第411話 着艦の為の工夫

 敵の空中巡洋艦が撤退すると、忠弥達は補給の為着艦を始めた。

 航空機にとって空母への着艦は、非常に危険な行為の一つだ。

 狭い甲板に失速ギリギリの速度――それでも時速百キロ以上の速度からゼロにしなければならない。

 着艦とは計算され尽くした墜落である、と語るパイロットがいるが、まさに的を射た言葉だ。

 忠弥は自らの機体を着艦させるべき、艦、二番艦桜城の上空を艦尾から通過し通過し、左旋回。

 高度を下げつつ、進路を確認して再び背後に回り込み、飛行甲板へ、Y字の飛行甲板の右後ろから左前方へ向かうように進入する。

 煙突排気の中を一度通り抜け、機体が振動するがすぐに抜けたので問題なし。

 着艦にとって煙突排気は厄介な存在だ。

 気流が乱れる問題もあるが、高温の排気そのものが飛行中の航空機にとって影響が大きい。

 飛行機は揚力で飛んでいる。その揚力は翼に受ける空気の密度によって変わる。

 空気密度が高いほど、揚力は大きくなる。

 そして空気密度は気温が低いほど高くなる。

 逆に高温になるほど密度は低くなる。

 熱気球が空を飛べるのは、球皮――風船の様な大きな袋の中の空気をバーナーで熱性手空気密度を外気より低下させることで、浮力を生み出しているからだ。

 だが、揚力で飛んでいる飛行機にとって、空気密度が低くなるのは揚力低下、墜落の危険がある。

 着艦のために失速速度ギリギリで飛んでいる着艦機にとっては致命的、墜落原因になりかねない。

 空母が排煙処理に苦慮し加賀やコンスティテューション級が誘導煙突搭載という迷走をしてしまったのは排煙処理、着艦機が排気の中に入らないようにするため、安全確保のためだ。

 勿論天城級も無縁ではなく、忠弥は着艦のために工夫を凝らした。

 それは、大型煙突にして、ボイラーからの排煙と同じ量の外気を強制導入して混ぜ合わせて排気温度を低下させると共に、上空高くへ飛ばすという方法だ。

 原子力空母以前の通常動力型アメリカ空母が行っていた方法で、着艦機への影響が少なく、世界各国で使われている。

 お陰で忠弥は影響を受けることなく最終アプローチに入り、着艦指示灯とミラー装置を見ながら飛行甲板へ飛ばす。

 着艦誘導灯は、旧海軍が使った方式で、甲板から突き出た前後段違いの誘導灯を見ながら、正しい角度だと、重なって見えるように微妙に調整されており、パイロット自身が修正しながら着艦することが出来る。

 ミラー装置も同じで、これはアメリカ海軍が二一世紀に至るまで採用している方式で、強力な光源をミラーに当てて、反射する光、正しい着艦コースと同期した光を見ながら着艦する。

 空母建造にあたって忠弥が開発していた物だが、どちらもほぼ同じ時期に完成し、比較のために両方取り付けていた。

 すぐ右手に艦橋と煙突があるが排煙の真下を通るので、発生する乱気流だけ気にすれば良い

 忠弥は、誘導灯に従いつつ上手く機体をコントロールし、乱気流を躱し、四本ある着艦ワイヤーの内、艦尾側から数えて三番ワイヤーを引っかけて着艦した。

 ちなみに、着艦時は三番ワイヤーを引っかけるのを目標にしている。

 一番手前側の方が、着艦距離が長くなり、安全そうに見えるが、手前過ぎると飛行甲板下の艦尾に激突する可能性があり、事故の可能性が少ない三番が良いとされている。

 無事に着艦した忠弥はワイヤーが外れると、すぐに機体を前へ動かし、一番砲塔前の誘導路を使って右舷側の甲板へ行き駐機させる。

 そして機体から飛び降りると、飛行長に向かい尋ねる。


「天城はどうなっている!」

「飛行甲板に被弾しただけで問題ありません」


 飛行甲板は一応、敵との砲撃戦を考慮して装甲が張られている。

 しかし、高速を出すため、重心上昇を抑えるため、遭遇する可能性が高い巡洋艦の主砲八インチ砲に耐えられる程度の装甲しかない。

 戦艦の主砲並みの威力を持ったトッピードグライダーは甲板を破壊した。


「しかし、発着艦機能に問題があるため、本艦が指揮を代行します。天城は発艦可能な機体を他の艦へ移した後、先頭に立ち突撃するつもりです。二宮少将には、航空戦の指揮をお願いします」

「分かった、敵の空中空母は撃破した。次は敵の水上部隊だ」

「では早速艦橋から指揮を」

「空中で指揮をする」

「指揮官不在になるのは困ります。どうか出撃は自嘲してください」

「けど」

「飛行長の言う通りよ」


 続いて着艦した昴が後ろから言った。


「最高指揮官が戦死したら飛んでもない混乱が起こるのよ。今回は大目に見たけど、自嘲して」

「でも」

「いいわね」

「……分かった」


 昴の剣幕に押されて忠弥は渋々、従った。


「まったく、世話が焼ける」


 本当は、第一次攻撃に出すのも嫌だったのだが、ようやく出来た航空巡洋戦艦の初陣であり、出撃したがっていた。

 そのまましておくと重大な場面で勝手に出撃しかねず、忠弥のストレス発散のために出撃を許した。

 だが、一回出撃させたあとは、そのまま残して指揮に専念させる。

 指揮官としての役割を全うして貰う。


「第二次攻撃用意! 搭乗割を急いで作成して。もう一度飛ぶわよ」


 第二次攻撃隊の指揮官として昴は命じた。

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