第336話 帝国軍の攻勢
「退避!」
夜明けの直前、帝国側からの激しい砲撃の嵐を受け、前線には掩蔽壕へ避難するよう命令が下る。
兵士達は塹壕を駆け抜け、自分たちの掘った壕へ飛び込む。
一安心したが、砲撃の振動により丸太で組んだ天井から土埃が落ちてくる。
何時自分たちの壕に砲弾が飛び込んでこないか心配だ。
大急ぎで作った壕が耐えてくれるかどうか。もっとしっかりした作りにしておけば良かったと何人かの兵士は後悔する。
一応野戦砲程度ならば、彼らが多少手抜きをしても耐えられる設計にはなっていた。
だが、二〇〇ミリクラスの重砲が直撃すれば木っ端微塵だ。
「畜生! 誰か砲撃を止めてくれ!」
緊張に耐えられなくなった兵士の一人が叫んだ。
そして、彼の声に応えるように、砲撃とは違う音が上空から響いてきた。
「何だ」
仲間の一人が壕の入り口の隙間から、砲撃を受けないよう慎重に外を見上げる。
そして、大声で叫んだ。
「航空隊だ! 助けに来てくれたんだ!」
「酷い砲撃を仕掛けているな」
夜が明けて離陸できるようになると忠弥は全力出撃を命じた。
砲撃してる帝国軍の砲兵陣地を撃破するためだ。
上空からは無数の砲弾が味方の陣地へ向かって飛び込んでいるのが見えた。
「帝国軍の陣地に多数の発砲炎を確認した。攻撃機隊は攻撃せよ」
忠弥の命令で爆弾を吊り下げた攻撃機が帝国軍の陣地に向かって降下していく。
巨大な火を噴き、連合軍の陣地へ砲弾を撃ち込む重砲に爆弾を落とした。
重砲の周りには、爆煙が上がり、一時は沈黙する。
しかし、すぐさま火を噴いた。
「防御が強化されている」
何度も空襲を受けた帝国軍は陣地を強化、爆撃されても被害が最小限で収まるように構築し始めていた。
勿論、被害は皆無にはならないが、潰せる大砲の数は減った。
「攻撃を続行しろ! 味方を守るんだ!」
帝国軍の攻撃を阻止するために忠弥は爆撃を続行させた。
「東方上空より敵機!」
部下から報告が入る。
さすがに帝国軍も一方的に空襲を受ける気は無く、迎撃機を上げてきていた。
「迎え撃つぞ! 戦闘機隊! 続け!」
忠弥は自ら戦闘機隊を率いて上昇し、敵機に突っ込んでいく。
「援護しろ!」
上空に一隊を待機させ、直属の機体を率いて敵機に攻撃を仕掛けた。
「敵機はプラッツⅣだ! 大丈夫すぐに落とせる」
プラッツⅣは確かに優れた飛行機だったが、初風の敵ではなかった。
旋回性能に優れるプラッツⅣと速度に勝る初風。
一撃離脱を繰り返す初風をプラッツⅣは追いかけきれなかった。
さらに通信機の有無が連携の出来不出来を明確にした。
通信機でお互いに連絡を取り合い援護できる初風は優位に立っていた。
「よし、上手くいっているな」
敵機を上空から降下しつつ銃撃し、駆け抜けた忠弥は一機落として満足した。
追いかけてくる敵機もいたが、上空にいる味方が援護してくれているので追撃はなかった。
「さて、戻るか」
忠弥は上空へ引き返そうとした。
上空から急降下しての一撃離脱戦法は、攻撃側が優位だが、攻撃後は高度が落ちるため、敵に攻撃されやすい。
だから最低でも二隊に分けて、味方が援護している間に、攻撃によって高度を落とした部隊は上昇するのが忠弥の考えた戦法だった。
このときも忠弥は、いつも通り上昇しようとした。
だが、その時、視界に、太陽の中から接近してくる正体不明の機体を見つけた。
「回避!」
忠弥が叫ぶと、味方の機体はバラバラになって敵の攻撃を避けた。
そこへ見たことのない機体が忠弥達が退いた空域に銃撃を浴びせ駆け抜けた。
離脱しようと忠弥は機体を操るが、襲ってきた敵機は素早く切り返し、忠弥の進路を塞いだ。
「何っ!」
これまで逃げ切れただけに回り込まれたのが初めてであっただけに忠弥は驚いた。
そして襲ってきた機体の形状。
三枚の翼を持つ異形の機体に忠弥は更に驚いた。
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