第371話 航空郵便事業
「で、暫くは軍用機開発?」
空軍を強化すると聞いて昴は忠弥に尋ねた。
「いや、空軍は部下に任せるとして航空会社の運営だね」
「航空会社?」
「そう、飛行機を使って物や人を運んだり、空中写真を撮ったりするんだ」
「戦争前にも作っていたでしょう」
「うん、でも、作ったばかりで飛行機も少なかったから事業の拡大が出来なかった。でも、いまは戦争で急拡大してくれたお陰で、ありとあらゆる事業が行える」
史上初めて空を飛んだ忠弥だったが、初めて故に飛行機を作る基盤が小さく、空を飛行機で埋めることは出来なかった。
しかし、戦争のお陰で生産工場も――軍用機とはいえ生産された飛行機も多い。
「これらの飛行機を使って、ありとあらゆる事業に乗り出す。特に郵便事業は力を入れる」
はがきは二グラムの重量しかない。二人乗りの飛行機に一人分、八〇キロ、四万枚近い郵便袋を入れることが出来る。
はがきの値段は一銭五里、飛行機で輸送する追加料金を一銭とすると一回の飛行で四万銭、四〇〇円の収入になる。
大卒の初任給が二〇円、アンパンが二銭で買え、カレーが五銭から七銭で食べられる時代なので、結構な収入だ。
勿論、配送量は多くないだろうが半分としても一回の片道飛行で二〇〇円の収入であり、利益は非常に大きい。
「軽くて金が取れるから飛行機の事業には最適だ」
実際、軽く短い時間で運ぶ郵便事業と航空機の相性、特に性能が低い初期の航空機においては、非常に利益率が良く、航空事業の所轄が郵便関係だった事例は世界的にも多い。
日本でも民間航空の管轄が陸軍から郵便を統括する逓信省へ移り、航空郵便事業の為にパイロットの養成所を作り上げた程だ。
「意外と地味ね」
「仕方ないよ。大勢のパイロットを喰わせる必要があるんだから」
昴の真っ当な意見に落胆する忠弥だが仕方の無いことだ。
戦争中養成されたパイロットは戦争が終わると不要になった。
中には除隊して社会復帰する者もいたが、再就職のアテがない者も多くいた。
彼らの為にも仕事を作らなければならないのだ。
「航空事業の責任者としての責務だよ。郵便事業は運ぶものが手紙や葉書だから軽いから、多くの量を扱えるし料金も多く取れる」
重量に応じて課金すれば、さらに収入が多く見込める。
「人数も機体も多いから、定期的に飛行することも出来る。正に最適な役割だ」
「でも、飛行機は足りるの? 大分酷使したでしょう」
戦争に使う為、大量の航空機を製造したが、戦場で激しい空中戦を挑んだために、ボロボロになっている機体が多かった。
「それに機体は木だから耐久力が小さいでしょう」
鉄を使っている部分もあったが、加工がしやすいため、木の部品を大量に使っている。
だが、木の部材は、腐食しやすく耐久力が無い。
実際、腐ったり、虫に食われるなどで飛べなくなる機体は多い。
また、翼に使っている布も、使っていると破れやすくなり、定期的に張り替える必要があり、維持するのに費用が掛かる。
「そこで、空軍の新型機開発だ」
「何をするの」
「全金属製の航空機を作る」
木を使うと問題なら金属を使えば良いじゃない、という発想だった。
「重くないの?」
「むしろ強度と、信頼性が上がり、軽くなる」
金属と木では、木の方が軽い。
しかし、工業製品、特に耐久力と耐荷重を求められる部分に使われると、むしろ重量が嵩む。
これは、先ほども言ったとおり、木だと腐食や虫食いなどで、時間経過と共に耐久性が下がるからだ。
なので、安全の為の係数を多く取る必要があり、重量が嵩むくらい大きく作る必要がある。
一説には、金属部品の五倍は重量が嵩むなどと言われている。
外皮など、強度が関係しない部分には良いかもしれないが、飛行、機体強度に関わる部分に使うとどうしても金属より重くなる。
「でも、金属だと重くない」
「ふふふ、それなら大丈夫」
忠弥は意味ありげににやりと笑う。
「ジュラルミンを使うから平気だ」
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航空郵便事業
第一次大戦後、航空業界の需要喚起のため各国で行われたのが航空郵便事業です。
日本でも郵政省でパイロットを育成しています。
不死身の特攻兵の佐々木友次氏も逓信省の航空郵便のパイロット育成所で訓練を受けたのち陸軍へ入っています。
手紙は、お客様と違い、場所を取りませんし、文句も言いませんので運びやすいのです。
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