毒牙にかかる

 「皆揃いましたね。では輿入れの概要を言います」


 オレは戦神様(本当は農業神眷族)に言ったように皆に説明した。イルミネーションとポータブル電源の使い方も言ったが・・・。やはり皆驚きの声だ。


 「光っておる!何ぞ!?」


 「なんと!?伸び縮みするのか!?」


 「あたいこんな物初めて見たよ!これは何だい!?」


 「説明すると長くなるから・・・簡単に言えば電気を使い光の物質?を点灯してるだけですよ」


 「光の物質?って何で剣城が疑問系なんだ?」


 「いや、本来の電気ではない物だから・・・。まぁ、そこはどうでもいいんです!これをこの様に連結すれば・・・小谷城まで余裕を持って繋げられます」


 「何!?近江までか!?」


 流石の慶次さんもビックリしてるな。驚け!慄け!ふはははは!


 「剣城さまッ!!!」


 ぺちっ!


 「あっ!?え!?ゆきさん!?」


 「ゆき!違う!もっと強くビンタするのだ!」


 「けど、剣城様が・・・」


 バチンッ!!!


 「痛ッ!!分かった!お菊さん!もう大丈夫だから!」


 「ははは!変わらねーな!」


 聞けばいつものオレの内なる者が出そうになれば、今後はゆきさんが食い止めてくれると・・・。なんでも普段のオレの警備も、ゆきさんとお菊さんが二人で行うと。


 「だから最近外出して帰ると、足拭いてくれるのがゆきさんになったのか」


 「は、はい!これからも一生懸命綺麗にします!」


 「おうおう!惚気るなら後でしてくれい!それで、俺達はどのように動けば良いのだ?」


 オレは500m間隔に完全武装した人間を配置し、まあお市さん達にも万全な警備はするけど、小谷城までオレの配下を配置すると言った。


 「信長様からも『警備に使う人は何人でも使え』と言われてるから、まあ、まずこの集団が襲われる事は無いと思うけど念には念を。二人一組で立ってもらいます」


 「確か馬車ならぬ大黒剣を使うって言ってたよな?」


 「そうです。大黒剣の運転は・・・信長様とオレです・・・」


 「え!?」「おっ!?」「はい!?」


 「大殿がですか!?」


 「説明は長くなるから割愛するけど、ドントシンク!フィール!!」


 「まあ大殿らしいな。これはまた戦より厳しそうだな」


 「隊列は慶次さんに任せます。オレもこれから古代中国の戦の本とか読み、勉強しますので今回はお願い致します」


 「中国・・・明だったな?まあ少しずつ覚えていきゃいいさ!」


 「そういえば潮目がどうとかって言ってた事は?」


 「どんな負け戦だろうが潮目というものがある。攻め時、狩り時、勝ち時、退き時、撤退時とな」


 「攻めと狩り時って同じじゃないの?」


 「そこだ。攻め時は脱兎の如く敵本陣まで攻めるのだ。狩り時は兵士を減らす謂わば一つの作戦だ。他にも色々あるがその都度言ってやるさ」


 「へぇ〜!戦でも色々あるのですね」


 「まあ戦で分からない事は俺に聞け!剣城が言うには天下無双だったか?その天下無双の将にしてやるよ」


 響きはカッコいいけど、現代人が聞けば黒歴史間違いないだろうな。


 それから女の子達は、行きにお市さんの身の回りの世話、服や化粧直しの事を言い、大野さんにはオレのジオラマの部屋で、ケーキ作りをしてもらう。


 完成した物をタブレットの収納に入れ、向こうで出すからだ。後は皆の服装だな。


 「金剛君?お菊さん?この服を新たに来た人達に」


 「これまた大量ですね。了解致しました」


 「それと、剛力君?悪いけど小谷城までの道のりの件と相手の方は?」


 「はっ。大殿の小姓の方達と話を付けてあり、向こうからの了承も得ています。ただ大殿の支配地までしか道は滑していませんので、そこだけは注意が必要です」


 「うん。そこはオレも無理だとは分かっているから。何を見ても騒がないようにだけお願いね!信長様も剛力君には一目置いてるみたいだから!」


 「勿体のうございます。ではこれにて作業に戻ります」


 オレに過ぎたる者の一人は剛力君だな。


 「金剛君?一つ気になる事があるからついてきてくれる?お菊さん達は小見さんにもちゃんと伝えて、連携取るように!」


 「「「はっ」」」」


 オレは皆と別れてタイムスリップした森に向かう。


 「金剛君?蚕って知ってる?」


 「蚕・・・天蚕の事でしょうか?」


 「うん?それは蚕と違うの?」


 「いえ、某は剣城様がお出しした書物しか拝見していませんので、正確には違うかもしれませんが、ヤママユ蛾に属する幼虫です」


 おっと!?ここで色々な本を出したから、学者みたいな言葉が出たぞ!?


 「ごめん。そこまではオレも詳しくないから、実物って近くにいる?」


 「足元におりますよ」


 「え!?これ!?この緑っぽいのがそうなの!?」


 「はい。こいつは剣城様の居た未来?の人間の手がないと死んでしまう蚕とは違い、しかも桑の葉ではなく、クヌギで育ちますよ」


 って事は・・・このポツポツ落ちてるのって・・・全部そうなのか!?てっきりオレは何かの実かと思ったんだけど!?


 「それと・・・先程いただいた我らの仲間の服の中に、見やすい字と絵でこんな物がございました」


 金剛君がそう言うと三枚の普通の紙を渡された。意識せずに見ると何を書いているか分からないが、文字に目を向けると何故か書いてる事が理解できた。


 【さっきはありがとうね?気に入ってくれたかしら?私も先読みの権能があるから見ちゃってね?まあそこは許してね?それで貴方がしようとしてる事に役立つ物だと思うの。説明も入れてるから職の無い女性の仕事にしなさい?私、商業神の様な女性軽視する事が嫌いなの。貴方の様な考えは嫌いじゃないわよ?女が男を喜ばせるだけの世界にはしないでね?期待してるわよ?】

 

 読み終わると、読み終わった手紙が煙になり、目の前に木で出来た何かが現れた。


 芸術神様からの手紙だったのか。確かに女性の神様だから、人間の女にも優しくするのかな?何に使うか分からないけどありがたいな。


 「金剛君?とりあえず何匹?何個?かその天蚕だっけ?持って来てくれる?」


 「はっ」


 金剛君が足元にいた10匹を持って来てくれた後、一度家に戻り説明書を見ようとすれば、外からガヤガヤ聞こえだす。


 「つ、剣城様!よろしいでしょうか!!?」


 「望月さん!?そんな慌ててどうしたのですか!?」


 「そ、外にお願い致します!!」


 慌ててるからオレも急いで外に出たが・・・。


 「こんなにどうしたのですか!?」


 「いえ、某も300人前後かと思いましたがこれは・・・」


 いや別に何人来てもいいよ!?言葉悪いけど、手駒が増えれば出来る事も増えるし配下も増えるし、強くなれるから。けどこれは1000人とは言わないけど多過ぎだろ!?


 「望月さん!?この人達って甲賀の人達ですか!?」


 「はぁ〜・・・。ほとんどの家の惣領が見えます。剣城様!!申し訳ありません!!これ程の人を食わすのは・・・」


 いや食わすのは問題ないけど、なんなら昨日から一気に色々な物植えたから、明日には収穫できる筈だから・・・。けど家が・・・剛力君は輿入れの件で忙しいし。


 「望月さん!喜びましょう!こんなに慕って来てくれたのですよ!食わす事は問題ないです!オレは危惧してるのが、暮らす家がさすがに足りないかと・・・」


 「何だ!?何だ!?何の騒ぎだ!?」


 「敵襲か!?我が君はどこに居られる!?喜八郎!ワシのハルモニアのスーツを!ってあれ!?おい!お主・・・」


 「おい?剣城?こんなに沢山の人、面倒見れるのか?」


 そう声を掛けてきたのは、村の村長代理の権助さんだ。


 「いや正直オレもビックリしています。権助さん、申し訳ないですが米の方は多めに植えてくれますか?例の肥料も遠慮なく使ってくれて構いませんので」


 「いや、それは構わないが・・・。いやぁ〜変わったな?寂れた何も無い開拓村だったが、今やこんなにも賑やかになって・・・。まあ、甲賀の者は剣城の事だ。とやかく言うまい。米や果物の事は気にしなくて良い」


 「すいません。お願いします」


 とりあえず挨拶しておくか。家はとりあえずゲルテントにでも。


 「皆さん!よく参られました!甲賀の人達で良かったですね!?」


 「押し掛け申し訳ない。望月頭領の話を聞き、北畠からの仕事が終わり帰ると事情を知り・・・」


 「中伊勢のご活躍は耳にしております。滝川から拙者は話を聞き・・・」


 「皆さんの事情は望月さんから聞いております。また落ち着けば言いますが、まず食べる事に苦労はしないように致します。仕事も色々ありますが、正直こんなに来るとは思っていませんでしたので、私が振り分けしますが構いませんね?」


 「食い扶持をいただけるなら何でも致します!」


 「貴方、お名前は?」


 「北山九家が一つ。大河原鉄斎と申します」


 「では大河原さん!貴方はさっき小川さんと誼がありそうでしたので、小川さんの隊に入るようにお願い致します。何をするかは小川さんに聞いて下さい!次の惣領!」


 「北山九家の隠岐俊蔵と申します」


 「貴方は野田さんの下に!次の方!」




 「疲れた・・・・」


 「・・・・水です。どうぞ」


 「うん?ゆきさんありがとう。生き返ったよ」


 とりあえず国友さんにも芳兵衛君にも振り分けしたから、暫くは停滞するかもだけど、徐々に仕事こなしてくれるだろう。


 「・・・・・・」


 うん?なんかさっきと違ってゆきさんは静かだな?あれ!?ゆきさんの芳(かぐわ)しいローズマリーシャンプー

の匂いじゃないな!?


 「剣城様?後は身寄りの無い草の者でございます。それと少しよろしいでしょうか?」


 「望月さん、どうしました?」


 「いえ、何人か山中や六角と誼がある者が見えましたので・・・」


 「う〜ん。疑い出せばキリがないですからね・・・」


 「剣城様!御免!!」


 ブシュンッ!


 「何奴だッ!?貴様、偽りの術を使っておるな!?正体を現せ!」


 「剣城様!?」


 「うん!?ゆきさんが二人!?・・・・もう一人は・・・ゆきさんじゃない!?誰だ!?(ゲーッ)・・・気分が悪い・・・」


 バタンッ。


 「「「「「剣城様!?!?!?」」」」」


 「クッハハハハ!!これであんたらは終いさね!六角様、山中様を裏切り織田に着こうなんざ、信雅も耄碌したか!?」


 「貴様は!!」


 「剣城様ぁぁぁ・・・・・」


 「ゆき!泣くのは後だ!早く鈴や鞠を呼んでくるのだ!!!急げ!!」


 「無駄無駄!私が考えた櫁(しきみ)と深見草(ふかみそう)を合わせた毒さ!キャハハハハ!私ですら解毒方法が分からないくらいさ!おい!あんたらも早くしな!」


 「「「オ──────ッ!!!」」」


 ボッ、ボッ、ボッ。


 「鉄斎!貴様、まさか・・・」


 「ふん!我(われ)が貴様の下だと!?笑わせるな!我(われ)の殿は昔から六角様だ!」


 「あぁ〜・・・。なんということだ・・・」


 「昔のあんたならこんな接近許さなかったが、やはり老いとは怖いもんだな」


 「隠岐!!貴様もかッッ!!!」


 「ふん。これでお前らはここには居れぬな?素直に六角様に従っておればよいものを。大身の出身で、観音寺城の在番まで務めた家でありながら、六角様を見限る青木の馬鹿と俺は違う」


 「クッ・・・・・・」


 「ふん。出て行く先を考えて家を捨てるんだったな?頭領?よし!ずらかるぞ!」


 「おい!この騒ぎは何だ?剣城?剣城ぃぃぃ!!!?おい!早く火を消せ!!」


 「慶次様!あの3人が・・・あの3人が・・・」


 「菊!分かった!お前は剣城に誰も近付かせるな!おい!松風!!」


 ヒィィィィーーーーン!!


 「なに!?ノアも一緒に来るのか!?さっき居た人間3人だ!殺さず捕まえるぞ!ハイヤッ!!」


 「あぁぁぁぁぁ!!!!我が君ぃ・・・」


 「一蔵殿・・・」


 「あぁ。権左衛門殿・・・」


 「「許すまじ!!」」


 「頭領ぉ!頭領ぉ!望月頭領ぉぉぉぉ!!!」


 「・・・・・・すまぬ。剣城様に会わす顔がない・・・。菊?ゆき?剣城様の目が覚めれば、望月が謝っていたと伝えてくれぬか?他の者の潔白を証明致す」


 ガキンッ!


 「頭領!剣城様は切腹なんか望んでおりません!そんな事考えるなら早く火を消して下さい!!」


 「お待たせ・・・え!?剣城・・様・・!?」


 「鈴!!櫁と深見草の毒だ!」


 「嘘・・・・?いつ盛られた!?」


 「さっきだ・・・と思う。水を飲んでからおかしくなった」


 「剣城様が出した薬は効かないの!?」


 「剣城様が松平様との一揆の時に全部持って行ったのと、岐阜の大殿の為に・・・近々補填するって言ってたけど今は無いの・・・」


 「あぁ・・・なんて事・・・」


 「家に運ぶよ!!菊も手伝って!!!鞠!剣城様に出してもらった聴診器のゴムと、血圧を測るゴム球直結させる。胃の内容物を物理的に出すよ」


 「え!?そんな事できるの!?」


 「できるできないじゃないの!!やるの!貴方も深見草がどれだけ危ないか分かるでしょ!!あの医術の書物、貴方も見たでしょ!毒は体に回る前に排出するの!櫁で意識混濁させて深見草の毒を混ぜられてるから自力で吐けないの分からないの!?」


 「分かった!皆も呼んでくる!」


 「急いで!・・・・剣城様、私が絶対に治します!絶対に!絶対に!!」

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