第204話 写真現像

「離脱を急いでくれ」


 雄飛で空中給油を受け、さらに飛天まで飛行。

 直ちに着艦した。

 飛天に収容された忠弥はすぐに期待から下りて仕事にかかった。


「すぐに帝国軍の追撃隊が来るぞ。それと写真の現像を頼む。ネガはコピーして空輸するから、現像室からすぐに出してくれ相原中佐は至急電の発信と報告用の電文作成を頼む」

「了解」


 全速力で帝国本土から離れると共に、現像と報告を行う。

 海軍関係で必要な情報を上手に纏めてくれる相原に電文作成を任せ、発信する。

 小型の疾鷹だと王国本土まで無線の出力が足りず、報告できないが飛天の大出力無線機を使えば届く。

 敵艦隊が出撃したことは既に通報済みだが、空戦の最中、詳細な報告は出来ない。

 改めて正確な情報を送る必要があった。

 同時に写真の現像を行う。

 スマホなどない世界なので、写真はカメラの中に入れられたネガから現像して写真にしなければならない。

 フィルムを水に浸して前浴させ、現像液で潜像を銀像に変換し像が浮かばす。

 そして清水か酢酸の溶液で現像液の活動を止める。

 終わったら定着液に浸して停止させ、洗浄し乾かす。

 という非常に手間も時間もかかる。

 気軽に出来る事では無い

 それを狭い飛行船でやるのだから大変だが現像室を作って行っていた。

 できる限り情報を早く得たいのと、空軍独自で情報を得ておきたいので飛天で現像を行う。偵察も行う飛天には現像室を設けてあった。

 現像が終わったフィルムは、再び回収され王国本土へ復座型疾鷹で王国海軍へ緊急空輸される予定だ。


「現像終わりました」


 コピーされたフィルムを積んだ飛行機が発進し、一通りの作業が終わったるとすぐさまブリッジに現像されたばかりの写真が届いた。

 まだ乾燥しきっておらず濡れていたが、忠弥達は待ち望んだ写真を食い入るように見た。

 そこにはハッキリと艦影が写っていた。


「敵外洋艦隊が出撃しているのは間違いありませんね」


 写真の艦艇群を見ていた相原は一際大きな戦艦を指さして言う。


「総旗艦ヴィルヘルム・デア・グロッセが出ています。通常なら機雷原内側の掃海航路、要塞の援護が受けられる海域で訓練に止めるのに、ここまで出てくるのは出撃している証拠です」


 元海軍士官である相原は元の所属から外洋艦隊の動きを聞いている。

 王国大艦隊の攻撃によって戦艦が撃沈されるのを恐れて自ら作った機雷堰と要塞方の射程外へ出ることはなく、安全な海域で訓練をする事が殆どだ。

 戦争中の軍隊にしては消極的な動きだが致し方ない部分もあった。

 戦艦はその国の海軍力であり、国力の象徴。

 沈められたら大きく報道され敵は士気を上げ、味方は意気消沈する。

 下手に出撃させることはない。

 特に総旗艦となると、その国で一番強い戦艦があてがわれることになるため、滅多なことでは母港から出てこない。

 にも関わらず今回戦場に出てくるのは帝国が本気で出撃している証拠だ。


「王国海軍に連絡は?」

「既に終えています」


 重要な情報であり確実に伝わっているか忠弥は相原に確認した。


「至急電では外洋艦隊、母港出撃と伝えてあります。現在は第二電では大まかな艦種と艦隊編成を伝えている最中です」


 モールス信号では、長文を送るのに時間が掛かる。

 伝達速度は和文で毎分75文字程度、アルファベットで毎分125文字程度だ。

 受信側が聞き取れるよう打電する方もはっきり打つ必要があるので、どうしても限界がある。

 だから、至急電で短い内容を伝え、あとで詳細な長文を送るのが普通だ。

 王国大艦隊司令長官ブロッカス提督なら最初の一文で出撃態勢を整えるだろうと忠弥は思った。


「王国艦隊の動きは?」

「受信してすぐに出撃命令を出したようです。既に洋上を進撃中です」


 帰還中の忠弥からの発信は雄飛、飛天を通じて中継され、王国海軍に外洋艦隊が港外に出ていることが伝えられた。

 既に準備を整えていた王国大艦隊は直ちに出撃。

 外洋艦隊を撃破するべく行動に出ており洋上を進撃中だった。


「意外と早いな」


 出撃準備を常に整えているとはいえ、すぐさま出撃した事に忠弥は驚いた。

 そのため予め出撃準備を整えていたとは思いもよらなかった。

 また耳に入った一言が気になって王国大艦隊出撃への追及を中断した。


「しかし妙ですな」


 傍らにいた草鹿中佐が疑問を呈したからだ。

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