第374話 電子レンジにはマグネトロン
トランジスタラジオの歌番組が流れる中、忠弥と昴は、箱の中、先ほど入れたおにぎりが回転する様子を見ていた。
一見変哲のない、おにぎり、確かに普通のおにぎりだ。
しかし、作り置きのため冷え切っている。
だが、回転している内に、湯気が出始めていた。
チンッ
やがて甲高い鈴の音共に機械が止まった。
金属のメッシュが貼り付けられた扉を開けると、中には湯気を出す、おにぎりがあった。
忠弥が取り出すと、二つに分ける。
「あちちっっ」
指先に熱が伝わり、悲鳴を上げるが、十分に加熱した証拠だった。
中も十分に温かくなっており、割いた部分から湯気が出ている。
「うん、大丈夫」
二つに割った一つを食べて熱が伝わってることを忠弥は確認する。
「本当……凄く熱いくらいね。中まで冷めていたはずのおにぎりなのに」
残り半分を渡されて食べた昴が言った。
「本当に火を使わずに加熱できるのね」
「そうでしょ」
「電熱線で加熱しているんじゃないの?」
電気ヒーター、加熱用の配線で内部を高温にしたのではないかと昴は考えた。
「中に手を入れてみてよ。そんなに熱くない」
忠弥に言われておっかなびっくり中に手を入れるが確かに、思ったほど熱がない。すくなくとも、おにぎりをここまで加熱するだけの加熱を行ったようには見えない。
「まるで魔法のオーブンね」
「違うよ。電子レンジだ」
電子レンジ
マイクロ波を照射して、食材の中の水分子を振動させ、加熱する装置だ。
マグネトロン――ヒーターによって加熱される陰極と加熱されない陰極からなる熱電子管からマイクロ波を出す部品が使われており、高出力な電波を出せる。
陰極に性の高電圧をかけ、ヒーターで加熱すると熱電子が発生し、陽極へ向かう。その時、永久磁石などで磁場を発生させると電子はフレミングの法則により力を受けて曲げられ周回運動を始めマイクロ波を発生させる。
「熱による加熱じゃなくてマイクロ波、電波で食材の水分を直接振動させ加熱しているんだ。だから、周囲は熱くない。熱源にはなりにくいのさ」
「これなら凄く良いわ。火をおこす必要なく、電子レンジに入れればスイッチ一つで食材を加熱できるのね」
昴は感心するが、疑問にも思う。
「でもどうして、これが飛行機に重要なの?」
確かに便利な白物家電でありヒット商品になる。
だが飛行機の役に立つかどうかイマイチ分からない。
「強力な電波を出せるんだ。通信機に応用したら凄い電波を出せる。出ている電波に向かって飛行することも出来る」
「確かに」
夜間や雲中を飛行するとき、地上からの電波で誘導して貰えれば迷わず行くことが出来る。
だが出力が小さいため、電波を捉える事が難しかった。
しかし強力な電波が出ていれば簡単に捉えられる。
「それに電波を当てて戻ってくるまでの時間を計測すれば探知機としても使える。上空を飛んでいる飛行機を電波で捉える事が出来る」
「それは便利ね」
レーダーにもマグネトロンは使われている。
強力な電波放射には必要なのだ。
「でもトランジスタは?」
「飛行機の上空で使うスイッチや、通信機の性能向上に必要だ。真空管を使わないから、割れる心配も無く、安定して使える」
「じゃあ、洗濯機は?」
「小型で強力なモーターは、電動化に必要だ。例えばエンジンを始動させるとき、手で回すことなく、モーターで回すことが出来る。今開発中の引き込み式の車輪も、手回しではなく電動で出来る。他にも、いろいろな部分を電動で行う事が出来る」
「なら初めから航空機用に作れば良いでしょう」
「出来るけど、コストが掛かる」
「どうして?」
「航空機用はせいぜい、数千機しか使われないから数万個が限界。作っても高額だ。だけど家庭用なら一千万世帯、一割の世帯が購入するとしても百万個は売れる、作れる。その分安く作れる」
百万円の機械で製品を十個作るのと一千万個作るのでは、原価が大きく違う。
十個だと十万円の原価が掛かるが、一千万個ならコスト、開発費用は一個の製品当たり一円以下で出来る。
「今後の高性能化の開発予算も出来る。それに」
「それに?」
「飛行機の技術を使って皆に幸せになって欲しい」
技術は何処の誰でも使える。
ある場所で役に立つなら、他の場所でも役に立つ。
飛行機で使えるなら地上でも役に立つ。
飛行機を開発させてくれたお礼に、少しでも世間に還元したかった。
「本当にできすぎね忠弥は」
感心すると共に凄すぎて昴は呆れてしまった。
「でも一つ問題があってね」
「なに?」
「大量生産するのに資源が足りない」
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