第409話 対空砲火
「右舷より敵機多数来襲!」
天城の艦橋に緊迫した見張員の声が響き渡り、緊張感が増す。
初めての敵機来襲に全員、緊張気味だ。
これまで訓練で何度か襲撃されている。
その時は非武装だったので余裕をかましてカトンボ程度にしか思っていなかった。だが、実戦となるとまるっきり違う。
自分を殺しに来るという殺気が敵機から放たれており、身が竦むようだ。
「全艦! 対空戦闘用意! 回避自由!」
そこへ名雲の声が響き、各員は撥ねるように動き出した。
「機関最大戦速へ!」
「対空砲発砲用意!」
「各艦との間隔を保て! 動きを見誤るな!」
名雲の指示が届き、再び動き出す。
かつて皇国の命運を賭けた戦いに参加し、実戦を経験していただけに、名雲はこの程度では怯まない。
勿論、飛行機との戦いは初めてだが、自分に出来る事をやるだけだ。
「右舷より敵機襲来!」
「対空砲! 撃ち方はじめ!」
天城艦長の号令で搭載された対空砲が火を噴く。
三インチの対空砲と五〇口径の機関銃が放たれる。
本当はもっと大きな機関砲や大口径対空砲を搭載したいのだが、開発が間に合わなかった。
砲身を空高く、上げるための装置やその状態で砲弾を装填する機構の開発に手間取っている。
機関砲も高初速、高い発射速度で放つ二〇ミリクラス、出来れば四〇ミリクラスの大口径機関砲を開発していたが、中々、上手くいかず、開発中だ。
そのため、五十口径機関砲や、既存の三インチ砲を改造して使用するに留まっていた。
だが、忠弥も手をこまねいている訳ではなかった。
「撃ちまくれ!」
激しい弾幕を浴びせるのは五〇口径六連装回転機銃、所謂ガトリングガンだ。
機関銃の祖先で六つの銃身を円周上に配置して回転させ、装填と発砲を別々の重心で行う事で連射を可能にした。
だが、あまりにも大きく、大砲並みにでかいのに射程が小銃並みと使いにくく何時しか廃れた。
歩兵用の軽機関銃や一門で住む重機関銃が出来ると目も向かなかった。
航空機が開発されるまでは。
「対空砲に使える」
ガトリングを見た忠弥はそう言って対空砲の開発を行った。
手回し式だった回転機構を電動モーターが代わりに行い、高速回転で発砲速度を高速化。
一基で毎分三〇〇〇発の圧倒的な性能を発揮していた。
銃身の加熱が心配されたが、六つの銃身があるため一本当たりの発砲速度は五〇〇発と通常の機関銃と同程度に抑えた。しかも回転するため冷却が良い。
地球でも同じ話があり、覚えていた忠弥は早速採用し、搭載した。
大型化したが、軍艦に乗せるのならば問題ない。
副砲、駆逐艦を撃退するための小型砲より軽いため、設置も簡単だった。
次々放たれる銃弾の雨を前に襲撃してきたメイフラワー合衆国の攻撃隊は爆弾を落として逃げ去っていく。
「やはり魚雷はないか」
敵機が落とした武装を見て、名雲は呟いた。
水雷を専門としており、航空魚雷に関して諮問を受け実験もした事がある名雲には航空魚雷が困難な事は分かっていた。
まず、重量。
魚雷は重く、性能の低い航空機では吊すことさえ困難で、下手に乗せると重すぎて墜落して仕舞う。
次に魚雷自体が脆弱だ。
元々、艦艇の甲板、海面からほんの数メートル上から発射することを前提に作られており、数十メートルから落とされたら魚雷が粉々になった。
慌てて強化した魚雷を作ったが、今度は航空機の速度が速すぎて、飛び石の如く海面で跳ね返り、投下した機体にぶつかる事故が発生。
航空魚雷の開発も難航している。
航空先進国皇国さえこの状態だから、他国も推して知るべしだ。
「左舷より敵機来襲!」
敵機が回り込んできた。
機動性を使い、予想外の方向から迫ってくるのが航空機の厄介な所だ。
先ほどまでの射撃で弾薬を――あまりの発砲速度のため使い切ってしまい、弾薬庫からの補充が間に合わなくなっていた。
その一瞬を衝かれて、攻撃しようとしてきた。
思わぬ事態に艦長は狼狽し命令を下せない。
「艦長! 指揮貰うぞ!」
名雲が宣言すると操舵手に命じた。
「取舵一杯!」
敵機の攻撃を躱すように名雲は艦を動かす。
すぐに天城は転舵して、敵機の攻撃を避けた。
ロケット弾が放たれるが、天城の回避に衝いていけず空を切り、被害を免れた。
見事な操艦指揮に艦橋に名雲への称賛の声が上がる。
そこへあらたな敵が出現したとの報告が入る。
「上空に敵飛行船! 空中巡洋艦!」
敵の飛行船だ。
遙か上空恐らく高度五〇〇〇メートルを飛んでいる。
上空援護の戦闘機が低空へ降りてきたために進撃して来られたようだ。
飛行船、空中巡洋艦は天城に接近すると、何かを投下した。
「敵飛行船、爆弾を投下!」
落とされた物を見て見張りが叫ぶ。
「面舵一杯! 回避せよ」
再び名雲が命じる。
艦は動き出し、右へ躱し始める。
航空からの爆弾投下など高速回避する艦艇には命中しない。
だが、見張り員は爆弾に何か違和感を抱いた。爆弾の後ろがキラキラ光っている様にみえる。
良く分からないため報告しなかったが、嫌な予感がした。
その予感は正しかった。
念のために監視していた爆弾の動きがおかしい。
「爆弾が奇妙な動きをしています」
「奇妙とは何だ」
見張り長の叱責で見張り員は必死に言葉を考え絶叫した。
「爆弾がこちらに向かってきます!」
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