第394話 ベルケの窮状

「我が軍の被害が酷いのですが」


 しかしペロンは不満だった。

 いっこうに部隊の被害が減らないし襲撃が収まらないからだ。


「敵は移動飛行場から攻撃しているんですよ」


 広大な農場の放牧地を滑走路、大型トラクターの倉庫を格納庫、サイロを燃料タンクの代わりにして、偽装を兼ねて設置している。

 通常は、放牧地に牛を放ったり、見張り小屋――タイヤが付いていて移動可能になっており一見滑走の障害物に見えてしまい、飛行場とは思えない。

 上空から偵察しても農場と敵の偽装飛行場の区別が付かず、敵機を撃滅出来ずにいた。

 少数の機体で正義党の補給陣地や砲兵をゲリラ的に襲撃してきている。

 しかも急降下爆撃を使い、正確な命中率を誇るため、襲撃の回数は少ないが、被害が大きくなる、損害が大きくペロンを苛立たせた。

 農村部の人口希薄地帯のため、監視の兵隊や協力者を得にくいことも、敵航空隊を監視出来ない原因になっていた。


「兎に角、敵の航空隊を撃滅してほしい。それが出来ないのなら常に上空に味方機を置いてくれ」

「無理です」

「五十機近くも居てどうして無理なのだ」

「燃料がありません。常に上げておけるわけではありません」


 忠弥の言葉に嘘は無かったが、全てではなかった。

 味方部隊の上空へ戦闘機を送るとしても常に上空に待機出来る訳でもない。

 ローテーション、上空待機、地上での給油、移動の三部隊に分ける必要があるため、どうしても上空に送れる機数は最大でも三分の一しかない。

 それに飛ぶと飛行機は消耗していく。飛びすぎて飛行不能になる機体が出てくるので、稼働機の低下が起こり、出せる機体が少なくなる。

 少数では各個撃破される。

 それに待機している間の燃料消費がばかにならない。

 もし、忠弥が敵の指揮官なら、襲撃を控え、燃料がなくなって、飛べなくなる機体が増えた時、一挙に襲撃を仕掛ける。

 だから、上空援護に機体を出したくなかった。


「地上支援には出ていますから、それで我慢してください」

「だが敵の航空機による損害は大きいぞ」

「配備した車載の対空砲で迎撃をお願いします」


 忠弥はペロン達にトラックに対空砲を乗せた車両を渡して援護させていた。

 また、機関銃を乗せたトラックを現地で改造して作り出し、対空車両に用いていた。


「使っているが、敵機の襲撃を止めたい。なんとしても撃退してくれ」


「分かっていますよ。こちらからも撃滅しようと考えていましたし」


 忠弥はペロンに約束して追い返した。


「いいのあんな約束して」


 昴は心配になって言った。


「いずれ撃滅しないといけない。それにソロソロ、ベルケも仕掛けてくるころだ」




「このままではじり貧だな」


 農家の屋敷に作った司令部でベルケは、報告書を読みながら溜息を吐いた。

 航空技術の保全のため、規制の多い――戦勝国の監視が厳しいハイデルベルクから外国へ赴いている。

 書類上は退役して一民間人だがハイデルベルク国防軍の意向もあっての事だし、多くの支援を受けている。

 アルヘンティーナへやって来たのも命令を受けたからだ。

 ハイデルベルクも資源が不足しており、アルヘンティーナの鉱物資源や農作物を必要としていた。

 皇国が肩入れする正義党へ食い込む余裕はないしメイフラワーの息が掛かった鉱山党へも支援は出来ない。

 なので農民党に肩入れしている。

 彼らの協力と祖国の軍部が支援してくれるお陰で戦えている。

 駐在武官経由で情報が流れてくるのもその一つで、皇国がアルヘンティーナへ派遣した戦力を、その動きも良く分かっていた。

 だから自分たちの劣勢も理解していた。


「ですが、我々の損失は少なく済んでいます」


 エーペンシュタインが答える。

 航空機から離れるのが嫌でベルケに従って付いてきていた。

 戦闘機にもなる単葉グライダーを設計しアルヘンティーナへ持ち込み、クーデターが起きると素早く改造し上手く使っていた。

 エンジンの取り付けと主翼の取り替えに時間が掛かったが、上手く作る事が出来た。

 農業用の農薬散布航空機を改造して急降下爆撃も可能な地上攻撃機にしている。

 皇国のように大量の爆撃機を使い水平爆撃出来る能力がないため、また爆弾の製造能力が密かに生産するため少数に留まるため、命中率を上げる必要から急降下爆撃を多用していた。

 お陰で、少数の機体で対抗出来ている。


「だが、敵は圧倒的だ。いずれ制圧される」


 ベルケは先の大戦で機数を揃える事が戦いに勝つ条件である事を良く分かっていた。

 善戦しているのは、敵の航空機が少ない所を狙って攻撃しているからだ。

 だが、忠弥が支援する正義党の部隊は人数が多く、ベルケが支援する農民党の本拠地に近づいてきている。

 このままでは、やられてしまう。


「一つ、敵の航空戦力を撃滅しよう」

「どうやって行うのですか」

「簡単だ。敵の本拠地を叩く」


 ベルケは首都近辺の飛行場を指して言った。


「初期に攻撃して破壊しましたが」

「情報では復旧して、整備拠点になっている」


 航空機を運用するには、整備の拠点は必要だ。

 飛行した後は点検が必要であり、何回も飛んだ後はエンジンをオーバーホール必要が出てくる。

 そのための設備を設置しなければ航空機は戦うどころか飛ぶことさえ出来ない。


「駐在武官からの報告でも、皇国の航空部隊は首都近辺の飛行場を使っている。ここを襲撃して航空機の活動を妨害。農民党部隊の行動を支援する」

「敵の防備も激しそうですね」

「だな、迎撃も予想される。奇襲で済ませるつもりだが、戦闘機隊の活躍も期待している」

「お任せください」


 エーペンシュタインは胸を張って請け負った。

 敵機の迎撃が殆ど無く、空中戦が行えず不満が溜まっていた。

 ここで空戦の機会が得られるのは嬉しい。


「幹部を集めてくれ」

「ヤボール!」


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