第339話 プラッツDr1を分析する
「それで何機降りてきましたか?」
「報告では三機と聞いております」
味方前線飛行場の待機所に通された忠弥は、案内してくれた伝令に尋ねた。
少し大声なのはほんの数キロ先が前線であり、砲撃音がうるさいからだ。
「何とか、逃げ切れた機体もいたか」
伝令の報告に忠弥は安堵した。
ベルケを振り切り、エーペンシュタインの奇襲を間一髪で逃れた忠弥は、前線飛行場に降り立った。
何発か被弾しており、点検と補修の為にも後方の飛行場では無く、すぐ近くにあった前線飛行場に着陸した。
数機が撃墜されたが、逃れた機も多く、何機かは忠弥と同じ前線飛行場に着陸していた。
「前線はどうですか?」
「砲撃を受けていますが、突破されたという報告は受けていません」
敵に制空権を奪われ厳しい状況が続いているようだが、前線が保っていることは幸いだった。
「他の飛行場にも味方が降りていないか確かめてきてください」
「はい、失礼致します」
味方が降りていないか伝令に確認に向かわせると残りのメンバーで話し合いを始めた。
「何とか味方は保ってくれているようだな」
重要な時期に制空権を奪われた事はかなり痛い。
「何としてもあの新型機への対策を立てる必要がある」
「あのターンには驚きました。後ろに食いついたと思ったら、いきなり機首を真後ろに向けて撃ってくるんですから」
赤松が興奮気味に答えた。
さすがの赤松もあの180度旋回には肝を冷やしたようだ。
「後ろから攻撃するやり方が通用しないようね」
昴は溜息を吐くように言った。
「早急に同じ機体を作る必要があるんじゃないの?」
「いや、無意味だ」
「どうして?」
「あの機体は、あまり性能の良い機体じゃないからだよ。好みではあるけど、使えない」
「あの機体は旋回性能と格闘性能がピカイチでしょう」
「だが、他をあまりにも犠牲にし過ぎる。攻撃の最中に上翼が吹っ飛ぶなんて強度不足も甚だしい」
お陰で逃げることができたが、敵の弱点だ。
「他にも速度性能が遅い。こっちの方があスピードは上だ」
二枚と三枚では抵抗が全く違う。
三枚翼は翼が多い分、抵抗が大きく、同じエンジン出力ならスピードが二枚に比べて遅い。
帝国もエンジンの出力を上げてきているが、まだ皇国に追いついていない。
最高速度は低いはずだ。
「スピードを利用した一撃離脱戦法を徹底すれば良い」
「けど真後ろに付いても、180度ターンでこっちに銃を向けられるのよ」
「複数の機で弾幕を張るように攻撃すれば良い。それに180度ターンを多用できるような機体じゃない」
「どうしてそう言いきれるの?」
「それだけの機動が出来るのであれば操縦が難しい機体だ。普通のパイロットじゃ簡単に操縦できないよ」
「どうして?」
「操縦性と機動性は相反する。機動性が優れていると操縦が難しいんだ」
「どういうこと?」
「初めて飛行機を飛ばすとき安定性と、操縦性をどうするべきか試行錯誤したよね」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
昴は忘れていたが、忠弥は苦労しただけに覚えて居tあ。
機体に安定性を求めすぎると、真っ直ぐしか飛べず、飛行機に乗っているだけの状態になる。
だが、操縦使用とすると安定性を欠く。
飛行機はそんなバランスの上に成り立っている。
「三枚翼にしたから、揚力の中心が上に来ている。重心とずれていて、ロールしたときすぐに止まれない。下手したら止まることが出来ずそのままスピンしつづけて操縦不能となり墜落する恐れがある。180度ターンも舵の効きが悪く、そのままきりもみになる危険が大きい」
「うーん」
忠弥が早口でまくし立てることもあって昴はどういうことか理解できなかった。
「つまり四輪、二輪、一輪の車輪を持つ乗り物の中でどれが乗りやすいか、あるいは動きやすいかということだよ」
自動車のような四輪だと四つのタイヤがあるから安定している。
しかし、タイヤとタイヤの間隔があるため曲がりにくい。
一方オートバイや自転車のような二輪だと、四輪の曲がれないようなカーブも簡単に曲がれる。
一輪車だと、更に動きが多くなり、その場でもターンできる。だが、乗りこなせる人間は少ない。大抵の人間は乗りこなせず、下手をすれば転倒する。
飛行機も同じで、四輪車を通常の飛行機、二輪車を戦闘機、一輪車をプラッツDr1とすれば理解できるだろう。
「多分あの新型機は特殊すぎて一部の熟練パイロットにしか操縦できないはずだ。機数の多い、連合の方に勝ち目がある」
幾ら性能が卓越していても、使える人間が少ないのでは、戦場への大量投入は無理だ。
無論忠弥も熟練パイロットを集めた飛行隊を作っているが、機体は普通の人でも扱えるよう操縦性が良い機体作りを目指している。
多くの人が空を飛べるようにするためでもあるが、操縦が簡単な方が楽に飛行できる。
一輪車に一時間も乗り続けることなんて勘弁願いたいのと同じで、運転のしやすさが疲労低減に繋がるし、ミス――撃墜、墜落、事故も少なくて済む。
「俺たちの機の整備が終わったら、もう一度飛ぶぞ。今言ったことを忘れるな。連中の手に乗るな、弄べ」
「了解」
全員が駐機場へ飛び出そうと待機所を飛び出した。
すると目の前には、短機関銃を構えた帝国軍兵士が現れた。
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