第5話 就職への道

 僕の住む街に、南部就労支援センターがあります。


 白いうさぎ(仮名)と呼ばれる精神障害者に仕事を斡旋する団体です。僕は去年からこの白いうさぎに登録して就活しています。


 まず行ったのはメンタルクリニックからの筑根先生に書いてもらう、意見書と呼ばれるどれ位僕が働ける能力があるのかの判断の書類です。


 この意見書を書いてもらい白いうさぎに持ち込み担当の東田さん(仮名)との面談になります。筑根先生の意見書には週4日、20時間~30時間の就労が可能だろうと書かれていました。この時、就労不可の意見書が出ると働けません。


 次に行ったのは履歴書の制作です。驚かれるかもしれませんが僕はこの履歴書を書いた事が無いのでした。兄の経営している日の出屋でしかまともに働いた経験が無いのです。


 19歳の時に家出をしてアルバイトしたのと、1年くらい修行の為知り合いの会社で働いただけで後は日の出屋オンリーで来たのです。履歴書はいりませんでした。


 日の出屋では数え切れない程面接しましたが、受ける経験が53歳にもなって初めてなのです。


 履歴書を書くのには苦労しました。


 日の出屋のナンバー2気取りで生きて来たツケだと反省しました。取締役営業部長の肩書など何の役にも立ちません。むしろ敬遠されるでしょう。


 川崎の業界では僕も知られた存在なので同業者には就職出来ません。僕が営業で入れば嫌でも日の出屋と闘わなければいけません。兄に恩が有るので喧嘩だけはしたく無いのでした。


 履歴書を完成すると、今度はハローワークで受付票を作りました。このカードで仕事の検索する機械を使用出来ます。


 東田さんに同行して頂き、僕の希望の就職先を検索したら0件でした。「やっぱりな」と言うのが感想です。


 東田さんにハローワークを通さないで、個人で履歴書を持ち込み仕事を探したいと相談したところ「川崎は精神障害者に理解が無いから面接しても自分が傷つくだけ。やめておいた方が良いです。」と諭されました。


 この後、僕は大変な事に気が付くのでした。

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