第408話 空戦フラップ
「うーん、やっぱり敵機の方が旋回性能が良いな」
シェーンノート少佐に引き離された忠弥は、先ほどの空戦を思い返して呟く。
「フラップを使えば十分に追いつけるけど、手練れだと逃がしてしまうな」
寿風には揚力を増すためにフラップをつけてある。
複葉機が多かったのは翼の強度を確保する為でもあるが、一番の要因は揚力の確保だ。
だが、翼が多いと速力が出ない。そこで単葉機を開発したが翼が減ったので揚力が低下した。
陸上なら滑走路を使えば良い。
忠弥など将来を見越してこの時代には不要な四〇〇〇メートルの滑走路を各地に整備している。
空中ならば飛行船が船を上回る速力で、飛行機の離陸速度まで加速してくれたので問題なかった。
だが、艦隊で運用するには、全長二〇〇メートルにも満たない航空巡洋戦艦の飛行甲板から、僅か三〇ノット、飛行船の半分程度、飛行機の離陸速度に遙かに及ばない速力から、ほんの一〇〇メートルほどの距離で発艦させなければならない。
風向きは艦が常に風上に向かって走ってくれるので、風向きは問題ないが、機体が浮き上がる速度までは自力で走る必要がある。
しかも、単葉は揚力が小さいため、離陸速度の値は高くなる。
以上の理由により単葉機での発艦は不可能とされた。
だが、忠弥はフラップを取り付けて成功させた。
揚力は翼から生み出される。ならば離陸の時だけ翼を広げれば良い。
普段は翼――フラップを翼の中にいれておき離着陸の時だけ展開して揚力を増し、離陸速度を下げ、容易に飛び立つ。
飛び立った後、速度が増し、更に速力を増したい時はフラップを収容して翼を小さくすれば良い。
広い翼は揚力を生み出すが抵抗にもなり速力を上げるのを止めてしまうのだ。
一応、先の戦争の前に作り上げていたが、単葉での強度や生産性の観点から、軍用機には使用されなかった。
だが、大戦により技術が進歩し再び採用される事になった。
お陰で、揚力が増し、容易に発艦が可能となり、洋上の航空母艦に搭載が可能となった。
そして、忠弥はこのフラップを空戦に応用した。
速力が早くなったため、旋回性能が低下してしまった部分を、旋回中にフラップを出して揚力を増すことで旋回半径を小さくしようと考えたのだ。
それでも、旋回半径はフライングバレルより五割増しと大きくなったが、速力も五割増しのため、引き離される事はない。
外側から追いつくことが可能になった。
「それでも急降下で躱されるか」
急降下で勢いが付くと機体重量が寿風の方が重いため、慣性が付きすぎて曲がり始めるのが遅い。
そのため、後ろを取られやすい。
「まあ、そこは運用の仕方を工夫するしかないな」
速力が早いほうが、一撃離脱が行えるので新米パイロットにも使いやすい。
旋回戦、格闘戦は熟練でないと習熟出来ない。
下手に旋回したら、思ったより速力が落ちていて失速し、墜落の危険もある。
忠弥が使ったフラップ操作も同じだ。
操縦桿のボタンにより電動で出し入れする事が出来る。
だが多用すれば、抵抗が増して失速する恐れが高くなる。
それ以前に速力が落ちて、のろまになり敵機の標的になって仕舞う。
なので使いどころが難しい装備だ。
「自動空戦フラップが出来れば良いんですけど」
水銀スイッチを使い速力と加速度から的確なフラップ展開を行える装置を旧日本海軍は開発し紫電改に乗せて優秀な性能を発揮した。
だが、装置の初期不良、最適なフラップ展開角度が求められず開発は難航してしまい投入は遅れた。
忠弥も開発していたが、初期不良、特に最適角を割り出すことが出来ず、使ったらむしろ速度が落ちるため性能が低下してしまった。
なので、大戦初期のハヤブサのようにパイロットが手動でフラップ操作をして動かせるようにした。
電動モーターのお陰で、簡単にフラップの出し入れができるが、空戦中の操作は新米にはむずかしい。
フラップを使うのは熟練の一部だけだ。
「しかし、低い高度に下ろされてしまいましたね」
空戦により徐々に高度が下がっている上、艦隊も近づいている。
おまけに、敵機の一部が隙を衝いて離脱。
艦隊に攻撃するべく迫っていた。
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