第379話 首都ラプラタの発展

「凄い町ね」


 空港から首都ラプラタへ向かう途中、そびえる高層ビル群を見て昴が感嘆の声を上げる。

 皇国の皇都もだいぶ建物が増えてきているが、この町ほどではない。

 白亜の柱が天に向かってそびえ立ってるようで圧倒された。


「それだけ鉱物の取引量が多くて経済的に潤うからね」


 隣に座った忠弥が言う。

 新大陸にあるアルヘンティーナは、西方にそびえるアルティプラート山脈の麓に広がる広大な大地だ。

 アルティプラート山脈は様々な鉱脈があるが、そこから削り出された鉱石が滞積して出来たアルヘンティーナの大地は、高品位の鉱石が埋まっていた。

 鉄、金、銀、銅、ボーキサイト、スズ、タングステン。

 巨大な鉱床が所々にあり、鉱業が盛んな国だ。

 その利益で巨大な高層ビルが建ってしまうほどに。

 ホテルも豪華で、二人が泊まるホテルも最高級というだけあって、白い外壁の美しい大きな建物だ。

 広いエントランスに圧倒されるが長旅で疲れてお腹が空いた。空腹を満たすため二人はホテルのレストランに入る。

 ひさしのあるテラス席に座り、庭の噴水を見なが待っていると、料理が来た。


「凄い分厚いビフテキじゃないの」


 厚さ三センチは超える極厚のステーキ、いや、肉の塊だった。


「一ポンド、四五〇グラムくらいはあるね」

「これも資源で潤っているから?」

「いや、元々は農業と牧畜が盛んで、農作物と乳製品の輸出で儲けていたんだ。で、肉が大量に得られるから肉が常食なんだ」


 穀物を輸出しても、安い価格で買いたたかれる。なのでチーズなどの乳製品を輸出していた。

 牛乳の生産を拡大するために乳牛を増やしたが、その乳牛の処分が増えたため、アルヘンティーナ国内では肉が余り気味だった。

 輸出しようにも肉だと腐りやすい。

 冷凍技術は実用化されているが、コストがまだ高く冷凍船の数も少ないので輸出が少ない。

 結果、アルヘンティーナ国内ではパンより牛肉の方が安い事態となっており、大量の肉が惜しげもなく振る舞われていた。


「まあ、鉱脈が見つかって開発のために潰れた牧場や、従業員が鉱山に流れていった所も多いけど。それだけの多くの資源が眠っているから、今後の産業には必要なんだよね」


 アルヘンティーナから金属を持続的に大量供給して貰う事は、航空産業発展の為にも必要だ。


「町の様子に驚いているようだけど。それで取引は大丈夫なの?」

「へ、平気よ。一寸驚いただけ」


 忠弥の問いに昴ははぐらかすように答える。


「パリシイも見ているから。どうってことないわ。新大陸にこれほどの町があったことに驚いているだけ」

「本当に?」

「じゃあ、忠弥が交渉する? 下手な契約を結ばない自身はある」

「……ない」


 航空技術については詳しく、価値を理解している忠弥だしアルヘンティーナの事もある程度は知っている。

 だが、実際の商談の進め方、特に価格交渉など分からない。

 需要と供給の関係で値段はその時々、地域によっても違う。

 適正価格の把握など出来ないし、無理だ。


「けど、昴は出来るの?」

「大丈夫よ。私はキチンと勉強してきたんだから」


 嘘ではなかった。

 島津財閥総帥の一人娘として皇国大学の経済学部の教授から直接指導を受けたり、島津財閥商社の現役社員から最新情報を仕入れて覚えるなどして、この日に備えていた。


「いつの間に」


 授業を受けたこととその知識を披露されて、少なくとも本物っぽく思える話をしていて、忠弥は驚いた。


「どうしてそんなに」

「飛行機作る事に夢中でこういうこと苦手でしょう。こういうことを少しでも手伝いたくて」


 寧音に任せるのも良かったが、彼女には白物家電の販売先開拓がある。

 確かに便利だが使った事の無い人間には無価値な新製品を売り込むには、岩崎の知名度と信頼が必要だ。

 新規事業開拓は島津財閥の十八番だが販売ネットワークという点で、岩崎に劣る。

 迅速に売り上げを伸ばすためにも岩崎、寧音に販売を広げて貰わなくては。

 それに寧音に負けてはいられないという思いも昴にはあった。


「必ず購入契約を締結するわ」

「本当に出来るの?」

「信じられないの」

「期待しているよ」


 少し不安だったが自分がやるよりマシだと思い、昴に任せる事にした。


「そのためにもタップリと食べないと」


 昴は肉塊のようなステーキを食べ始めた。

 パイロットとして飛んでいることも多く、カロリー消費が多いので一ポンドくらいは食べきることが出来る。

 それでいて体型を維持している。

 勿論相応に努力はしているが、それでもスリムな身体を維持しているのは流石だ。

 だが、今回は重要な仕事のため、食いだめのためにリミットを解除して力を蓄えることにした。

 流石に体型が崩れたので忠弥に見られたくなくて部屋を別々にして明日に備えた。




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小話


 アルヘンティーナのモデルにしたのはブラジルとアルゼンチンです。

 ブラジルには大量のレアメタルがありますし、アルゼンチンはかなり広い農業国で牧畜も盛んで牛肉が有名です。

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