第343話 帝国の苦境
「思ったより進撃が遅いな」
戦況図を見ていたベルケは呟いた。
初日こそ浸透戦術で、迅速な進撃を行っていた。
だが、作戦開始から数日経つとその速度がみるみるうちに低下していった。
「歩兵が疲れているようです」
エーペンシュタインが答えた。
重たい装備を担いで十数キロを、泥濘の塹壕地帯を移動するのは困難だし疲れる。
移動は徒歩であり、進撃するだけで歩兵の疲労はたまる。
「飛行場の方はどうだ?」
「塹壕を越えようとしていますが、遅々として進みません」
味方の上空を守るために飛行場を前に進ませようとしていたが、飛行場部隊が塹壕を越えられず難航していた。
航空部隊の運用は最前線近くの前線飛行場とその後方にある前方飛行場、敵の攻撃が行われない後方飛行場の三種類に分かれていた。
夜明けと共に前方飛行場から出撃し、燃料弾薬が切れたら前線飛行場に降りて補給を終えると再び離陸。
夕方頃に前方飛行場へ戻る。
部隊が損害を受けたら後方飛行場へ戻る、というやり方だ。
これまでは上手くいっていたが、進撃により前線が遠くなったため、制空の為の空域が広がってしまった。
味方の上空に滞在できる時間が短くなり穴が空きやすくなった。
「敵の前線飛行場を我が方の前線飛行場にするんだ。我々の前線飛行場を前方飛行場にして整備部隊を送り込め」
「できる限りの事はします」
エーペンシュタインは申し訳なさそうに答えた。
燃料のドラム缶を塹壕を越えて運び込むだけでも大変だ。
だが、やらなければ出撃不能になり、味方が爆撃を受けてしまう。
「報告! 前線にいる歩兵第四三師団が敵の空襲を受けています!」
「出撃する。私の飛行機も出せ」
「将軍はここで指揮を」
「敵の攻撃を跳ね返す必要がある。それに君たちが出撃しているのに後方でのんびりしているわけには行かない。それに飛行機が足りないのは私がよく知っている」
連日の出撃により、パイロットの疲労が重なった上に、機材が消耗している。
補給整備体制を充実させたベルケの部隊が総予備の状態になっていた。
「出撃だ。すぐに蹴散らす」
「お供します」
ベルケを引き留められないと判断したエーペンシュタインは後に続いた。
「敵の爆撃機部隊です」
「プラッツⅣにやらせろ。我々は敵の護衛戦闘機隊を攻撃する」
足の遅い爆撃機相手ならばプラッツⅣでも十分に戦える。
だが戦闘機相手にはプラッツDr1がねじ伏せれば損害なしに、むしろ返り討ちに出来る。
戦闘機撃墜の為に作ったプラッツDr1に相応しい戦い方だった。
「隊長! 敵が逃げていきます」
「クソッ」
だが、プラッツDr1を見た連合軍の戦闘機は次々と反転し逃げていく。
それどころか、プラッツⅣへ攻撃を仕掛けていった。
「俺たちが相手だ!」
エーペンシュタインが果敢に攻撃を加えるが、プラッツDr1が来るとまたも逃げ出した。
「逃げるな! 戦え!」
エーペンシュタインは大声で叫ぶが、連合軍の戦闘機は逃げていくだけだ。
プラッツDr1は三葉翼のために揚力が大きいが、翼が抵抗になり速度が出ない。
そして特徴的な三枚の翼は、戦場では目立つため、容易に識別され、避けられてしまう。
鈍足なプラッツDr1を置いて逃げ去っていく。
「畜生! 攻撃してくれば返り討ちにしてやるのに!」
速度が遅くても、攻撃されたら得意の180度旋回で返り討ちに出来るため、敵が攻撃してくれば返り討ちに出来た。
だが、攻撃してこなければ、敵を撃墜する機会などない。
「エーペンシュタイン、帰還しろ」
「しかし、敵はまだ」
「燃料がもうないだろう」
プラッツDr1は軽くするために燃料タンクを小さく設計していた。
そのため戦場にとどまれる時間は短い。
しかも、快進撃を遂げたお陰で、前線飛行場と最前線が離れたため、往復のための時間と燃料が必要になってる。
「くっ」
エーペンシュタインは断腸の思いで引き返した。
そこを狙って連合軍戦闘機が追撃を仕掛けてきた。
「貰った!」
ここぞとばかりにエーペンシュタインは180度旋回を決めて、追撃してきた戦闘機を撃墜した。
だあ、一機撃墜されると、残りの機体は反転し、今度こそ逃げ去っていった。
追撃の燃料もないため、エーペンシュタインは味方の飛行場へ帰っていった。
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