第341話 帝国大進撃
「予想より敵の攻撃が大規模じゃ」
帝国軍の攻撃開始後、忠弥は連合軍の司令部に呼ばれ碧子から状況を伝えられた。
「帝国軍の攻撃により我らは、この八日間で六五キロもの距離を後退することになった」
塹壕戦が始まってから進撃できた最大距離がほんの十数キロだった事を考えれば、帝国の攻撃がどれだけ上手くいっているか示す数字だった。
「ラスコーの首都パリシーまで一二〇キロの圏内に入っており、首都が占領されればラスコーが戦線から脱落することもあり得る」
沈痛な面持ちでラスコーの将軍が説明をした。
現在、最大の陸上戦力を連合軍に提供しているラスコーが脱落すれば、帝国の勝利で戦争が終わってしまうかもしれない。
「厄介なのは敵が制空権を持ち、こちらの物資集積所や部隊集結地を航空攻撃している事じゃ」
ベルケは問題は多いが格闘性能が優れているプラッツDr1を集中投入し、連合軍の航空部隊を、撃退していた。
王国と共和国の戦闘機部隊はプラッツDr1に攻撃を仕掛けたが、小回りがきいて簡単に避ける上に真後ろを取っても、すぐに180度ターンでカウンターをしてくるため返り討ちにされる事態が相次いだ。
プラッツDr1の部隊は次々に撃墜数を増やしている。
八日間でプラッツDr1部隊の全員が最低でも一日一機は撃墜、エース・イン・ア・デイ――、一日に五機以上を撃墜するパイロットも多数出ている。
キルレシオは一対三から四。
プラッツDr1が一機落ちる間に連合軍の飛行機が三、四機落とされている計算だ。
王国と共和国の戦闘機部隊の保有機数は急減少し、「プラッツの懲罰」「血の四月」などと呼ばれ恐怖にさいなまされる状況だった。
「何とか、プラッツDr1の撃破をしてくれぬか?」
碧子の後ろでは連合軍の将官が、忠弥を見ていた。
特に共和国の将軍は青ざめている。
これほどの進撃を帝国に許したことは、はじめてだったからだ。
ラスコー軍では兵士の命令拒否が相次いでいたが、防衛であれば兵士達は武器を取り、激しく抵抗している。
そのため帝国軍では命令拒否は、連合軍の謀略だと判断された程だった。
だが、浸透戦術を使う突撃隊の前に、前線が突破され、帝国軍が侵入してきているのは確かだった。
まさに大戦中、最大の危機と言えた。
「難しいですね」
だが忠弥は正直に言った。
するとラスコーの将軍が立ち上がって忠弥を責めた。
「どうしてだ! 世界で最も卓越した腕を持つのだろう!」
「バラバラに戦っては勝てません。特に空軍は戦力を集中してこそ活用できます」
実はこのときまで連合軍に総司令部など無かった。
各国が他国の指揮下に入りたくないので、指揮権が独立したままで、ある程度の短刀範囲を決めるだけで済ませていた。
他国の戦区が厳しくなってもよほどの事にならなければ、救援は送らない。
王国が攻撃を仕掛けている間共和国は休み、王国が撃破されたとき、共和国がようやく攻勢に出る、という典型的な各個撃破の機械を帝国に提供していた。
「最低でも私に各国の航空部隊の指揮権を与えてください」
忠弥は要請した。
少なくとも機動力が優れる航空戦力は一箇所に集めた方が良い。
「だが、しかし……」
共和国と王国の将官は顔を曇らせた。
自分の戦力を友軍とはいえ他国に差し出すことは自分の戦力が少なくなるため嫌がる。
結局、いつも通りだな、と忠弥は思った。
しかし、飛び込んできた伝令の報告に事態は一変する。
「報告します! パリシイが砲撃を受けています!」
「何だと!」
ラスコー軍の将官は驚愕した。
帝国にパリシイを砲撃できるような兵器などないはずだった。
「敵は新型の長距離列車砲を実戦投入したようです! 射程百キロを超えており、占領地からパリシイを砲撃できます」
「状況は」
「パリシイは混乱状態です! 市民が続々と避難しています」
ラスコーの将官の顔は蒼白だった。
パリシイが壊滅すれば中央集権のラスコー共和国は瓦解してしまう。
実際はこの列車砲の性能は低く、砲弾の重量も軽く、狙いも付けられないため、大した脅威はなかった。
だが、攻撃されていることに変わりなく、ラスコーは危機感を募らせた。
「頼む! 何とか占領地を奪回してくれ! 列車砲を破壊してくれ!」
遂に忠弥に向かってラスコーの将軍は懇願した。
母国の危機になりふり構っていられなくなったのだ。
「航空隊を出してくれますか?」
「構わない! 全ての航空部隊を与えよう!」
言質を取った忠弥はにんまりと笑った。
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