第95話 ベルケの反撃

「全機突入せよ!」


 ベルケは自らが操る機体を振り、手信号で命じると部下達が操る一一機の戦闘機は一斉に散開して皇国軍の航空基地上空を制圧した。

 忠弥は撃墜されたベルケは一時、隊長としての技量に疑いを持たれ職を解かれた。

 だが、ベルケ以上の航空機知識を持つ者が居なかったため、何より不屈の闘志で空に戻る意志を示し、病院を抜け出し航空隊に復帰すると再建の先頭に立った。

 一将校だったが自分の家財を投入――貴族の党首であったため領地や農場をなどを持っておりそれらを全て質にして金に換えて航空隊の再編を達成した。

 その姿を見た者達は、全員がベルケを隊長に認め、飛行隊の隊長へ再就任し、航空隊の全権を握った。

 そして再建なった航空隊による最初の反撃に打って出た。

 ただの航空部隊ではない。

 各地に散らばっていた航空機を掻き集め、大航空部隊を作り出して一挙に集中投入してきたのだ。

 帝国航空隊は忠弥達に撃破され弱体化していた。

 それを再建していたベルケの行動は救世主だった。

 反発する者もいたが、忠弥達連合国航空隊の活動で空で撃墜されてしまい居なくなった。地上でなお反対する者が居たが発言力は小さかった

 皮肉にも忠弥達の手によってベルケの邪魔者がいなくなり、ベルケが中心となり再建出来たのだ。

 纏め上げる過程で、戦闘機の集団攻撃戦術で撃墜数を増やし実績を上げていったこともプラスに働いた。

 新生なった帝国航空隊を率いてベルケは攻撃を仕掛けてきた。

 低空から前線を超えて進入。

 見つからないよう皇国軍航空基地、最大戦力である忠弥率いる皇国軍航空隊を撃破し連合軍航空戦力に大打撃を与えるべく襲撃してきた。


「上昇!」


 ベルケは基地上空で上昇し空を飛んでいた皇国軍の航空機を撃破した。

 部下達も三機一組の編隊を戦闘機で組んで基地上空を乱舞し、皇国軍機を撃墜した。

 これによって皇国軍の空軍基地上空はベルケの空となった。

 ベルケの戦闘機隊が上空を警戒する中、低空より復座の帝国軍航空機一二が現れて、基地上空へ侵入。

 駐機中の飛行機に向かって手投げ弾を落としていく。

 手で持てる程度の大きさのため、爆発は小さい物だったが、駐機場に置かれていた航空機の近くに落ちて爆発すると翼に無数の穴を開けて使用不能にした。

 次々と小爆発が起き、そのたびに皇国の飛行機が穴だらけになっていく。

 その姿を見て、心を痛めつつも自らが上げた反撃の狼煙の戦果にベルケは満足していた。




「配置に付け!」


 ようやく襲撃に気がついた皇国軍の当直将校が爆発を見て叫ぶが、すでに手遅れだった。

 すでに多くの機体が攻撃により損傷している。

 無傷の機体が何機か残っているが、離陸しようにもベルケ達によって上空を制圧されているため、迎撃に上がれない。

 それどころか、滑走路に進入しようとするだけで銃撃される。

 勇敢な操縦士がなおも飛び立とうとしたが、ベルケ達の攻撃を受けて、飛び立つことなく地上で炎上していった。


「掩蔽壕に待避しろ!」


 忠弥は叫び、自らも近くの掩蔽壕へ走って行った。

 忠弥は優秀なパイロットだが、空を飛べない今は無力な少年でしかない。

 敵機の攻撃を躱すべく地面を這いずり回り、壕の床に伏せる事しかできなかった。

 そのためベルケの一方的な攻撃が続いた。

 数分後、攻撃を終えたベルケの空襲部隊は引き上げていった。

 攻撃が終わり、エンジン音が遠ざかると、忠弥は顔を上げ掩蔽壕から出て外を見た。


「やられた」


 炎上する飛行場を見て忠弥は顔を顰めた。

 地上に航空機がある時を狙って空襲し、発進不能にする。

 飛んでないうちに破壊してしまえば、脅威にはならない。

 何よりも悔しいのは、ベルケが忠弥が計画していた航空機の集中投入を実行していたことだ。

 本来なら忠弥が真っ先に思いついたことなのだが、軍隊組織の官僚制によって阻まれ実現できないうちに、ベルケが先駆者である事と帝国軍航空隊が壊滅に近い状態に陥ったためにベルケの元に機体を集中させる事が出来たのが大きかった。

 緒戦の勝利に慢心した連合軍の敗北でもあった。


「無事な機はあるか! 直ちに迎撃するぞ。飛ばせ!」


 相原大尉が大声で命じる。

 無事な機体四機ほどを見つけると自ら飛び乗り、他の仲間と共に離陸していった。


「待て! 相原大尉! 少数では負ける」

「撤退するところを後ろから追撃する」


 忠弥は止めようとしたが、相原の耳には届かず、無事な機体と共に離陸し帝国軍に向かう。

 だが、その前に立ち塞がったのはベルケ達の戦闘機隊だった。


「クソッ、数が多い!」


 ベルケ達の方が数が多かった。

 戦いは数で決まる。多少の性能の差など数の前には無力だ。


「こいつら、速い」


 そしてベルケ達の戦闘機は皇国の戦闘機の性能とほぼ同じだった。


「クソッ、付いてこい!」


 相原は僚機に叫ぶように言う。

 勿論、空の上で声など届くはずがないが叫ばずにはいられなかったし、叫んでハンドシグナルに力を込めたかった。

 気合いが入ったせいかハンドシグナルは僚機に伝わり、二機編隊となってベルケ達に立ち向かう。


「うおおおっっっっっ」


 忠弥ほどではないが相原も操縦の腕は一級品だった。

 乱戦の最中、的確に動きの遅い敵機を見定めて接近する。

 僚機にぶつからないよう隊長機に追いつこうとする帝国軍の戦闘機の一機へ体当たりするように向かっていく。


「それっ」


 近づくとトリガーを引いて機銃弾を放った。銃弾は敵機に吸い込まれ、エンジン部分に命中、黒煙を吹いて地上に落下していく。


「よしっ」


 一矢報いたことを喜ぶ相原だったが、すぐに顔が引きつる。

 後方から、ベルケの機体が接近してきていた。


「くっ」


 すぐさま回避運動をするがベルケは付いてくる。

 しかも、逃げ込む先に他の帝国軍戦闘機が先回りしてくるため、相原の逃げ道は無かった。

 相原に付いてきていた僚機がベルケに攻撃されて撃墜された。


「畜生!」


 撃墜されたことに憤りを感じるが、逃げることで精一杯だった。

 ベルケの機体は徐々に追いついてきて相原の背後に迫る。

 そして、ベルケの機の機関銃が火を噴くと、無数の弾丸が相原の機体のエンジンに命中し破壊する。


「やられた」


 推進力を失った相原の機体は、地上に向かって落ちていった。

 幸い、操縦系統は無事で地上近くで引き起こすことに成功、主脚を衝撃で潰したが相原は不時着して命を取り留めた。


「クソッ」


 身体に異常が無いことを確認した相原は空を見上げた。

 そこには、新たな獲物を探すべく旋回するベルケの機体があった。

 すでに相原の機体への興味を失い、他の飛んでいる獲物を探している。

 しかし、脅威となる損害がいないが分かると、凱歌を上げるようにエンジンを響かせ、悠然と旋回し、帝国軍の支配領域へ戻っていった。

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