遠藤さんのランニング

 次の日の朝、俺はすぐに信長さんに例の家の事を伝えた。


 「なぁぁ〜〜にぃぃぃ〜〜!?ワシが知らぬ間に新しい家だと!?それも外より中が広いだと!?」


 ブチギレして巻き舌がやばいんだけど!?


 「昨日出したのですが思いの外帰るのが遅くなり…」


 「それは貴様が遊び惚けておるからだろう!?今すぐ行く!遠藤ぉぉぉぉ!!!!!ワシのいーじすを持てい!」


 「はっ!」


 そこから珍走団ですか!?って勢いで信長さんはイージス、俺は大黒剣、遠藤さん全力疾走、で頑張って信長さんに着いて行ってたんだが、急に信長さんが止まる。


 「して、貴様の家はどこじゃ!?」


 いや、あんたが俺に家プレゼントしてくれたんじゃなかったですか!?何で場所知らねーんだよ!?


 「ハァーハァー・・・。お館様、こちらでございます。ハァーハァー」


 「遠藤ぉぉぉ!貴様たるんでおるッ!!!」


 いやムゴい・・・。遠藤さん?後でスポーツ飲料あげるから頑張・・・いや、やっぱ袴の件で笑われたからあげるのやめよう。ずっと走りまくれよ!!!


 俺も場所は覚えてたが遠藤さん先頭で走り、家に着いた。


 「何じゃ?どこに未来の家があるのだ?」


 「こっちの横の家です」


 「うん?別に変わった家ではないじゃないか?清洲の大工に作らせたんだろう?」


 「入れば分かります」


 「おっ、お館様!剣城殿、おはようございまする」


 「沢彦か。朝から何じゃ?」


 「拙僧が剣城殿に教育を頼まれましてな?一日早いがこの書物も見ると分からない文字が多数あり、年甲斐もなく居ても立っても居られなくなりましてな」


 「ふん。さすが沢彦じゃ。暫し待てい!今からワシが未来の家を確認してまいる!」


 「沢彦さん、おはようございます。わざわざありがとうございます。ちょっと信長様に家を紹介するので、こちらの家でお待ち下さい。あと、信長様にも紹介致します」


 全員外に並べさせて男衆は慶次さん筆頭に、金剛君、剛力君、女衆はお菊さん筆頭に、琴ちゃん、奏ちゃんと紹介をした。


 「ほう。中々良き名を貰ったな」


 「ははー・・・。もも、勿体のうお言葉でございます」

 

 金剛君!過呼吸気味になってるぞ!?大丈夫か!?


 「ふん。さすが貴様の配下だ。出会った頃の貴様とそっくりじゃ。励め!」


 「「「はっ!」」」


 「ヒィ───ッ」


 おい!金剛君!!!!みっともないぞ!!!1人だけ返事がおかしいぞ!!!!!


 「琴ちゃん?この沢彦さんって方は大変素晴らしい、俺のこの時代の人生の指標にしたいくらいの人格者様なので、丁寧におもてなししてあげなさい。なんなら朝ごはんも作ってあげなさい」


 「分かりました。さ、沢彦殿。こちらへ」


 「拙僧は人格者でもなんでもない。普通に接してくれるので良いよ」


 普通の返答だが沢彦さんの言葉はなんか耳に残るな。それとやっぱ琴ちゃん、やる時はやってくれるな。ちゃんとしっかりしてそうな金剛君がダメ寄りのダメだが。


 それから俺は、未来の家の方に信長さんを招き入れ説明をした。一応念のために例のロッカーも試したが、全然動く気配がなかった。気になる武器庫の事だが、意外にも信長さんはあまり興味を示さなかった。その事を聞いて返ってきた言葉が・・・。


 「ふん。部屋は確かに外から見るより幾分広く見えるが、驚く程ではないのう。それに未来の武器と申したか?あんな姑息な武器ばかりとは残念だ」


 「姑息ですか?確かに吹き矢や手投げナイフみたいなのが多いですけど・・・。けど、本来は銃が主流です。あれはこの時代の武器を模倣した様な物ですよ」


 「飛び道具全部が姑息とは言わぬが、ここにある武器は集団戦では使えん物ばかりだ。不意打ちくらいでしか使えん。貴様の配下にでも持たせろ。刀も脇差しに毛が生えたくらいの長さだ。斬れ味は良さそうだがな」


 「分かりました。私が運用させてもらいます。最後はこちらの円卓の間です」


 「「・・・・・・・・・・・・・」」


 信長さん、何で急に黙り込むんだ!?それに遠藤さんも!!?


 「どうかされましたか!?」


 「この台は何じゃ?それにこの台の前に並べてある物は何だ!?」


 「あぁ!これは椅子でこういう風に座ります。座り心地いいですよ!」


 「いや、椅子くらいは南蛮にある事くらい知っておる!馬鹿にしておるのか!?ワシが言うておるのはこの掘ってある方だ。刀の様な形だが?」


 いやあんたが聞いてきたんでしょうが!?


 「お館様!これはこのように座り、刀もこうやって置くのではと愚行致しまする」


 遠藤さん・・・。余計な事を・・・。こういう時は最初に信長さんが行わないと機嫌悪くなるの知ってるだろ!?


 「・・・・・・・・」


 案の定プルプルしだしたよ・・・。小声でお菊さんにお願いする。


 "お菊さん・・。この前渡したカルピスを、お湯で割って早く持って来て"


 "了解です"


 「遠藤?ワシは座って良いと許可したか?ん?それにここは剣城の家だな?ワシの小姓が礼儀も知らぬとは思わなかったぞ?ん?」


 「はっ・・・剣城殿!申し訳ありません!!見た事ない物で興奮しておりました。お館様様、すいま──」


 「今すぐに城とこの家を往復してこい!!!」


 「はっ!かしこまりました!」


 ブラックだ・・・。




 「お館様様、下賤の手からですが申し訳ありません。カルピスお湯割りでございます」


 「ふん。貰おう。貴様、名は?」


 「滝川様配下、菊と申します」


 「良い動きだ。此奴の護衛、ちゃんと果たすのだぞ」


 「はっ。命にかえましても」


 いや、今のカルピス渡す動作の一連に良い動きなんかあったのか!?分からん・・・。オレには分からん世界だ。


 「・・・甘い・・貴様!!?こんな甘い飲み物、まだ隠しておったのか!?」


 「え!?いや隠してなんかありませんよ!この家の皆はまだ子供だったので飲ませてたほ──」


 「能書きはいい!貴様も遠藤と走るか!?ん!?」


 「信長殿もその辺にしておきなさい。剣城殿が困っておりますぞ。隣の家まで声が聞こえておりますぞ」


 「沢彦か。ふん。まあ良い。このかるぴすとやらを今日中に小牧山城でいつでもワシが飲めるように準備しておけ。明日には移動する」


 「明日に引越しですか!?・・・分かりました」



 それから30分程、沢彦さん信長さんオレでカルピスを飲みながら雑談していたら、遠藤さんがゼェーゼェー息を吐きながら帰ってきた。さすがに可哀想だったので、ただの水を渡してあげるようにお菊さんに言った。


 「遅い!日頃から鍛えておらぬからだ!」


 いや、遠藤さんめちゃ早かったと思いますよ!?日頃からかなり鍛えてると思いますよ!?あのコシヒカリ食べ出してから城の人皆、見違えるくらいマッチョになってません!?


 「して、この丸い台と椅子は何か意味があるのか?」


 「これは上座、下座が無く身分や立場を気にしない様に作られ、南蛮ではテーブルと言います」


 「では誰が話の進行をするのだ?」


 「ここからは私の推測ですが、剣をあの窪みに置き、誰が進行とかそういう事をしないように、作られたテーブルだと思います。各々の意見を身分関係なく出し合い、その意見が仮に最良だとして最高の結果が出たとしても、皆の功績になります」


 「ほう。中々に面白いな。いつかワシが城を築城する時に作るとするか。あれは何と言う名だったか?」


 「円卓と言い、あの席に着く者を円卓の騎士とも言います。この日の本で言うなら・・・円卓の侍でしょうか」


 「なら円卓の侍と名付けよう。ついでじゃ!もう昼餉に近いだろう?何か用意しろ!出し惜しみをせずにな?」


 笑顔の下に狂気が宿ってる信長さんの、脅迫に近い出し惜しみをしない料理を、琴ちゃんにお願いして村で量産されつつある、卵を贅沢に一皿二つも使ったオムライスを出してもらった。


 「貴様はこんなに美味い物を配下に教えておるのか!?」


 「剣城殿?飯中に口を開くのは失礼だがこれは誠に美味いですな」


 「沢彦さんの口に合って良かったです。ちなみにこれは全部尾張の物で作ってますよ。やっと食も色々広がってきました」


 「食が広がるのは良いがワシは初めて食べたが?」


 いや初めて食べたが?じゃねーよ!子供か!?


 「信長殿もその辺にしなされ。これから徐々に色々な食を堪能すれば宜しい。拙僧は信長殿程、刻が残されておらぬから少々急いで色々食べないといけませんがな。ははは」


 「沢彦が食の事を言うのは初めてだな。その命尽きるまで仏とワシに仕えよ!此奴に良く着いて居れば冥土に行くまで色々な物が食えるぞ」


 沢彦さんには甘々だな。やっぱ沢彦さんの人柄だな。信長さん・・・。オレ、ご飯屋さんじゃないですよ!?

 

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