第340話 浸透戦術
「伏せろ!」
帝国兵と目が合った忠弥は叫ぶと共に扉を閉め床に伏せた。
ドアは短機関銃の銃弾を素通りし室内に銃声が響く。
「何でこんなところに帝国兵がいるのよ!」
「帝国軍の突撃隊だろう!」
昴の叫びに忠弥は大声で返した。
前線の隙間を突破して後方へ進出する特殊な部隊、突撃隊を帝国軍は編成し、投入していた。
数百万の人員が配置されている塹壕戦だが塹壕の全長が数百キロもあるため、所々、手薄な箇所がある。
そこへ少数――五〇人から二〇〇人の中隊以下の部隊が密かに侵入し後方へ進出するのは不可能ではない。
砲撃による爆発音で物音が掻き消されている状態なら尚更だ。
前線から侵入した彼らは前線部隊は襲わない。
その後方にいる柔らかい目標、砲兵、司令部、物資集積所、鉄道、輸送路を襲撃する。
塹壕が強いのは、塹壕自体の防御力が高いのも理由だが、後方からの補給と支援、そして増援が来てくれるからだ。
増援と支援がなければ、時間はかかるが簡単に落ちる。
攻めてくる敵の大軍の前に孤立した城のように陥落するしかない。
前線を支える後方の支援部隊を機能不全にするのが突撃隊の役割である。
彼らの目的は後方にある支援施設の破壊。
前線飛行場も例外ではない。
忠弥達がいる飛行場も攻撃対象になったのだ。
「銃撃が凄いわ」
帝国軍兵士は短機関銃を続けざまに撃ってきて昴は怯えていた。
少人数で行動する必要があるため、強い個人火器を持っている傾向がある。
彼らは遠慮無く、自らの持つ火力を忠弥達に浴びせてきた。
「調子に乗るな!」
赤松が持っていた拳銃で応戦する。
「うおおおっっっ」
短機関銃の再装填の合間に上手く撃てたのか、彼らの攻撃が一時止んだ。
「諦めたか」
赤松が言った瞬間、柄付きの筒状の物体、手投げ弾が投げ込まれてきた。
「逃げろ!」
忠弥が叫んだ瞬間、待機所にいた全員が外に出て行った。
出た瞬間に炸裂し、忠弥達は転がる。
そこへ帝国軍の将兵が 駆けつけて銃を突き付けた。
「万事休すか」
忠弥が昴を庇おうと覆い被さったとき、銃声が響いた。
銃を向けた帝国軍将兵の肉体が粉々にされた。
「大丈夫ですか将軍!」
対空機銃の銃座に付いていた兵士が呼びかけてくる。
敵の空襲に備えて敵機が来襲する可能性のある基地には対空機銃を配置している。
それを地上攻撃に転用したのだ。
「助かったよ。連中を掃討してくれ」
「分かりました!」
銃座の兵士は、侵入してきた帝国の将兵へ機関銃で掃射する。
「畜生! 死角に逃げ込みやがった」
だが固定された銃座のために、地面の障害物やへこみ、近隣の多い大口径砲の着弾痕などに逃げ込まれたら、攻撃できない。
「任せてください!」
先ほど生き延びた赤松が飛行場の守備隊と共に装輪装甲車にのって駆けつけてきた。
「おらあああっっっ」
装甲車を突進させて敵の場所へ突っ込む。
敵は銃撃を浴びせるが、小銃弾を跳ね返す装甲板を持っている装甲車には拳銃弾程度の威力しか無い短機関銃では撃退できない。
「使い物になっているな」
島津の作るトラックに装甲板を付けただけの装甲車だが役に立ってくれている。
少人数で、しかも整備など防衛戦闘が本業ではない連中でも飛行場防衛のために使えるよう配備したのだ。
因みに、地球で初めて出来た装輪装甲車はイギリス海軍航空隊が飛行場の警備と防衛のために開発したのが最初とされている。
装甲車は小銃弾を者ともせず、車体上方に取り付けたから銃座から、突撃隊に銃撃を浴びせて掃討していく。
「撃退しました!」
生き残った突撃隊の連中を降伏させた赤松が明るく言う。
「よくやった」
耳を澄ませるとあちこちから銃撃音が響いてくる。
「ここも危険そうだな」
「将軍! 前線が突破され敵軍がこちらに向かってきているとの報告が入りました!」
「ここは危険だ! 飛行場は放棄! 撤退しろ! 飛べる航空機は飛ぶんだ! 飛べない機体はガソリンをかけて燃やしてしまえ!」
「守備ではないのですか」
「整備や施設の連中が戦えるか。飛行機の整備や補給が専門の連中は、専門をやらせた方が何十倍も役に立つ。他の基地に後退させてそこで活躍させろ」
「了解!」
伝令が指揮所に飛び込んでいった。
「皆っ! 撤退するぞ! 後方で一旦態勢を立て直す!」
「了解!」
忠弥達は後方の飛行場に撤退していった。
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