第391話 新型爆撃機 震錬
「首都はペロン首相が制圧し、彼の政党である正義党が政権を掌握した。クーデターを起こした鉱山党は徹底的に責任を追及する」
ペロンの宣言により鉱山党への追撃をかけることになった。
「忠弥さん、今回はどうもありがとうございます。内線が集結したあかつきには、皇国へ優先して輸出させていただきます」
「それはどうもありがとうございます。しかし政権運営は大丈夫ですか」
「大丈夫です。私に逆らえる人間はいません。反対者は全て敵です」
元々ペロンの政治基盤は弱かったが、クーデターにより大半の政権幹部が拘束され失脚。
その後、クーデターをペロンが呼びかけて鎮圧したため、ペロン以外の政治的な有力者がいなくなった。
そのため、ペロンの支持基盤は盤石だ。
しかもクーデター鎮圧の象徴となったために刃向かう人間を国家の敵と言いやすい。
反対者を次々と弾圧することさえ可能だ。
「早速ですが、敵の根拠地を破壊していただけませんか?」
「それは構いません」
忠弥は承諾した。
「爆撃隊に出撃命令を出してくれ」
「了解」
すぐに皇国からやって来た爆撃機が出撃準備に入る。
飛行船から空中給油を受けつつ、飛来したのだ。
だが、その機体をみてペロンは驚いた。
「何ですかこの機体は」
複葉機だが、胴体部分が翼だった。
翼が胴体と同じくらい大きく、後方へ伸びており、後ろに申し訳程度に水平尾翼と二対の垂直尾翼が付いている。
エンジンは上翼、胴体の上をプロペラ後流が吹き抜けるようになっていた。
「我々の最新鋭爆撃機震煉です」
「胴体が翼のように見えますが飛べるのですか?」
「勿論です。おっしゃる通り、リフティングボディといって胴体が翼の形状をしているため揚力が生まれます」
アメリカの航空技術者ビンセント・ブルネリが考え出したリフティングボディ機。
胴体を翼の形状にして揚力を生み出そうと言うのだ。
そして完成したのがRB-1だ。
https://kakuyomu.jp/users/hayamasoujirou/news/16817330657670636851参照
彼が生み出したRB-1は胴体が翼の形をしておりその部分だけで機体全体が生み出した揚力の五〇%を生み出しており、当時としては高い性能乗客定員三〇名を発揮した。
しかし、形状があまりにも異質すぎたため、評価されず採用されなかった。
だが奇天烈好き、もとい見た目に偏見を持たない忠弥は、性能の高い機体を作り出すため、リフティングボディを採用。
新型の爆撃機にした。
当初こそ全員、寧音や碧子は勿論、昴でさえ成功をいぶかしんだが実際に飛びその高性能さを見て驚いた。
以後、島津航空の旅客機として皇国での飛行に使われている。
海外への売り込みを行っているが、諸外国が余剰の爆撃機を旅客機に転換しており、需要がないのと奇抜なスタイルのため敬遠されたこともあり、芳しくない。
皇国空軍で輸送機の他、搭載力を生かして爆撃機に使用している。
「見た目はおかしいですが、二トンの爆弾を搭載して三〇〇キロ先の目標を爆撃出来ます」
「それは凄い」
揚力が大きいため搭載力がある。
タップリと爆弾を落とすことが出来る。
「すぐに効果はあらわれますよ」
忠弥は軽く請け負った。
出撃すると早速、効果が現れた。
清風の護衛もあり、悠々と爆撃目標に到着した震煉二七機は、合計五四トンの爆弾を投下。
鉱山党を指示する部隊の兵站を破壊していった。
その後一週間は、正義党の指示で爆弾を投下して行った。
だが、同時に疑念が生じた。
「ねえ忠弥、おかしいんだけど」
疑念に気がついた昴が忠弥に話した。
「どうした?」
「指定されている爆撃の箇所がどう見ても一般地区なのよ。偽装した弾薬庫とか言っているけど戦果報告を聞いても命中したのに二次爆発が起きていないし」
「変だな。聞いて見よう」
すぐに忠弥はペロンを問いただす。
「指示された目標が軍事施設以外のようなのですが」
「偽装された弾薬庫ですよ」
「爆発しませんでしたが」
「キット弾薬を余所へ移した後だったのでしょう」
「大勢の民間人が亡くなっているのですよ」
忠弥は飛行機は好きだし戦争は無くしたいがしょうが無いと考えている。
だが、戦略爆撃、特に無差別爆撃は可能な限り減らしたいと考えていた。
各国で空軍関係者が空軍万能論、地上と海上の兵力は防備のみに限定し、空軍が攻撃を担当。開戦と同時に主要都市を無差別爆撃し、相手国の国力を壊滅させようという論調が出ていた。
だが忠弥は決して賛同していない。
東京大空襲など転生前に聞かされていたからだ。
民間人を一方的に攻撃して虐殺するなど許せない。
それにそんなのは無駄だ。
国力はそれほど減らない。恨みを買うだけで上手くはいかない。
「これ以上、民間施設の空爆を行えというのなら我々は撤退させて貰う」
「それは困る。反対派が多く、空爆で脅さなければ政策を進めることが出来ない」
「そんな事をしても国民の支持は離れていくだけだ。手を退かせて貰う」
「その場合は資源輸出を再考させてもらう」
「条約を無視するのか」
忠弥は更に強く問い詰めようとしたが、外で大きな爆発が起きたため追及出来なかった。
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