第372話 ジュラルミン
「ジュラルミン?」
聞き慣れない単語に、昴は首を傾げた。
「アルミニウムに銅やマグネシウム、マンガンを加えて作ったアルミニウム合金だ。アルミニウムより軽く強靱なんだ」
「それを使って作るの」
「そうだ。戦争前にハイデルベルクのデュレンという町の金属会社が薬莢に使う新型の金属を探しているとき発明した金属だ。軽量で使えるので研究していた。しかも、まだまだ改良の余地がある」
「完成品じゃないの?」
「更に強度を高めることが出来ると言いたいんだ。生産加工の為の技術開発優先でで遅れていたが、ケイ素一パーセントを加える事で、更に強度を高めることが出来たジュラルミンを超えるジュラルミン、超ジュラルミンを作り上げることが出来る! さらに薄く軽量でありながら強度のある機体を作り上げる事が出来る」
「凄いわね」
「だが、これもまだまだ改良の余地が、性能アップできる。亜鉛を五パーセント加える事で、超ジュラルミンを超える素材が出来る」
「凄いわね。なんていう名前なの」
「超超ジュラルミン」
「……ネーミングがダサいわね」
「仕方ないだろう、こういう名前なんだから」
超々ジュラルミンは日本の住友金属工業が作り出した合金で、第二次大戦の軍用機に使われた。零戦などが高性能を発揮できた理由もこの超々ジュラルミンのお陰だ。
日本の技術者はかなり優秀なのだ。
ただネーミングセンスがいまいちなだけだ。
リニアモーターカーとまではいかないが、もう少しマシな名前を付けて欲しかった。
「でも、どうして開発できたのに戦争中に使わなかったの?」
「ジュラルミンの加工技術が確立できなかった」
幾ら軽量合金でも薄くかつ、強度を保ったまま部品を作るのが難しかった。
そのため無骨な骨材、硬式飛行船の骨組みにしか使えず、あとは強度が関係しない箇所へ貼り付けるだけだった。
「だが、戦争中に技術開発名目で大量の資金を投入し、ようやく技術が花開いた。今回は全て金属製にする! これなら平気だ!」
「そんなに大切なことなの」
「たわみとか無くなるよ」
木で出来た飛行機は腐食の他にも湿気などで撓みが発生する。
不自然に機体が反り返り、まっすぐ飛べなくなったりバランスが悪くなる事がある。
だが、金属で出来たら、そのような心配は不要となる。
「耐久力も増し、長期間の運用に耐えられるようになる。十分な採算がとれる」
木製だと製造してから一年や二年で使用不能になる事が多い。
だが、金属で作られたら適切に扱えば数年、十数年は使用できる。
使用回数が増えるので、収入が増える、製造費分の経費をすぐに賄うことが出来るのだ。
「これで旅客機を作れば儲かる」
「軍用機を作るんじゃないの?」
「軍需なんて戦争以外に需要は見込めない。平和な時代だと民需を確保しないと先が見通せない。けどは先進的な技術なので、先ずは実験として輸送機から作る。大型機だからある程度強度に余裕を持たせるため重量が嵩んでも平気だ。輸送機なら旅客機や貨物機への機種転換も容易なので問題なし」
「国の予算で欲しい機体を作るとは恐れ入るわ」
「これぐらいしないと開発できない」
「戦闘機とか爆撃機を作らなくて良いの?」
「先進的な技術を使っても失敗する可能性が高いから却下される可能性が高い」
空軍の実質的な司令官は忠弥だが、予算獲得や監査のための人間はいる。
名声も実績も大きいが、年若い忠弥を心良く思わない老人も多い。
ただでさえ若いのに、陸海軍に並ぶ空軍を思うままに動かしているのだ。
長年、入隊してから二十年、三十年軍務に就いてきてようやく上層部にまで昇進できたのに、戦果を挙げたが、飛行機という凧もどき(彼らの視点)を作っただけで新たな軍を作り、トップに収まった忠弥に好感を抱くはずがない。
「でも忠弥なら、そんな事は気にせず作り上げると思うけど」
「作りたいけど、他にやるべき事があるからこの計画には関わらない」
「え? 何を作り上げるの」
「これから飛行機を発展させるために必要な物だ」
「ジュラルミン以上に必要なの?」
「そうだ」
「それは何?」
「それは」
忠弥が一度言葉を切る。
昴は生唾を飲み込んで身構える。
注目される中、忠弥は厳かに答えた。
「白物家電だ」
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超ジュラルミン
史実では東北大学が開発したジュラルミンを超えるアルミ合金。
さらに後年、配合を変えて強度を高めた合金を開発して超超ジュラルミンと命名。
そのあと、さらに強度を高めた超超超ジュラルミンを開発。
さらに超超超超ジュラルミンを開発。
大学時代、材料の授業でそう習ったけど今のネットだと出てこない。
本当にそういう名称だったのでしょうか?
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