第243話 海上の昴
「ハッチが開かない。故障したか」
飛天に近づいた忠弥は飛天の状況を見て飛天の損害を理解した。
ベルケとの空戦はカルタゴニアと飛天が衝突すると、ベルケはすぐさま機首を翻し、逃走していった。
燃料が限られる艦載機では、洋上で戦闘を行える時間は限られる。
陸上飛行場へ戻るだけの燃料を残す必要があるからだ。
一方、忠弥達はそんな事を気にする必要は無い。
元々、空戦を行わなくても味方の陸上基地へ戻れる位置ではないのだ。
発艦したら不時着することは覚悟の上だった。
例え、不時着しても混乱する大艦隊に救助される可能性は少ない。
敵に見つかる可能性があり、一を占めることも救助のための灯りをともしてくれる事は無いだろう。
それを覚悟して忠弥は飛び出したのだ。
「出来れば皆は助けたいが」
それを承知で飛び出していった連中だが、それだけに惜しい。
なんとか回避する手段を構築することが出来なかったのか、と忠弥は悔やんだ。
「うん?」
その時、海上に灯りが点るのが見えた。
一本は上空へ向かって点り、もう一本は海上を照らしていた。
「乗艦を歓迎致します。ミス島津」
指揮下に入れられた駆逐艦スウィフトの艦長が昴を敬礼して迎えた。
「ありがとうございます艦長。忠弥達を救うのに協力していただけるのですね」
「はい、長官からはミス島津の要望に可能な限り従うよう命令を受けております。しかし、本艦は水雷攻撃用の駆逐艦です。航空機を収容する装置などありませんが」
「ご心配なく。そんなことは承知です。幸い海面は凪いでいるので、不時着水できます。艦載艇はありますか?」
「三〇フィートカッターなら搭載しております」
「ありがとうございます。降ろして着水した飛行機の乗員を収容してください」
「はい、分かりました。しかしこのような暗い中で着水出来るのですか?」
「その手助けをします、そのために海面をサーチライトで照らしてください」
「敵が近く煮るのにですか?」
「既に敵は去ったのでしょう」
「ですが残敵がいる可能性があり攻撃を受けることも」
「では空を飛んでいる忠弥達を、大艦隊の窮地を救い勝利をもたらした航空隊を見捨てろと」
「いえ、そのようなことは」
航空隊の情報提供と支援のおかげで逆転出来たし攻撃を行えたのはスウィフトの艦長も心得ている。
接触前の位置情報の提供、砲撃位置の指示、発煙筒の投下、照明弾投下、敵飛行船の撃墜。
自分達が生きていることが出来るのは彼らのおかげだ。
「彼らを助けるためにサーチライトの照射を」
「了解しました」
「海面に一本、位置を示すために上空へ向けて一本出してください」
「アイアイ・サー……いえ、マアム。直ちに照射! 目標は海面と上空直上! 無理なら可能な限り上空を照らせ! 両舷だ!」
艦長は敬称を訂正して命じた。
全ての準備が終わると昴は上空を向いて言った。
「さあ、来なさい忠弥! 星の名を持つ私、昴があなたを導くんだから!」
言い切った瞬間、背後のサーチライトが一斉に点灯し海面と夜空に光の柱を出現させた。
「全機集まれ!」
忠弥は周辺を見渡して味方機、僅かなシルエットや排気炎から見つけ出し集合させた。
「味方の誘導だ! あの駆逐艦の周辺に不時着しろ!」
飛行船との合流は難しい。かといって無闇に不時着しても行方不明になるだけ、ならばここで不時着し王国駆逐艦に回収して貰った方が生き残れる可能性が高い。
「燃料がもう無いぞ! 今のうちに不時着するんだ!」
忠弥の指示で次々と海面に機体が不時着していく。
上空に他の機体が無くあんったのを確認すると、忠弥も不時着する事にした。
「ああ、怖いな」
通常は陸地に着陸するのに海面は怖い。
固定脚のため最初に海面に足が引っかかり、機首から突っ込む危険もある。
「引込脚の研究を進めておけば良かったな」
愚痴るが事ここに至っては仕方ない。
研究を進める事を誓い、不時着の準備に入る。
忠弥はスロットルを前に倒しエンジン出力を上げると共に、機首をできる限り持ち上げた。
こうして足が引っかからないように、最初に尾部が海面に接触して速度を低下させ、ゆっくりと減速し、最後に機体全体を海につけるのだ。
「さあ、下りるぞ」
異常なほど機首上げを行った機体を、ゆっくりと海面に近づける。
駆逐艦のサーチライトのお陰で海面までの位置はよく見える。
慎重にゆっくりと高度を落としていった。
不意に衝撃が後ろから訪れる。
尾翼が海面に接触したのだ。
機首が落ちかけるが、忠弥はエンジン出力を上げて機首を上げ続ける。
やがて十分に減速するとスロットルを戻して、エンジン出力を下げる。
推力を失った機体は徐々に機体をさげ、足を海面に付ける。幸い尾部が海面に付き抵抗となっていたため、前につんのめることは無かった。
機体は静かに海面へ着水した。
「ふうっ」
無事に不時着できて、忠弥は安堵の溜息を吐く。
周りを見ると予め待機していたカッターが近づいてきた。
北海の海は冷たいが、疾鷹は不時着水しても数十分は海面に浮かんでいられるよう設計されている。
忠弥は、落ち着いてベルトを外すと近づいてきたカッターに乗り込み救出され、駆逐艦スウィフトに引き上げられた。
スウィフトの甲板に上がると命の恩人、天使が忠弥に抱きついてきた。
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