第337話 プラッツDr1
「もらったぞっ!」
赤く塗られた最新鋭機プラッツDr1を操りベルケは忠弥の機体――青に染められた機体を狙って追いかけた。
最初の一撃は避けられたが、すぐに反転し、再び忠弥を照準に捉えようとしている。
忠弥は旋回して引き離そうとした。
「無駄です!」
忠弥に向かってベルケは機体を旋回させた。
初風は主翼が二枚の複葉機に対してプラッツDr1はDr――ドライ、三を意味する帝国語の通り三枚の主翼を持つ。
主翼が多い分、揚力が強く、旋回がたやすい。
格闘戦に優れた期待であり初風の先にまかり込んでいく。
「まずい」
振り切れない事に忠弥は焦る。
「忠弥から離れろ!」
忠弥の危機に昴は駆けつけようとベルケの真後ろに付こうとした。
それを見た忠弥は叫んだ。
「ダメだ! 避けろ! 昴!」
確信は無かったが感のようなものが働いた忠弥は叫んだ。
昴はすぐに反応して、離脱するべく操縦桿とペダルを踏み込んだ。
その瞬間ベルケはペダルを踏み込み機体を旋回させた。
「なっ!」
その動きを見ていた昴は驚愕した。
普通、飛行機が旋回するときは、自転車のように弧を描いて回る必要がある。
だが、プラッツDr1は、その場で180度旋回、まるでダンスのターンの様にいきなり真後ろに機首を向けてきた。
正面に昴の機体を捕らえたベルケは、機銃を放った。
だが命中する寸前、機体が旋回し間一髪のところで避けられた。忠弥の忠告が無ければ命中していた。
「降下して離脱する! 皆も逃げるんだ!」
ベルケが昴を狙った隙に忠弥は降下して、離脱した。
昴も忠弥の後を追って降下して逃げ出す。
だが、そう簡単にはいかなかった。
「地上から猛烈に撃たれている!」
帝国軍の砲兵陣地を攻撃するために帝国軍の陣営に入り込んできたことが拙かった。
地上は帝国軍がひしめいており、忠弥達に銃撃を浴びせている。
機関銃どころか歩兵が自らの小銃で狙ってくる程だ。
しかも数が多く、地上から銃弾の雨が降り注ぐ。
「危険だいったん、上空へ」
忠弥は再び上昇した。
狙いを付けた銃撃は何処を狙っているのか分かりやすいので避けやすいが、むやみやたらと撃たれる銃弾は避けにくい。
まぐれの一発が命中する確率が高いからだ。
「けど、あの三枚翼が危険よ」
「そうだよ。注意して」
忠弥は昴の意見に同意した。
高度を上げれば必ず、ベルケの三枚翼がやってくる。
忠弥は確信していた。
「来たぞ!」
予想通り、上空を警戒していると上空からベルケの機体が忠弥を狙ってやってきた。
忠弥達の進路に銃撃を浴びせ、牽制する。
「くっ」
忠弥はベルケの動きを見ながら避けた。
できれば急降下して振り切りたいが、地上からの対空射撃が怖い。
対空射撃が届かないところで飛行しベルケの攻撃を躱す。
「できるだけ上昇するんだ」
「ダメよ上を取られる」
上昇して高度を取りたいところだったが三枚翼は揚力が優れているため、すぐに上に言ってしまい、先手を取られてしまう。
「なら水平飛行で速度勝負だ」
忠弥は自分の初風をまっすぐ飛ばした。
複葉機と三葉機では、羽の数が少ない分抵抗が少ないので、複葉機の方がスピードが出る。
速度が上である事を利用して、振り切る事にした。
忠弥の目論見は当たり、ベルケの三葉機は、徐々に置いて行かれる。
「何とか振り切れそうね」
「そうでもない」
正面から敵の四機編隊がやってきた。
ベルケが予め配置していたエーペンシュタインが回り込んできたのだ。
「くっ」
進路上に突進してきたエーペンシュタイン機を忠弥は避ける。
「きゃあっ」
敵機は狙いを昴に変更した。機銃弾が昴の機体の横をかすめる。
「昴!」
忠弥は機体を引き返し敵機に向かう。
だが、敵機は忠弥がやってくると急旋回して向かってくる。
「しまった」
釣り上げられた事に気が付いた忠弥は咄嗟に急降下した。
だが、敵機も急降下に入り、忠弥を照準に収めようとする。
「ダメか!」
急降下しながら回避しようとするが、機動性は敵機の方が上。
「もらった」
忠弥を捉えたエーペンシュタインは、引き金を引いた。
銃撃音と共に機体が壊れる音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます