第338話 プラッツDr1の弱点

「大丈夫かエーペンシュタイン」

「はい、自分は大丈夫でありますが、機体が」


 振り返って自分の機体、二枚の主翼を持つ機体を見た。


「強度に難があるな」


 エーペンシュタインのプラッツDr1を見てベルケは呟いた。

 プラッツDr1はDrの通り三枚翼で揚力が大きく機動性が高い。

 だが、機動性を高めるため、そして設計に時間がかけられなかったため、機体が軽量化された結果、強度不足に陥っていた。

 結果、突如上翼が取れて二枚翼になってしまう事故が多発した。


「急降下して追いかけたら突然、上翼が取れていまいました」


 忠弥を追いかけていたエーペンシュタインは、狙いを定めようと追いかけたときその事故は起きてしまった。

 急降下の力に耐えられず、上翼が外れて、複葉機になってしまった。

 驚きで、銃撃を途中で止めてしまい、忠弥を取り逃がした。

 幸い、残り二枚でも飛ぶだけなら十分であり、エーペンシュタインは、味方の飛行場まで戻ってこれた。


「やはり、難しい機体だな」

「それは覚悟の上です」


 つらい顔をするベルケにエーペンシュタインは、姿勢を正して言った。

 プラッツDr1を導入するとき、ベルケは熟練飛行士を集め志願を求めた。

 卓越した格闘性能を持っているが、非常に扱いづらい戦闘機であり、事故で死亡する可能性があることを伝えていた。


「志願する者は前へ!」


 ベルケの声に全員が一歩前へ進んだ。

 断れる雰囲気ではなかったこともある。

 だが、圧倒的な航空戦力を持つ連合軍を相手にするには卓越した格闘性能、安定性を引き換えにしたため事故が多い機体に乗り換えでもしない限り勝てないと皆分かっていたからだ。


「訓練でもそのことは身に染みています」


 訓練中でも機体の上翼が外れる事故は起きており、死傷者もでていた。


「欠点が多いのは分かっていたがいざ出るとな」


 ベルケは滑走路に目を向けた。

 一機のプラッツDr1が着陸しようとしている。

 だが、機首を空に上げたままフラフラとしていた。

 三枚翼は確かに揚力が大きいが大きすぎるため、着陸の時、遅い速度でもなかなか、失速せず、着陸できない、風船のように浮かんでしまう。

 速度を遅くするため機首を引き上げるが、そんなことをすると自機の主翼が壁のようにパイロットの前に立ち塞がり、視界を遮る。

 そのため前を見て水平かどうか見ることが出来ない。

 パイロット達は、滑走路脇や左右の地平線を目印に着陸するようにしていた。

 だが、このプラッツDr1は他にも欠点があった。

 着陸中のプラッツDr1が機首を垂直に上げてしまった。


「拙い! 操縦不能になった!」


 三枚の翼を通ると気流が乱れ、後方にある尾翼の効きを悪くしている。

 特に機首上げすると気流が更に乱れるので、着陸時、特に着地の瞬間にコントロールを失う危険があった。

 着陸しようとしていた機体はコントロールを失って垂直に機首を上げてしまい失速。

 そのまま、尾翼から落下し、滑走路に墜落した。


「救助隊! 急げ!」


 落ちて機体がくの字に曲がったのを見たベルケはその飛行機に向かって駆け寄った。


「大丈夫か!」

「な、なんとか」


 幸い操縦席は無事だった。

 ベルケはナイフでベルトを切り裂き、パイロットを引き出した。

 直後、落下の衝撃で燃料タンクが破損し漏れ出したガソリンに引火して機体が燃えだした。

 木製布張りの機体はあっという間に燃えだして炎上した。


「間一髪だったな」


 救助したパイロットを救護所に送り出し、消火する様子を見てベルケは呟いた。


「事故機に駆け寄るなんて危険な事は避けてください」

「その事故機と同型に乗って出撃しているぞ。しかも、その機体を採用したのは私だ。今更引けるか」


 機体に乗るよう志願を募った部下への引け目もあり、ベルケはプラッツDr1に乗ることを決意している。

 エーペンシュタインも強く地上に残るようにベルケに言えなかった。


「他に勝てる機体が無いので仕方ありません」


 今日の空戦の戦果を聞くだけでも、全員最低一機は撃墜している。

 特に180度キックターンは有効で真後ろに来た敵機を迎え撃てるため、撃墜機が多かった

 ベルケも忠弥を追い詰めたため、機数は少ないが、これまで縦横無尽に駆け回った皇国空軍を抑えることに成功していた。


「ああ、今日は上手くいった。だが」

「何でしょう」

「あの忠弥さんだ。プラッツDr1の欠点をすぐに見つけ出してくるだろう」

「しかしその前に、我が帝国軍が連合軍を制圧してくれるでしょう」

「そう願いたいな」

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