第390話 カウンタークーデター

「いやあ、上手くいったな」


 攻撃が順調にいっていることを聞いて忠弥は安堵した。

 幾ら、皇国から兵士を送れるにしても往復六日はかかりすぎだ。

 移動させている間に、クーデター側が大量の兵力を集めて攻撃してくる事も考えられる。 なので早急に増援が必要だった。

 幸い、川の向こうには首相であるペロンを支持してくれる部隊がいる。

 彼らを渡らせれば良い。

 船は差し押さえられているが、皇国の部隊を輸送した飛行船がやってくる。

 彼らを使って、川向こうの部隊を輸送したのだ。

 大河とはいえ、幅は十数キロ程度、飛行船だと乗り降りを含めても半日もかからない。

 一日四回のピストン輸送で三万人を空輸し、忠弥側は反撃体制を整えた。


「まさか、兵士を空輸するとは」


 圧倒的な兵力がやってきた事にペロンは驚く。

 地球の歴史では第二次大戦前のスペイン内戦、その初期においてフランコを支援したドイツが多数の輸送機を使い、アフリカ大陸のスペイン植民地から陸兵一万四千をスペイン本土へ空輸し、フランコの勝利に貢献した。

 これは史上初の戦略空輸と呼ばれる戦いである。

 この事実を知っていた忠弥は、飛行船の輸送力を最大限に利用して、川向こうから支持してくれる部隊を大量に輸送した。

 結果、クーデター側は主力である一万が飛行場周辺に集まってきたこともあり、ペロン側に奇襲され制圧されてしまった。

 攻撃前という密集している上に、一番無防備になる瞬間に攻撃を仕掛けたのだ。

 しかもこちらの方が数が多く、包囲殲滅することが出来る。


「連中の兵力配置は分かっているしね」


 持ち込んだ航空機で偵察を行ったため、敵の位置など完全に分かっている。

 攻撃を仕掛けるのは簡単だった。


「さて、トドメと行こうか。全航空部隊出撃!」


『了解!』


 皇国空軍の主力部隊、最新鋭機で編成された航空隊が忠弥と共に出撃していく。

 装備するのは初風の後継機である最新鋭機、清風だ。

 複葉機だが、張線の代わりにW型の支柱で翼を支えている。

 お陰で空気抵抗が少なくなり、速力が上がっている。

 また、下翼が半分ほどの長さのため空気抵抗が小さく、これも速力の上昇に繋がっている。

 最強の複葉機として活躍出来ると忠弥は自負していた。


「連中は多少は航空機を持っているようだが、大した事はないだろう」


 メイフラワー合衆国は皇国から送られた初風をP1戦闘機として採用し、航空隊の主力にした。

 戦争終結後、余った機体をアルヘンティーナへ軍事援助として送っている。

 しかし、最新鋭機は送っていない。

 そのため、忠弥達の敵ではなかった。


「相手は初風だ。撃墜するぞ」


 忠弥は機体を操り、敵の後方へ回る。

 速度性能の差が大きいため、簡単に回り込める上に、後ろに付かれても増速して逃げられる。


「これじゃあ七面鳥打ちだな」


 大戦でハイデルベルクいやベルケ相手に戦った忠弥達の前に一世代前の航空機など簡単に落とせた。

 機数が少なかった事もあり、彼らはすぐに退散した。


「逃げる敵は追うな」


 忠弥が指示して飛行場上空の制圧に専念する。


「さて、地上の部隊の支援に入るか。第二波に出撃命令」


 飛行場で待機していた第二陣が出撃していく。

 同じ清風だが、こちらは爆弾とロケット弾を装備しており地上攻撃専門だ。

 敵機がいなくなったこともあり、ゆっくりと目標を見定めて攻撃する。

 狙いは、飛行場を狙って砲撃する大砲だ。

 次々と爆弾を落として行き、混乱させる。

 空からの思わぬ攻撃にクーデター側は混乱し、逃げ出していった。




「報告! クーデター側の部隊は潰走しました」


「手を緩めるな。このまま攻撃を行い、クーデター側を一挙に制圧する」


 ペロン首相が正当な立場である事を示さなければならない。

 クーデター側の主力部隊が壊滅した今がチャンスだ。

忠弥は迅速に進軍を命じた。

 主力が壊滅した上に、数で圧倒しているため、クーデター側を制圧するのは簡単だった。

 クーデター側は状況不利を悟るとすぐに首都から撤退。

 鉱山地帯へ逃げていった。


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