第205話 敵艦隊の意図

「どういうことですか?」


 敵艦隊の写真を見て首を傾げる草鹿に忠弥は尋ねた。


「外洋艦隊が未だに母港近くにいるのが疑問です。仮に王国本土への砲撃を考えているなら、昼の間に外洋に出て、夕方に陣形を組み、見つかりにくい夜間に進撃。未明に王国沿岸へ進出し砲撃、日中の間に全速で離脱し母港へ戻ります。この作戦なら王国に見つかりにくく迎撃されにくいはずです。過去の作戦も同様でした」


 作戦の基本は味方に損害が出ないようにして敵にダメージを与える事である。

 戦闘で人が死ぬことを強調される風潮が強く損害が出ても軍は気にしないように見えるが実際は真逆だ。

 自軍への損害は、使える戦力の消失であり、できる限り被害が少なくなるように行動するのが軍人であり、習い性といえる。

 むしろ被害を顧みず攻撃する方が異常なのだ。

 勿論、敵に打撃を与えられる機会をうかがっているが、戦果が損害を上回る場合しか攻撃しない。

 だから、被害が出ないように慎重に行動するのが普通の作戦行動だ。

 被害が少なくて済む行動を帝国外洋艦隊が取らないのは不可解だった。


「明け方にもかかわらず出撃していません。今から王国本土に出撃しても夜間になり暗くて作戦行動に支障が出ます」

「艦隊の規模が大きすぎるので遅れているのでは? あるいは今日午後に出撃する予定では?」

「ありえますが、行動が遅いのが気がします」


 といって草鹿は再び首を傾げた。


「もう一度、偵察する必要があるか。あるいは索敵を行うべきか」


 王国海軍の依頼は達成したが、外洋艦隊の正確な動きを知るのは連合軍にとって有益だ。

 危険を冒すだけの価値はあると忠弥は考えた。


「再度出撃する。偵察機の準備を。今度は強行偵察になるかもしれないから、戦闘機隊も準備」

「雄飛より打電! 敵戦闘機の編隊接近する!」

「索敵機より入電! カルタゴニア級飛行船とおぼしき飛行船を視認! 飛天の方へ向かっているようです」

「予想していたけど、簡単に偵察させてはくれないか」


 忠弥は嘆息して命じた。

 いくら価値のある情報でも、敵機がいる中偵察任務を行うことは出来ない。

 強行偵察させるべきだが、相手はベルケ。

 接近する前に撃墜されてしまう。


「再度の偵察は中止! 直ちに戦闘機隊を発進させて敵戦闘機隊を迎撃する! 味方にも合流を急がせてくれ。先日の装甲巡洋艦でも敵の空中空母が出てきたんだ。敵の主力艦隊が出てきたならそれ以上の空中空母が出てくる可能性が高い」


 偵察作戦は中断され、出てきた帝国軍の戦闘機隊と空中空母に対する迎撃を開始する。


「敵は二、三隻いるようです」

「こちらの空中空母は?」

「間もなく大天が合流します。あと日天も合流予定」

「こちらも忙しくなるな。すぐに航空隊の用意を。僕も出る。日天には飛行船攻撃の用意をさせるんだ。大天と飛天の戦闘機隊で敵の戦闘機隊を抑え、その隙に日天に攻撃させる」

「了解!」


 忠弥は格納庫へ行くと、自分の単座型疾鷹に乗り込み発進した。

 高度を取ると間もなく、多数のアルバトロス戦闘機が見えた。


「迎撃する!」


 機首を巡らし、立ち向かっていく。

 すぐさま空中戦になるが、後方のアルバトロス戦闘機の動きが気になり接近する。

 近づくと下翼の下に筒状の物体が吊されていた。

 似たものを開発し装備させたことがあるだけに忠弥はそれが何かすぐに理解した。


「あいつを撃墜しろ! ロケット弾を積んでいるぞ! 飛行船に撃ち込まれたら撃墜される!」


 忠弥達が飛行船撃墜用にロケット弾を装備しているように帝国軍も同じ代物を開発したようだ。

 元々、古い時代の武器を現代の素材で作り直した簡単なロケット弾だ。

 見よう見まねで出来るし、飛行船母艦を鹵獲して本物を手に入れている。

 コピー生産するのは簡単だし実戦投入してきてもおかしくない。

 そして存分に使ってきた忠弥だけにその威力も恐怖も知っている。

 これまでの爆弾以上に厄介な相手だ。


「近づけるな!」


 絶対に空中空母に敵のロケット弾を命中させてはならない。思いも強く叫んで命令する。

 強引にアルバトロスの後ろにつき、銃撃する。

 ロケット弾を積んで速度が遅くなっているため簡単に一機を撃墜した。

 だが、他にも多数のロケット弾搭載機がやってきている。


「きりが無いな」


 簡単に製造できるだけに、多くの機体に搭載できる。

 次から次に襲い掛かってくるアルバトロス戦闘機の迎撃に忠弥達は追われた。


「これじゃあ、偵察する余裕すら無い」


 空戦の中、忠弥はロケット弾を搭載したアルバトロス戦闘機を探しながら叫んだ。

 結局、敵の外洋艦隊を再び偵察する余裕は無くなった。

 それもベルケの計画の内だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る