第九部 航空業界の発展と摩擦

第370話 戦争が終わって

 数年におよぶ大戦が終わり、平和が戻った。

 史上初めて空まで戦場となった戦いであり、多くの機体とパイロットが失われた。

 しかし、全て無駄ではなかった。

 戦争は、技術の発展、平和なときなら経済性の観点から結成手出来ない技術的なブレイクスルーが戦時下において、敵に勝利するためという名目の元、採算度外視で行われた。

 数百機の航空機を製造する工場や、巨大な爆撃機、飛行船が平時では考えられない程大量に短期間で製造され、空に出て行った。

 航空機の関係者も増えて行き、空は発展した。

 だが、全てが万事順調というわけではなかった


「減ったわね」


 がらんとした兵舎を見て昴が言った。

 戦争によって拡大を続けた空軍戦力の大半は戦後不要となり、動員解除された。

 徴兵された兵員は除隊して社会へ復帰して行き軍を去った。

 航空機の運用も激減し、大半の機体は予備機として保管される事になった。


「あんなに沢山の機材があるのに使わないなんて勿体ない」


 使われなくなったのは兵舎だけではなかった。

 多くの航空機も使い道がなく、飛行場の片隅に駐機、少しでも詰め込むために密集して、隙間を埋めるように乱雑に置かれている。


「仕方ないよ。使う必要が無いんだから」


 忠弥はアッサリという。

 もはや来襲する敵機も、破壊すべき砲兵陣地も無い。

 勿論将来の戦争に備えて最低限は残す必要があるが、それ以外は使い道が無く、置かれたままだった。


「なんか元気そうね。普通なら飛行機が飛ばないことを嘆くと思ったのだけど」


 飛行聞き違いと言って良い忠弥は、飛行機が傷つくのも飛べないのも嫌いだ。

 なのに大量に残された機体を見て、何も感じていないのか落ち着き払っていた。


「払い下げが認められたんだ。民間に大量に機体が供給出来るよ」


 流石に軍も大量の気体を保管することは出来ず、整備機材も含めて民間への払い下げが決定した。

 軍用機の数は減るが、民間の保有率が高まることになる。


「皆が飛行機を保つことが出来るんだ」


 飛行機が好きだし飛ぶのも好きだ。

 だが、一人で独占したいとは思わない。

 独占しても飛ぶためには飛行場や航空産業などの基盤が必要であり、一人では維持できない。

 多くの人に使って貰わないと意味がないのだ。


「それに、新型機の開発も決定した」

「あなたが無理矢理決定したんでしょう」


 昴は呆れながら言う。

 戦争が終わり軍縮が始まっているにも関わらず、忠弥は事実上の空軍司令官として全権を握っており、新型機の開発を推進した。

 現有の航空機で十分とする意見もあった。

 だが、「日進月歩で航空機の技術は進んでおり、既存の機体だけでは旧式化してしまう」と忠弥が主張した。

 人類初の有人動力飛行に成功し、大洋横断を成し遂げ、戦争を勝利に導いた英雄である忠弥の意見に反対できるはずがなかった。

 また、航空機の一大メーカー島津航空機製造のオーナーであり有力与党率いる島津義彦――昴の父親であり忠弥のスポンサーの言葉に逆らえる人間などいなかった。

 かくして、空軍の新型機開発、組織強化が認められた。

 既存の陸軍と海軍は歯がみしていたが、航空機の支援と、装備の刷新、新技術開発に協力する事で妥協していた。


「勝手に決めたように言わないでくれよ。国民の支持は取り付けているよ」

「空中サーカス「天竜」のお陰でね」

「特殊戦技班だ」


 特殊戦技班とは、空軍の曲芸飛行チームだ。

 五輪の時の展示飛行と、終戦の時、旧大陸で行った記念飛行が評判となり、皇国に帰還すると凱旋飛行として市民の前で披露した。

 宙返り程度でも、迫力があり、人々の支持を集めることに成功。

 空軍の増強、組織強化が許された。


「そうね班長」


 その班長には空軍副司令官、事実上の最高司令官である忠弥が就いており、曲芸飛行を度々行っていた。

 幾つかチームがあり、部下がメインになっているが、自身も度々飛んでいた。


「一緒になって飛んでいる上に、歓声を聞いて手を振って喜んでいるくせに」


 勿論、昴もメンバーの一人であり、忠弥が飛ぶときは一緒に飛んでいる。

 しかも珍しい女性飛行士であり、人気が高かった。

 人々の歓声に手を振って応えることが多い。


「愛想良くしないと市民の印象が悪くなるから演技しているのよ」


 どや顔しながら、得意げに言う。

 どう見ても喜んでやっているようにしか見えない。

 しかし、昴の人気もあるので忠弥も強く非難することは出来なかった。

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