第342話 統一指揮系統

「上手くいった」


 会議が終わった後、忠弥は笑顔で会議室を後にした。


「連合軍航空部隊の四分の一くらい指揮下に置ければ上等と思っていたけど、全部の航空部隊を指揮下に送ってくれるとは」


 混乱したラスコーの将官は、藁にも縋る思いで、忠弥の言うことをきいた。


「あと統一された司令部が出来たのは良いことです。統一された指揮が出来ます」


 相原が言った。

 バラバラに戦う事がなくなれば、兵力で勝る連合軍が帝国軍を押し返す事も出来る。


「しかし大丈夫かのう。指揮官がラスコーの将軍で」


 碧子が心配しながらいう。

 忠弥が空軍部隊の総指揮を執ることになったため、他の軍、陸はラスコー共和国、海はカドラプル王国から指揮官が出ることになった。


「大丈夫でしょう」


 相原が答えた。


「合衆国から陸上兵力がやってきていますから。それにラスコーも超攻撃主義を放棄して手堅く行くようです」


 ラスコーの損害が酷い事を見て、攻撃作戦は放棄されている。とりあえず、占領された土地の奪回が当面の目標だ。


「しかし、帝国の攻撃は勢いがある。止められるのか」

「大丈夫ですよ。帝国の攻勢はここまでです」

「何故じゃ」

「ここに来て帝国の進撃が鈍っています。息切れしています」


 攻撃を成功させ前線を突破した当初こそ猛烈な進撃を見せていたが、攻撃開始八日目の今日にもなると進撃速度は鈍っていた。


「どうして鈍っているのじゃ?」

「単純に歩兵が疲れているのです。重装備を担いで歩き続けるのは疲れますから」


 銃や背嚢など二十キロ近い装備を身につけて何時間も歩くのは疲れる。

 そんなことを数日間続ければ兵隊は歩くことさえ出来なくなる。

 これまで塹壕で全て済ませていた為、泥だらけの穴蔵に籠もっているだけで、生活だけは出来た。

 しかし、進軍すると野営をするため、その日の寝床の確保も食料の確保も難しい。


「連合軍の物資集積所を占領して動かない部隊もいます。後方からの物資輸送が途絶しているようです」


 塹壕戦で今まで突破出来なかった理由の一つが、敵味方の間にある中間地帯を超えて敵の陣地を占領しても補給が続かない事からだ。

 敵味方の最前線、中間地帯は特に激しい砲撃戦が行われたため穴だらけ。

 通路など当然ない、作ろうものなら砲撃で邪魔される。

 結果、中間地帯を越えて敵の陣地を占領しても、後方の味方からの補給も増援もない。

 結局、撤退するしかないのだ。


「だが、上今回は上手くいって何万人も攻め込んでおるぞ」

「余計に酷い事になっています。後方からの補給がないのに、補給線が中間地帯で分断されているのに何万人もの兵隊を食べさせなければなりません」


 数百万の軍隊でも数人の零細企業でもトップは下の人間を食わせなければならない義務がある。それが出来ないなら上に立つ資格なし。

 それ以前に食わなければ人は動けない。

 生命線である補給線を絶たれた時点で、帝国軍の命運はつきようとしていた。


「完全に補給は破綻しています。これ以上の進軍は不可能でしょう」

「つまり、反撃の好機だという事じゃな」

「はい、敵は中間地帯に補給路を作ろうとしているでしょう。それが完成する前に反撃し、占領すれば勝てます。そのためには制空権を奪回し、反撃できるようにします」

「出来るのか、忠弥」


 相原の説明を受けて、碧子は忠弥に尋ねた。


「大丈夫です。反撃の準備は整いつつあります。まずは敵を押しとどめる事に尽力します」


 この八日間、撤退と共に反撃準備を整えていたのだ。


「敵の新型機に対する対抗部隊も編成しています。これより反撃を開始しますよ」

「期待しておるぞ」

「お任せください」


 忠弥そう言うと、前線に向かっていった。


「後方で指揮する気はないのですか?」


 相原が忠弥に尋ねる。

 連合軍の空軍部隊司令官に任命されたのだ。

 戦死されては、いや戦場に出て行かれては指揮が執れない。


「作戦は立ててある。あとは実行して貰うだけだ。僕がいなくても十分に出来るよ。それに詳細なプランを立てたのは相原だろう」


 忠弥の立てた基本プランの詳細を詰めたのは相原だった。


「君の方が詳しいはずだ」

「ですが他の軍との連携も」

「そこも任せるよ。それともベルケと戦って勝てるかい?」

「ご命令とあれば」

「ダメだよ。ベルケに確実に勝てる保証がない」


 暗に勝てないと言われて相原は傷ついた。

 軍人として戦って勝つことは至上命令であり、そのために日々鍛錬を続けてきた。

 それが否定されたのだ。


「そんな顔をするな。相原は指揮に向いているんだよ。後方を任せられるから命じるんだよ。特に、前線の兵力が少ないからね」


 本土防空のために、いくらか部隊が引き抜かれている。

 十全な兵力があるとは言えない状況で、効果的に運用してくれるのは相原だけだ。


「皆が戦えるように頼むよ」

「了解しました」


 相原は仕方ないと敬礼し忠弥を送り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る