色ビール。農業神監修の元、麦にも拘り作られた逸品。


 《アルカディア牛乳のクランベリーケーキ》


 効能・・・動物達の楽園に住む、アルカディア牛の乳を使ったケーキ。トッピングにクランベリーを使用した、特に女性に人気のケーキ。その昔、アルカディア牧人の名も無き下級神官見習いに、おやつとして作られていたこのケーキを、Garden of Eden社がレシピを買い取り、商品化した逸品。


 《金色の長鳴鶏の温泉卵》


 効能・・・かつて、地上へ降り立った長鳴鳥に神格が宿り、金色へと進化した子孫の卵を使用した温泉卵。黄身と白身の割合が9対1というのがその証。温泉卵に限らず、識者の間では『卵を使った料理にこれを使えば間違いなし』とまで言われている。


 相変わらず凄まじい物ばかりだ。そして神界の物流の2巨頭の一つが、Garden of Edenだったんだな。って事は、天照物産とはライバルって事か!?


 ってか、直近の皆にだけ買ってあげるのは可哀想だな。甲賀隊も他の隊の人も頑張ったんだしな。本当なら、大人数でも簡単に捌けるバーベキューが良いけど、さすがに寒いし将軍なんかも居る訳だしな。鍋・・・は手間が掛かり過ぎる。寒い中・・・ラーメンがいいかな。ラーメンなら簡単に作れ、深めの紙皿で渡せるしな。良し!ラーメンにしよう!


 《アースガルド産 レッドボアの出汁を使った豚骨ラーメン5個入り》×1000


 効能・・・ラーメンと言えばこれ。Garden of Eden 袋ラーメンのランキングの常に上位にいるラーメン。識者の間では、『このラーメンにレッドボアのチャーシューを乗せるのが、通な食べ方』と言われている。※レッドボアのチャーシューとセットで、一袋の値段が10%引き。


 おぉ!こういうのでいいんだよ!作り方は湯を沸かして・・・。よし!オレが知ってる普通の袋ラーメンの作り方だな!これなら、甲賀隊の人達も作り方知ってる筈だから、手伝ってくれるよな!幕府の人達は肉を食べるかは知らないけど、欲しい人にだけ振る舞ってあげよう!


 金額は・・・90万と少々か。残金が200万を下回って来たか。また石集めか草集め、もしくは何か換金でもして金策しないといけないな。飛鳥井さんにお願いして、掛け軸でも貰ってみようかな?


 「ぬぉ!?何も無い所から物が!?」


 「ぬぅぁんだぁ!?お前は物怪の類か!?」


 「上泉様!これはオレの技です!それに雑賀!お前にそんな事言われる筋合いは無い!これらは食い物や酒。お前達のもあるから、あそこの大野さんに作ってもらえ。味わって食べろよ?間違いなく、オレの近くにいないと食べられない物ばかりだ」


 「・・・・・」


 「そういう事だから、望月さん。大野さん。申し訳ないけど、皆に振る舞ってくれます?袋ラーメンだから作り方分かりますよね?はい、これは凛ちゃんのケーキだよ。小川さんはビールね。青木さんはジャーキーと・・・」


 「むほっ!ムホホホホッ!こんなにもビールは頂けるのですか!さすがは我が君!太っ腹ですな!」


 「はぁ!?皆で分けるんだよ!何でこれが全部、小川さんのになるんだよ!」


 『ノア。今回も頑張ってくれたな。ありがとうな。ノアには特別に・・・前に買っておいた、ミーミルの泉だったかな?そこで取れたキングベヒーサーモンっていう、5メートルくらいあるサーモンだ。神界ではポピュラーな魚なんだろう?あそこの大野さんが、姿焼きを作ってくれてたのを収納してたんだよ』


 『キャハッ♪剣城っち♪ありがとう!これ食べるの久しぶりなんだぁ!』


 『そうか。小川さんのロザリーヌや半兵衛さんの妙子達と仲良く食べるように!』


 ヒヒィーンッ!


 「お、おいおい!妙子ちゃん!?待って!待ってくれ!」


 「おぉ・・・ロザリーヌ!?何で我が君に甘えるのだ!?ワシにも擦り寄って来い!」


 ペッ


 「まっ、まぁとりあえず皆は皆でやって下さい!オレは将軍に謁見してきます!」


 「「「御意ッ!!!」」」



 オレは本圀寺の中へ入ろうとしたら、ミヤビちゃんが現れた。


 シャルルルル〜


 「おっと!?ミヤビちゃん!?居たの!?」


 「ずっと居ましたよ!それより金輪際、一騎打ちなんて止めて下さいね?私の居る理由が無くなります。それに剣城様に何かあれば、私はゆき姐様に殺されてしまいますし」


 「いや、ゆきさんはそんな事しないでしょ!?」


 「そうだとしても、私が悔やんでも悔やみきれません!兎に角、今後は一騎打ちはダメです!それと、新しいお召し物です。その姿で内部へ入るのは・・・」


 「分かったよ。今後は気を付ける。新しい服?確かにベヒーモスーツで入るのはダメだな。ありがとう。うん?これは?ジャージ?」


 「はい。チャックは未だ作れないそうで、着物のような形だそうです」


 「ありがとう。着替えるよ」


 「手伝いますよ」


 ミヤビちゃんはオレのちょっとした雑用や、着替えをいつも手伝ってくれる。だが、命のやり取りをした後だ。何度か戦を経験したから分かる。命のやり取りをしたら、何故か性欲が掻き立てられるのだ。


 「あっ、今日は自分で着替えるからいいよ!って・・・ちょ、ちょっと!」


 「ふふ。構いませんよ。男性は戦の後は大体、猛ってしまう事は知っています」


 ミヤビちゃんは正直に・・・エロい。胸こそ、そんなに大きくはないが、身体付きは普段から鍛えているせいか、引き締まっている。いや、いつも真っ黒の戦闘服を着ているから、裸を見た事ないから分からないがオレには分かる。

 しかも着替えを手伝ってくれる時は、いつもオレの愚息にわざと触れるか触れないか、くらいの手捌きなのだ。

 

 「ちょ!ミヤビちゃん!勘弁してくれ・・・。ゆきさんが居なければ抱いてしまうじゃないか!」


 「クスッ。私は、ゆき姐様が許してくれるならば、いつでも構いませんよ?私は旦那を持つつもりはないですし、死ぬまで剣城様の護衛ですから。ですのでさっきも言った通り、護衛の意味を無くすような行動は、謹んで下さいね?(チョン)」


 ミヤビちゃんはそう言うと、愚息を少し触り、オレにズボンを履かせてくれた。


 「マジで・・・勘弁してよ!溜まってる事を知って言ってるんだろう!?もういいよ!ありがとう!じゃあ行ってくるよ!」


 「(クスッ)すいません!頑張って下さい!」


 オレは、ミヤビちゃんのエロい姿を考えないように、気分を落ち着かせて将軍の居る奥の庵へと向かった。

 

 「うをっ!?し、芝田様!?お身体は問題ないのですか!?」


 オレを見て将軍付きの人が驚いた。


 「えぇ。問題ありません。明智様達は中で?」


 「え!?あっ、はい!暫しお待ちを」


 オレは扉の前から分かる。酒盛りしてる事を。酒の臭いがプンプンしている。それと、女の香の匂いもしている。女の匂いはオレじゃなきゃ見逃してしまうだろう。


 「ど、どうぞ!お入り下さい!」


 初めて会う人だが、何故かオレを敬うような感じがするな。


 「外でオレの配下達が始めているから、後で貴方にも何か持ってくるように言いますよ。ご苦労様」


 「は、はい!ありがとうございまする!」


 本当にこの人はどうしたんだ?大体は、軽視な感じでオレに接する人が多いのに。まぁいいか。


 「織田軍 芝田様 入ります」


 「うむ。通せ」


 「失礼します。怪我の治療を受けて遅れました。それに着陣の挨拶にも参られなく、申し訳ありません」


 オレは社交辞令でも、極めて丁寧な言葉で挨拶をした。まぁ中は細川さん、明智さん、後は知らない人達数人が飲食していた。飲食と言っても、将軍以外の人は姿勢良く、とても酔っているようには思えない。将軍はって?此奴はダメだ。女を両手に5段程、高い畳の上に座っている。信長さんですら、畳2段だというのに。

 

 「苦しゅうないぞ!敵も大軍だった故、挨拶に参る刻も無かったのであろう?だが、今後は挨拶を疎かにせぬよう心掛けよ。うん?其方は・・・?」


 「はっ。以後、気を付けます。私は何度かお会いした事がございます」


 「そうだったよのう?確か能書きの多い者だったな?よもや、このような戦働きもできるのだな?」


 クッ・・・。やはりこの人はオレは嫌いだ。ナチュラルに、人を馬鹿にしたような話し方をしてきやがる。


 「配下の方や明智様や細川様達、奉行衆の方の奮戦が功を奏しました。その節はありがとうございます」


 「うむ。本来ならば、勝手に予の軍勢を率いたのだから、手討ちにしても良かったのだが、そこは目を瞑ろう。して、明智や細川から聞いたが、一騎打ちをしたとな?」


 ってか、いい加減、頭を上げさせてもらってもいいんじゃないの!?ずっと土下座のような形で話さないといけないのか!?


 「はい。三好の3将は手前が一騎打ちにて。軍の方は先に言った通り、各々の奮戦にて蹴散らせました」


 「そうか。大儀である。だがそもそも、三好が攻めて来るような警備が、ダメなのではないのか?お前の配下の大工衆の仕事は、素直に褒めて遣わす。だが将軍を守るという栄誉を、お前は履き違えておるのではないのか?」


 「・・・・・・・」


 「普段は黙して将軍である予を守り、予の号令が掛かれば、いつ如何なる戦場、敵にも突撃するのがお前の役目ではないのか?御父、信長公にもその事を言わねばなるまい。それで、信長公はまだ来ぬのか?」


 「道中、雪が積もってましたので、少し遅れているだけかと・・・。夜明けまでには到着すると伝令が届いております」


 「はぁ〜。信長公もどうしたものかのう。予が討たれでもすれば日の本の損失だというのに。皆の者もそうは思わぬか?のう?細川?」


 「はっ。将軍様が居てこその日の本にございます」


 「そうであろう?和田、伊丹、池田はどう思う?」


 「我等は摂津を放棄してまで駆け付けました。まさか三好の逆賊が将軍を襲うなどとは・・・。我等が摂津を放棄してまで駆け付けた理由は何故か。そう問われれば、至上の方である将軍様をお守りせねばと思い、故の行動でございます」


 何が至上の方だよ。恐らく三好軍は摂津にも行こうとしてたところ、オレ達の事を聞き急遽こちらに戻ってきたのだろう。だから午前中は姿が見えなかったのだろう。摂津を襲ってるって話は聞いていないし。

 この人達も体良くお守りとか言ってるけど、要は摂津を守りきれる自身が無いから、そんな風に言ってるだけだろうが!この3人はおべんちゃら組か。


 「芝田と申したな?こういう者達こそ忠臣というのだ。以後、お前も気を付けておけ」


 「はぁ〜。」


 「なんぞ不満なのか?うん?」


 「いえ、何もありません」


 心の中で溜め息を吐いていたつもりだが、現実でも溜め息が出てしまったようだ。


 「おっ?そういえばお前の軍は草の集団だとは聞いておるが、銭で動くというのは本当なのか?」


 将軍は閃いたような顔をして話題を変えてきた。明らかに小馬鹿にしたような物言いだ。


 「えぇ。私の軍は俸給として銭をお渡ししております」


 「そうか。これだから下賤の者は好かんのだ。よもや、将軍を守った者が草だったとは末代までの恥晒しだ」


 オレは瞬間的にアドレナリンが出たのが分かった。望月さんや小川さん達がお前を守ったのに、その言い方は何だ!と思った。

 オレが我慢できず、頭を上げて掴み掛かろうとしたところで、明智さんと細川さんが前に出た。


 「まぁまぁ。そう将軍も言わずとも。その草の者も我等と同じ人間ではないですか。銭で動く者を上手く纏めているということは、それだけ芝田殿には財力があるという事ですよ?」


 「うむ。某もそう思います。我が細川家で、あれだけの者を動かす財力はありませんからな!それに細川家としては、少し人を融通して欲しいくらいに、優秀な者も多いですぞ!」


 一昔前なら、戦国武将にこんな考えの人は居なかったんだろうな。ここでオレがキレたら、折角のイメージが台無しになってしまう。それどころか、信長さんにも咎が出るんだよな。後で2人にはお礼を言っておこう。


 「だが、草であろう?野伏や野盗とそう変わらぬのであろう?」


 我慢しようと思っていたところに、また馬鹿にするような発言・・・。もう許さん!


 「おい!将軍・・・・」


 バタンッ!!!


 「織田様ッ!!!まだ先触れを・・・」


 「そんなの構わん!将軍!遅参の段、御免なれ」


 「おぉ〜!信長公か!良い!良い!今し方、配下の者に褒美をとな!まぁ座りなされ!ゆっくりと遅れた理由を聞こうではないか!」


 ポンポン


 オレが立ち上がったと同時に、信長さんが現れた。それと同時にオレの肩を軽く叩いた。言葉こそ無かったが、オレには理由が分かる。一つは『御苦労』。もう一つは『堪えろ』だと、瞬時に分かった。


 「それは異な事。これでも色々と急いで参ったのですがな。雪の中の行軍。通常ならば4日と掛かりましょうや。ですが、ワシは1日で参ったのですぞ」


 「う、うむ。確かに遅れたとは言えぬな。だが、そちの家臣は直ぐに参っておるぞ?」


 「フッハッハッハッハッ。いや失礼。この者は織田軍でも特殊でしてな。即応軍なる部隊でしてね。いつ如何なる時も出陣できるように美濃や尾張でもこの者達は準備させておるのです」


 いや、それは佐久間さんじゃなかったっけ・・・。


 「即応軍・・・。初めて聞く」


 「読んで字の通り。それより、我が家臣の者を笑い者にしようと聞こえたが、如何に将軍とてそれは許しませんぞ?将軍は少し酔ってらっしゃるのでは?それに戦で気分が高まっているのでしょう。美濃の選りすぐりの女子を3人連れて参りました。御堪能あれ」


 「ムホッ!ムホホホホッ!良い!信長公は分かっておる!今宵は予は下がる!後は各々の好きにやれ!三好は足利の威光にて敗走した!」


 将軍は下卑た笑いをし、部屋を退出した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る