第373話 先ずは白物家電だ
「……はい?」
予想外の言葉に昴は呆然とした。
「……ええと。ごめんもう一度いって」
「白物家電を作る」
「ごめん、それどういう飛行機? 白物家電という言葉自体から想像できないんだけど」
「飛行機じゃない。簡単に言うと、家庭の中で、家での家事、炊事洗濯を代行してくれる家庭用電気機械器具だ」
躯体が白で塗られていることが多いため、白物家電と呼ばれている。
ちなみにテレビやプレーヤーなどの娯楽用家電は黒く塗られるため、対比として黒物家電と呼ばれることがある。
「何でそんな物必要なのよ」
昴は呆れた。
空を飛ぶ飛行機を作っているのに、地上の家事のための製品を作ろうというのだ。
「そんなの家政婦さんにやって貰えば良いでしょう」
当時、上流階級の女性は家事などは家政婦や女中に任せていた。
そんとあめ、炊事洗濯を雑務としか考えていないところがあった。
「逆に言えば家政婦さんが必要な程需要がある。どこの家庭でも行うことだと言うことだ」
「当たり前でしょう。飛行機が飛ばなくても私たちは、ご飯を食べないといけないし、服も汚れるから洗濯しないといけないのよ」
「中流階級あたり、家政婦さんを雇うのが難しい階層に売れば需要が高く、儲けられると思わないか?」
「あっ」
指摘されて気がついた。
誰もがやらなければならないことを電気機械器具が代わりにやってくれる。
大半の人間が欲しがるだろう。
「けど、高いんじゃないの」
「原付バイクのように分割払いなら大丈夫だ。それに大量生産できれば安くなる。それに復員兵が多い。彼らは従軍した分年金を貰っているから、払える」
「勝算がないわけではないのね。でも、それが飛行機と関係あるの?」
「大ありさ」
まあ、見ていて、と忠弥は言って作業を始めた。
まず、始めたのがモーターの改良、小型高出力化だった。
モーターが一番重く、大きいため小型化すれば様々な家電に使える。
先ずは、洗濯機を作った。
単純な構造にするため洗濯槽と、脱水槽の二槽タイプあるいは別々にしたタイプだったが、空軍の研究所で装備品として作り出した。
基地での生活で必要という名目、洗濯などの時間を他の作業に使えるようにするため、という名目で作り上げた。
最初は十数人の衣類を纏めて洗濯できる様にする大型機だったが、個人用の小型機も作り出した。
それを民間、島津と岩菱に作らせて納入させることにした。
ただ、空軍のみの生産だと割高になるので、余剰生産分は、納入価格を抑える事を条件に民間に売り払う事を許した。
効果は覿面だった。
売り出されるやいなやご婦人方に大人気となった。
特に、戦争で男手がなくなり女性が社会進出している状況だったために、職業婦人の方々は時間の短縮となり仕事に精を出せると人気だった。
あっという間に万単位で製造されるラインが出来上がった。
人気は高くなり、輸出さえ行う様になった。
だが、洗濯機など序章に過ぎなかった。
続いて作ったのは、トランジスタ――電気を増幅するための部品。
簡単にいうと、小さい電流を流すと大きな電流を流してくれる部品だ。
通常の家電でも数十ボルトの電流が流れており、感電したら危険だ。
特にスイッチの部分は危険だ。
スイッチを通じて数十ボルトの電流が流れるようにしたら触れた瞬間に感電する恐れがある。
かといって弱い電圧だと十分な電気が送れず、家電が動かない。
そこでトランジスタの出番だ。
スイッチに流れる電気を弱い電圧にしておく。
そしてスイッチの先にトランジスタを取り付け弱い電気が流れると大きな電気が流れるようにする。
こうすることで、スイッチの部分は僅かな電気しか流れず感電の心配はない。
だが、トランジスタを通じて大きな電流が流れるため、家電は十分に機能する。
本来は真空管を使っていたが、真空管は大きく、場所を取るし加熱しやすく割れやすい。
だがシリコンを使ったトランジスタなら、百分の一の体積で使えるのだ。
これをスイッチ類は勿論、ラジオを作り、生産した。
元々ラジオ産業を作り出していたので更に儲かることになる。
そして、テレビの研究も始めた。
しかし、これも未だ未だ序章だった。
最終的な目標、電子レンジを作り上げるのだ。
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