第244話 不時着後のティータイム
「忠弥!」
甲板に引き上げられた忠弥に昴が抱きついてきた。
「昴」
もみくちゃにされながら、忠弥は感謝を述べた。
「ありがとう。君が不時着を誘導してくれたんだね」
「うん。絶対に困っていると思ったから」
「ああ、助かったよ。君は本当に闇夜に道を示してくれる導きの星だよ」
そう言って昴を抱き返した。
抱き返してきた忠弥に昴は驚いたが、すぐに頬を緩めた。
しかし、忠弥はすぐに離れて、駆け寄ってきた赤松中尉に尋ねる。
「収容されたパイロットの数は?」
「確認しただけで六名です」
忠弥を含めて一一機の機体が飛び出したはずだ。
他の駆逐艦に収容されている可能性もあるが、大きな損害だ。
「昼間を含めて三十機以上の損失か」
他にも集計されていない機体がいるはずであり更に数は増えるだろう。
被弾して修理不能になったり、使いすぎで飛行限界を超えた機体があるはずだ。
大損害と言って良かった。
「まあ、艦隊が勝てて良かった」
それだけの機体を失った意味があるのか問いかけるような顔をしていた赤松に忠弥は答えるようにいった。
残念なことに航空戦力はまだ十分に有力では無い。
戦艦を沈めるだけの実力も装備も無い。
味方の力を借りる必要がある。
大艦隊が勝ったことで連合国は封鎖線を維持し続けられる。
帝国を締め上げることは十分に可能となり戦争を優位に進める事が出来る。
だが、航空戦力の有無、航空優勢がどちらにあるかで戦局を大きく左右する事をこの戦いで証明できた。
今後は、航空機を無視することは、皇国空軍の存在無くして海戦は優位に進まないことを知らしめたのは大きな成果だった。
「機体の収容を急いでください。海面の捜索もお願いします」
撃墜されて洋上に脱出したパイロットもいるはずなので、捜索を忠弥は依頼した。
「二宮大佐、個室のご用意が出来ています。ご案内します」
「部下達の方は?」
「ご安心を、部下の方々もご用意しています」
言われて忠弥は安心し、艦内に下りようとした。
だが、甲板が騒がしくなって下りるのを止めそちらに向いた。
「何がありましたか?」
忠弥が駆けつけると、帝国軍のパイロットが水兵達に囲まれていた。
パイロットの救助を命令されていた水兵達だが、海に浮かんでいる人間を全て引き上げようと必死だったため、飛行服を見慣れないこともあって引き上げるまで帝国軍とは気がつかなかった。
「止めるんだ」
忠弥は袋だたきにされようとしていたパイロットを助けた。
「彼は捕虜だ捕虜としての待遇を」
「けどこいつらは俺たちおひどい目に遭わせた連中だ」
先ほどの夜戦で照明弾を受けて味方は大損害を受けたことで彼らは気が立っていた。
「我々も帝国以上に帝国の艦艇を痛めつけている」
「ですが」
「我々は勝ったんだ。勝者として、相手に寛大な態度を示して貰いたい、俺たちの勝利を傷つけないようにするために」
「アイアイサー」
勝利した上にその立役者に言われては水兵達も、暴行を加える気は失せた。
「艦長、彼も私と同じような扱いを頼む」
「サー、申し訳ありませんが、本艦は駆逐艦であり、その、余裕が無く」
言いづらそうに艦長が答える。
千トン未満の駆逐艦では乗員の居住スペースさえ十分ではなく戦艦のように余分な人員を収容できる余裕は無かった。
「なら私に割り当てられた個室を彼に。彼も戦ったんだ。それに相応しい待遇を」
「了解しました!」
忠弥の言葉に感銘を受けた艦長は敬礼して忠弥の言うとおりにした。
甲板に放り出されることになった忠弥は痩せ我慢したが、体が震えた。
「脱ぎなさい」
それを見かねた昴がタオルを持ってきて言った。
「濡れていると風を引くわ」
「いや、でも」
濡れたのを噴く野は賛成だったが、昴に拭かれるのは躊躇われた。
「わがままを言っていないで着替えなさい」
昴は問答無用で忠弥の服を脱がし始めた。
「ま、待って」
止めるように忠弥は言うが昴は聞かなかった。
あっという間に脱がされて裸にするとタオルで海水を拭き取る。
王国の乗員達は騎士道精神に則り、目をそらし無かったことにしてくれた。
「やり過ぎだよ」
濡れた飛行服に替わり士官の換えの服を貸して貰って来た忠弥は擦られてヒリヒリする肌を摩った。
「はい、忠弥」
タオルを返してきた昴が忠弥にティーカップを差し出した。
「艦長からの配給よ。暖まって。王国の配給品は結構美味しいわよ」
寒さで冷え切った体が紅茶を欲していた。
忠弥はカップを両手で持ち手の平から熱を体に取り込むと一気に飲み干した。
腹の中をじんわりと温める紅茶は美味かった。
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