第393話 アルヘンティーナ内戦
アルヘンティーナの政治情勢は歴史的に見て三つに分かれる。
まず、旧大陸諸国が侵略により植民地化。
原住民との混血が進むと共に開拓が進められ各所に大規模プランテーションが出来た。
旧大陸への農作物輸出で儲けており、彼らは現地における有力者になった。
これが農民党の根源であり、農業と牧畜を基盤にしている。
しかし、開発が進むにつれて、鉱物資源が豊かであることが判明。
各所に鉱山が建設され、輸出が始まる。
産業革命により金属需要が高まったこともあり、鉱山会社の収益は膨大になる。
これが鉱山党の始まりだった。
彼らは鉱山を開発したいと思っていたが、土地を奪われる事と、農地の鉱物汚染を恐れた農民党と対立する。
農業と鉱業は対立したが互いに切磋琢磨し、近代化を進め、アルヘンティーナの発展に寄与した。
しかし、近代化の過程で大規模農場による中小農場の没落で多数の貧困層が生まれた。
彼らは産業の利益にあずかれず、大規模農家や鉱山に低賃金で雇われ、日銭を稼ぐ地位に甘んじていた。
彼らを救うために団結し力を付けつつあるのが正義党だった。
大規模農地と鉱山会社に輸出関税と法人税を課し社会福祉を充実。また給与の保証や労働条件の改善などを政策の中心としていた。
多くの貧困層の支持を背景に正義党は急速に勢力を伸ばし、国会に議席を獲得。
正義党、鉱山党、農民党の三つでアルヘンティーナ国会は分裂していた。
そこへ、今回業績の悪化で力を失いつつあった鉱山党がメイフラワーの支援でクーデターを起こしたが正義党に逆クーデターを行われ劣勢となり首都を追い出された。
正義党は政治権力を掌握し鉱山党を追い詰めると共に農民党の排撃も行っていた。
「結局、正義党はチャンスを逃したくないという訳か」
この国の大多数を占める貧困層の支持を元に正義党が数を伸ばし、政権基盤を確立したいのだろう。
だが、貧困層を追い詰める事などしたくない。
しかし、資源供給を約束していくれる正義党の政権基盤を揺るがしたくない。
「分かりました。反体制派の掃討に手を貸しましょう」
忠弥は国益の観点から承諾した。
敵が航空機を持ち、攻撃を仕掛けてくるとなれば対抗する必要があるからだ。
「いいの? 安請け合いしちゃって」
「いいんだよ。ここでヘソを曲げられたら困る。それに」
「それに?」
「ベルケが相手だとアルヘンティーナ軍が戦えるはずがない」
忠弥の予想は当たっていた。
アルヘンティーナ軍は進撃し、クーデター派――正義党に刃向かう勢力を攻撃する事にしていた。
これを忠弥の航空部隊が、上空から援護。
敵機の襲撃から守る為に上空警戒の戦闘機を上げたり、攻撃機を発進させて、防御陣地、特に重砲陣地の破壊に努めた。
「今日は来るかな」
清風に乗る赤松は退屈していたため敵が来る事を望んだ。
ここ数日は命令で味方部隊、正義党の部隊を援護するため、彼らの上空で警戒するため、出撃している。
しかし、敵機が来ないため退屈している。
「連中逃げまくっている」
二宮司令の言葉では、敵は損害を少なくするために積極的な攻撃は仕掛けてこないと考えられる。
だが、本拠地へ向かう部隊への攻撃は繰り返すと予想される。
前線部隊の上空で援護を行うように。
「来てくれると良いんだが」
夜明けと共に攻撃を行う事が殆どなので遭遇する事は希だ。
それでも、敵との会敵を期待して前線部隊の上空を警戒していた。
「うん?」
上方に見慣れない機体、単葉機の姿が見えた。
「敵機だ!」
現在味方は複葉機しか居らず単葉は敵だけだ。
味方に警告を入れるとすぐに赤松は高度を上げようとする。
だが上昇中に、敵機の攻撃を受けてしまう。
「ちっ」
赤松は素早く旋回して避けた。
複葉機のため揚力が大きく機動性はよいので避けるのは簡単だ。
「今度はこっちの番だ!」
赤松は機体をねじるように操作し、敵機の背後に食らいつき、狙おうとする。
「畜生! 敵機の方が早い!」
翼が一枚しかないため、抵抗が少なく敵機の方が早い。
赤松の乗る清風は下の翼が、短くなっていて速度が速くなるようにしているが、複葉機なので速力は劣る。
射程外へ逃れられた後、引き返してきて再び赤松に狙いを定める。
「させるか!」
赤松は機体を旋回させて避けようとする。
しかし敵は手練れなのか、自信があるのか赤松に付いていこうとする。
「巴戦に付き合うか面白い」
清風は下の翼が上の翼より後ろ寄りに付けられており、失速し難くなっている。
相手よりさらに小さい円を描いて逃れる事が出来る。しかも単葉機であれだけのスピードを出すには抵抗を小さくするため、翼を小さくする必要がある。
翼が小さければ揚力は低く旋回性能は低い。
後ろに回り込む事が出来る。
「もらった」
目論見通り後ろに付いた赤松は敵機に狙いを定めた。
だが敵機は、追いつく寸前、機体を翻して逃げていった。
「畜生! 逃げやがった!」
巴戦で勝てないと考え逃げたのだ。
しかも、良くないことは続く。
「ああ! やられている!」
赤松が戦闘機と相手をしている間に、敵の急降下爆撃機が正義党の部隊を攻撃し被害が出ていた。
「畜生! 戻ってきやがれ!」
だが赤松の叫びもむなしく、攻撃を終えた敵機は、用済みとばかりに速力を上げて離脱していった。
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