第410話 トッピードグライダー

「爆弾が此方に向かっているだと! そんな馬鹿なことがあるか!」


 爆弾は、砲弾に翼を付けただけの代物であり、一度落としてしまえば後は運任せの代物だ。

 それが追いかけてくるなどあり得ない。


「ですが、確かに追いかけてきます」


 見張り員の報告で全員が爆弾の方向を見た。

 確かに回避運動中、旋回中なのに爆弾はまっすぐに天城の方向へ向かってきていた。


「取舵一杯!」


 名雲は反対に舵を切るように命じた。

 天城は俊敏に反応して、逆向きに動き出す。

 しかし、爆弾はその動きに合わせて天城に向かって行き、右舷の飛行甲板に命中した。




「トッピードグライダー! 命中確認!」


 メイフラワー合衆国空中巡洋艦アクロンの艦橋は爆撃手の報告が響き、歓声が上がった。


「流石だなトッピードグライダーは」


 アクロン艦長ワイリー中佐は、自分の開発したトッピードグライダーが成果を上げたことに満足していた。

 魚雷滑空機と訳される爆弾は元は、ハイデルベルク帝国で作られていた有線式誘導爆弾だ。

 敵艦に爆弾を命中させたいと考えた、海軍飛行船部隊が研究していた。

 ようやく戦争終盤で形になったが実戦投入前に終戦となった。

 それをメイフラワー合衆国が見つけ出し、自国用に開発した。

 この爆弾は、付けた翼を有線ワイヤーで電気信号を送り操作して爆弾を誘導する。

 比較的簡単な方式だが、単純故に効果は抜群だ。


「敵艦はまだ動いています」

「トドメを刺すぞ。次を用意しろ」


 二発目が準備され、投下された。

 爆弾庫から飛び出したトッピードグライダー、誘導爆弾は天城を仕留めるべく迫っていく。


「敵機が誘導爆弾に近づいています」


「放っておけ」


 炸薬量の多い爆弾だ。

 下手に銃撃を浴びせれば巻き添えを食らって吹き飛ぶ。


「敵機後方に回り込みました」


「爆発に巻き込まれる気か」


 愚かしいとワイリー中佐は思っていたが、部下の報告に狼狽える。


「艦長! トッピードグライダー操作不能!」

「ここに来て故障か」


 精密機器を使うため故障が多い。


「次の爆弾を用意しろ! 準備でき次第、投下!」


 直ちに新たな爆弾が用意されて投下するが、再び忠弥が後方に接近すると誘導不能になった。


「どういうことだ。何故一発も撃たずに敵機が後方に遷移しただけで誘導不能になるんだ」


 そこまで言ってワイリーはトッピードグライダーの後方にある物を思い浮かべて気が付いた。


「まさか、誘導用のワイヤーをプロペラで切断したのか」




「有線誘導爆弾とは恐れ入った」


 忠弥はトッピードグライダーの動きと後方で光り輝く糸状の物体を見つけてすぐに有線誘導爆弾だと気が付いた。

 有線誘導爆弾は第一次大戦の時にドイツで対艦攻撃用に作られており忠弥も知っている。

 だからすぐに思いついたし、実際自分でも作っていた。

 だが、誘導するためのワイヤーの長さが十分ではなかったし、爆弾を含め大型化してしまった。

 搭載出来るのは飛行船、そして操縦者による有線誘導のため異を目視しなければならず、接近する必要があり、敵の攻撃を受けやすい。

 不燃性のヘリウムガスを使った飛行船ならともかく、水素ガスの飛行船では攻撃で炎上してしまう。

 なので皇国での実戦投入を忠弥は諦めていた。

 しかし、メイフラワー合衆国は、実用化し実戦投入してきた。


「自分たちの長所を生かして邁進する姿勢は流石です」


 出来る事を組み合わせて、実現しようとする姿勢が素晴らしかった。


『航空隊各隊へ通達、これより艦隊遠距離防空射撃を行う。全機、敵空中空母より離脱せよ』


「うわっ! 拙いっ! 全機撤退せよ!」


 忠弥は飛行中の部隊に撤退を命じた。

 全機が退避した直後、艦隊の天城型全艦が一斉射撃を開始した。

 主砲による遠距離対空射撃だ。

 レーダー射撃に、特に主砲と連動させる装置が出来上がっていないため、目視による射撃となる上、砲弾が到達するまでの時間がかかる。

 そのため使える状況は限られる。

 今回は速力の遅い上に、大型の飛行船を相手にするのだ。

 主砲でも十分に狙える。

 全艦から一斉に発砲炎が上がった。

 砲弾が空中を飛んでいった後、衝撃波が忠弥の機体を襲い、発砲音が響いたかと思うと、背後で爆発音が響く。


 ドオオオオンンッッッッッッ


 腹の底から響くような大きな音が響き渡り、空気が振動する。

 空中で大口径砲弾が炸裂したのだ。

 これまでの対空砲とは比べものにならないくらい大きな衝撃に、混乱する機体もある。

 離れていた忠弥達でさえそうなのだから食らった側はたまったものではない。

 初弾のため直撃は免れたが、近くで炸裂し大きく揺れる。

 しかも、多数の破片が飛び散り船体を切り裂き気嚢からガスが抜けていた。

 今のところ量は少ないがいずれ、ガスが抜けて浮力が無くなる。

 危険を感じたワイリー中佐はトッピードグライダーの失敗もあり、撤退を命令。

 撃退に成功した。

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