第375話 資源調達に行こう

 皇国は資源不足だ。

 地質学上の奇跡とも言うべき立地のため、ありとあらゆる種類の鉱物が手に入るが、入手できる量が雀の涙ほど。

 農業程度ならともかく、大規模工業には足りない。

 だが、これからの大量生産のためにアルミの他にも大量の金属、そして飛ばす為には燃料のガソリンを必要とする。

 例えば機体製造だけでも


 零戦の自重、武装は勿論、燃料も搭載しない純粋な機体の重さは二トン

 F14トムキャットは一七トン

 B747は一八〇トン


 飛行機の機体はアルミ合金とその他金属の塊で出来ている。

 その分の重量の金属、アルミを集める必要がある。

 合金なら添加される希少金属も調達しなければならない。

 さらに飛ばすためには燃料も大量に必要だ。


「大量生産と運用を考えると資源が足りない」


 幾ら優れた製品でも原材料が足りなければ、生産できない。

 そして、皇国で調達するのは限界に達していた。

 燃料も石炭ならともかく、石油が足りない。

 需要はうなぎ登りだが、賄えるだけの供給がない。


「資源を大量に購入する必要がある」

「どこから仕入れるの?」

「新大陸南方のアルヘンティーナ、ここから手に入れる」




 かつて人類の世界は断絶されていた。

 しかし、旧大陸で航海技術が発展し、大洋を横断。新大陸へ到達した事で歴史は一変した。

 新大陸に眠っていた資源を採掘することで旧大陸は繁栄し始めた。

 各国はこぞって新大陸に植民地を作り上げ、得た資源を使って豊かになった。

 後発の皇国も新大陸の一地域アルヘンティーナにかつての戦争で利権を手に入れて、勢力圏を作り上げ、資源を得て豊かになろうとしていた。

 忠弥は、金属資源豊かなアルヘンティーナからアルミや石油などの資源を得ようとしていた。

 そのために、早速出発した。


「まさか、移動に飛行船を使うとはね」


 日が暮れた後、夜の闇に照明に照らされ浮き上がる巨大な船体。

 全長二四五m、直径四一m、容積二〇万立方メートルの巨大な飛行船を見て昴は呆れる。


「便利だし大きい上に速いからね」


 だが、忠弥は気にせず、飛行船から降ろされたタラップから乗り込んでいく。


「それに、ウチの航空会社を使わないと」


 島津航空のフラッグシップ<木星>。

 四〇人の乗客と五〇名の乗員を乗せ、運航する大型旅客飛行船だ。

 時速一三〇キロで航行可能であり、長距離機がない中、唯一の定期航空輸送を可能とする航空機として存在した。


「今回はアルヘンティーナへの新規航路開拓も兼ねている」


 これまでは、皇国と旧大陸、そして新大陸のメイフラワー合衆国を結ぶ航路を開拓していた。

 人口が多く富裕層も多い上に、船舶による大洋横断航路が活況を呈しているので、移動の需要、参入しても十分利益が上がるくらい乗客が集まると考えたからだ。

 実際、旧大陸、皇国、新大陸の間を結ぶ航路は人気でどの飛行船も満員御礼だ。

 島津航空は黒字経営で順調だったが現状に安堵せず、新たな航路を開発し事業拡大を目指した。

 その一つが資源需要が高まっており供給源として注目されるアルヘンティーナだった。企業家などが各国から押しかけている。

 彼らをターゲットにすれば収入が増えるだろう。

 この計画に異論は無かった。

 ただ、この新型船<木星>に関しては異論が唱えられていた。


「でも、この<木星>、ハイデルベルクから購入する必要あった?」


 皇国の島津でも飛行船の生産は行われていた。

 しかし、忠弥はあえて敗戦国であるハイデルベルクから飛行船を購入しており、最新最大の客船<木星>もハイデルベルクから購入していた。

 国内でどうして生産しないのか昴は疑問が湧いていた。


「ウチの工場だと手一杯だしね」


 大戦で飛行船の活躍を見た各国は飛行船の製造を始めた。

 だが、すぐに生産することは出来ず、生産能力がある皇国に発注することにした。

 大戦が終わり、軍の需要がなかったために島津航空製作はできる限り受注した。


「あなたが生産体制を拡大しないからでしょう」


 しかし、忠弥は生産体制の拡大は決断しなかった。


「広げすぎると、撤収するとき困難だからね」


 忠弥は、飛行船の黄金時代が短いことを知っていた。

 飛行艇や大型機の発達により、飛行船の優位が日々失われている。

 飛行船時代が終焉を迎えた時、生産体制が大きければそれを占めるのに莫大な労力と時間、そして混乱が起こることを知っていた。

 だから、生産体制を拡大する気にはならなかった。

 同様の理由で空軍で飛行船の新規調達を抑えている。

 しかし需要を見逃す気も無かった。

 飛行船によって航空路が開発されれば、この後の航空機の時代がすんなりとやってくると考えている。

 だが終焉を迎えるとき、貧乏くじを引きたくない。

 そこで、生産体制がありながら稼働していない国、敗戦国のハイデルベルクに目を付けた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 作中に登場する飛行船<木星>は、あの飛行船、ヒンデンブルク号がモデルです。

 <木星>は日本航空が最初に保有し定期飛行に用いたマーチン2-0-2に付けた<もく星>からとりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る