第392話 奇襲爆撃

「なんだ?」


 突然の爆発に驚きペロンを放り出して忠弥は外を見た。

 見ると飛行船が炎上していた。


「爆発事故か?」


 飛行船は残念な事に水素を積んでおり下手をすれば爆発する。

 輸送に葉細心の注意を払っているが事故を根絶することは出来ない。

 初めは忠弥も事故だと思った。


「いや、空襲だ」


 爆発音の中にかすかにエンジン音が響いていた。

 敵の空襲だった。


「敵機がやってきただと! どこから!」


 驚いていると、上空を見慣れない機体が飛んでいた。

 低翼の単葉機で凄まじい速度で駆け抜けていった。

 見覚えのない機体だった。

 飛行機の好きな忠弥は、この世界の飛行機も頭に入れている。

 最新鋭機の情報は常に写真付きで収集させており、全ての機体を覚えているが、どの機体にも該当しない。

 いや、ハイデルベルクがグライダーとして製造した機体に似ている。

 翼は短くなっているしエンジンが付いているが、翼の大きさや胴体と尾翼の形状が似ている。


「グライダーを隠れ蓑に戦闘機を作っていたのか」


 航空機の開発を禁止されたハイデルベルクはあの手この手で航空機を開発しようとしているのだろう。条約を抜けるためにグライダーとして開発し、有事の際にはエンジンを積み込んで戦闘機に出来る用にしていたのだ。


「まったく恐れ入る」


 忠弥が感心していると、複葉機が急降下してこちらに向かってきた。

 確かあれはハイデルベルクが大戦末期に作っていた新型機。

 実戦投入される前に終戦となったと聞いている。

 ただ、飛んだ姿が戦後のモノしかなく、開発の時期を誤魔化して――終戦後に開発されたが戦争中に開発したように偽装して条約をすり抜けた可能性が高い。

 複葉機でも搭載力が大きく地上攻撃機として使える。

 だが、爆弾を抱えたまま急降下してくるのは危険だ。


「まさか……」


 忠弥が呟いた瞬間、機体各所から花が開くように板が広がった。


「ダイブブレーキ!」


 急降下している時、速度が上がりすぎないよう開いて速度を抑えるための物だ。

 複葉機は速度が落ちると狙いを定めて爆弾を投下。

 格納庫に見事命中させた。

 他にも燃料タンクや弾薬庫に的確に爆弾を落としていく。


「急降下爆撃か」


 これまでの爆撃は爆弾を投下するだけだった。

 だが、狙いを定めた後爆弾を落とし、あとは運任せ。

 途中で爆弾が風で逸れることが多い。

 また飛行機の慣性、前に進もうとし続ける力が加わるため投下地点より前へ進んでしまう。そのために爆撃手は機首にいることが多いのだが、限界はある。

 命中率は訓練で良くて一割に届くか否かだ。

 その欠点を解決しようというのが急降下爆撃だ。

 目標に向かって降下して行き、爆弾を投下。慣性の力を目標に向けることで命中率を高めるのだ。

 その効果は、見ての通りだ。

 襲撃してきたのは少数の機体だが爆弾を的確に半数以上が重要な施設に命中している。

 爆弾を投下し終えると、正体不明の航空隊は来た時と同じ方向へ去って行った。


「凄いな」


 的確に目標を破壊し他に被害はなし。

 熟練の腕前に、忠弥は感心した。

 それ以上に嬉しかった。

 あの飛び方、機体が変わっても切れよい動きは忘れようがない。


「ベルケの奴、戻ってきたな」


 大方、規制の少ない海外で飛ぶためにハイデルベルクを出国しアルヘンティーナに来て傭兵パイロットとして雇われたと言ったところだろう。


「そういえば鉱山党のマークと違っていたな」


 疑問に思っていると、ラジオから放送が流れた。


『我ら農民党は正義党の悪逆非道な爆撃に抵抗するべく、武装蜂起する。しかし、アルヘンティーナを外国に売り渡し、鉱山の汚水を垂れ流す鉱山党を許すわけにはいかない。我々は自らの政権を獲得するべく戦いに出る! 決して我らは屈しない! アルヘンティーナの大地に生きる真の民として最後まで戦う』


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