第335話 本土空爆の影響

「してやられたね」


 本国からの電文を読んでいた忠弥は肩を落とした。

 空襲の被害に関する報告だが、至って軽微だ。

 工場で少数のけが人。

 皇都は主要施設の前に爆弾が投下されただけで死傷者はいない。

 だが、白昼堂々と攻撃を行ったため市民の多くが目撃しており、衝撃が大きかった。

 皇国本土が空から攻撃された。

 旧大陸から離れているため攻撃されない。

 そして世界で初めて空を飛んだ忠弥が作った世界最初の無敵空軍がいるので安全と思っていた皇国の国民には衝撃だった。

 実際は、空の領域が広すぎてとても全てに手が回らない。

 奇襲されても仕方の無い状態だった。

 だが、国民はそんな事を知らないので、責任追及の声が上がっている。

 さらにここのところ権限を奪われている陸海軍が巻き返しを図っていて、声高に叫んでいた。

 特に本土防衛のために本土の防空は陸軍が行うべきだと主張してきている。

 議会からの追及も大きい。というより島津への攻撃材料として野党が声を大にしている。

 結果、防空部隊の編成、そのための航空部隊の抽出、前線へ展開する航空機の減少が起きていた。


「まあ、メイフラワー合衆国よりマシか」


 忠弥の場合、今回の本土爆撃は辻斬りか、通り雨程度の攻撃であり本格的な空襲は今の帝国には実行不能であり、少数の敵に備えて防空部隊を充実させるのは得策ではない事を理解していた。

 議会と陸海軍を黙らせるため、空軍が対応しているところを見せるため本土の防空部隊は一応編成している。

 だが内実は、一部は専任にしつつも本土にあった機種転換部隊や訓練部隊を編入、あるいは紙の上で編成しただけの部隊が大半だ。

 紙で書いた部隊は、あとで増強予定だ。戦争が終結した後、余剰になった前線部隊の航空機を配属して戦後の軍縮で生き残らせるつもりだ。

 色々と問題はあるかもしれないが、決戦を前に兵力を削ぎたくない今では最善の手だ。

 さらにラジオ放送などで今回の空襲は奇襲であり恒常的な空爆ではない。被害も非常に限定的だったことを繰り返し、放送することで国民を安堵させ落ち着きを取り戻させた。

 だがメイフラワー合衆国は、過剰な反応を示した。

 各地の変電所が空爆され機能停止、さらに首都に爆弾を投下された。

 初めての航空攻撃に対処方法が分からず完全にパニック状態となってしまった

 航空機に対する防御を固めよ、と国民が声高に叫び、皇国から購入した戦闘機の殆どを本土防空にあてている。

 しかも常に上空に航空機を展開させ敵機の侵入を防ぐために哨戒しているので機材が急速に消耗する。

 消耗分の注文も既に入っているが、決戦の部隊になる西部戦線へ送り込まれる航空機の数が少なくなるのは非常に拙い。


「どうするの?」


 昴が尋ねてきた。


「ここにある兵力で何とかするしかない。勝利で空軍の存在意義を示さないと」


 空軍が発展できたのは、忠弥の功績、世界初の有人動力飛行と大洋横断によって世界的な名声を獲得した国民の熱狂的支持によるものだ。

 空のことなら二宮忠弥、という熱狂、あるいは幻想によって支持を受け拡大した。

 勿論実戦での戦果も大きい。

 緒戦の敵第一軍の包囲に決定的な役目を果たし、王国の防空に成功、帝国本土への爆撃にも成功、カルタゴニア大陸での航空機動戦勝利、ジャット・バンク海戦そして大洋の戦いで王国海軍の勝利に貢献。

 皇国に世界的な力を見せつけ国民は支持した。

 しかし、今回の皇都空襲で疑問が生じた。

 本当に忠弥に任せて大丈夫なのか、これまでの空軍の活躍はまぐれではないのか、皇国を守れないのではないか。

 そんな疑問が国民の中に生まれている。


「勝利しないと戦争は終わらないしね」

「でも十分な戦力が無いわよ」

「そんなの何時もの事さ。けど、何とか戦いきるしかない」

「しかし、帝国も多くの戦力を繰り出してきています」


 珍しく相原が不安を示した。

 これまでの戦いでも戦力は十分とは言えなかった。

 だが帝国の航空機生産は順調に伸び、前線の戦力がほぼ互角になり始めている。

 しかも、一時は忠弥と互角に戦っている。

 これまでは忠弥の指導力で帝国に対して一歩上を行く新兵器や戦術で不利を克服していた。

 何より航空機の生産と配備数で連合軍は帝国に対して優位に立っていた。

 だが今回は本土への空襲により全ての戦力を前線に送り出せない。

 帝国とほぼ同じ戦力しか持っていない。

 その状態で戦いきれるのか相原には不安だった。

 しかし、戦わなければならなかった。

 夜明け前頃、前線の方から砲撃音が鳴り響いてきた。

 帝国軍の攻撃が遂に始まった。

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