第380話 交渉失敗

「なんでダメなのよっ!」


 二日後、商談が破談になったあと、昴は空港のランジでカウンターに両の拳を叩き付けた。


「これ以上、生産を増やすのは無理じゃしょうがないよ。殆どメイフラワー合衆国への輸出で抑えられているし、向こうの方が調達価格が高いし」


 新大陸北方の大国メイフラワー合衆国の影響力が大きく、アルヘンティーナの産業の多くにメイフラワー合衆国の資本が入っていた。

 資源も大量に買いたたかれている。

 特に大戦で交戦国から大量の注文を受けた好景気により爆買い状態となっている。

 それはアルヘンティーナの資源も例外ではなく、金が余っているため、高値で購入されている。


「なら有り余る資金を投入して設備投資して拡大しなさいよ!」

「その分コストが跳ね上がって価格も上昇するし、こちらからも融資しないとダメだからね」


 最終的にプラスになるが、さすがに家電の生産ラインを整えた後なので、島津財閥も岩崎財閥も手持ちの資金が足りない。

 そして大本の皇国の外貨準備が少ないこともあり支払いが出来ない。


「それに生産能力が上がったら、その分の販売先開拓しないと無駄になる。それどころか維持費を支払えず不良債権化する可能性が大きい」

「私たちが買うと言っているんでしょうが」

「信用がまだ低いし、今後も大量に購入してくれるか不明だしね」


 白物家電の生産を始めたが新規事業のため規模が小さく、購入する資源の量も少ない。

 将来的には航空産業を含めて大量の資源を購入する予定だが、今は微々たる量でしかなく、大量に購入しても余らせるだけ。

 備蓄しようにも備蓄のためのコストも掛かる。

 そんな状態では鉱山会社も信用しないだろう。


「結局、家電を売って、外貨を稼いで資金を得るしかないね」

「飛行船の購入代金も掛かっているし」

「悪かったよ」


 これから乗り込む飛行船<木星>をハイデルベルクから購入したことを根に持っているらしい。

 賠償金の支払いを助ける為に、購入したのだが、外貨払いしてしまった。


「他にも、アルヘンティーナへの飛行機販売。ハイデルベルクへ譲っちゃったし」


 ハイデルベルクの航空機産業は条約により禁止状態だ。

 航空機の運用は勿論、開発、生産、販売もだめ。作れるのはせいぜいグライダー程度だ。

 だが、海外での開発、生産、販売は制限されていない。

 そこでベルケ達に仕事を与える為に、昭弥はアルヘンティーナでの仕事、練習機の開発生産を回した。


「それで少しは外貨が稼げたはずなのに」

「大丈夫だよ。寧音がメイフラワー合衆国で白物家電の販売契約を結んだから。すぐに外貨が手に入るよ。今は一度、皇国に帰って、状況を見て仕切り直そう」

「そうね」


 不承不承で昴は、夕食のビフテキをやけ食いした後、飛行船へ順番通りに乗り込んだ。

 だがタラップに乗り込む前に袋状のものを下ろす作業をしている事に気がついた。


「ねえ、アレ何しているの?」

「あれは乗客が乗り組む度に同じ重量のバラストを下ろしているんだ。飛行船が地上に接地しないようにね」


 基本的に飛行船は地上に降りることはない。

 降りたとしても僅かだが、ほんの数センチ浮上した状態で係留される。

 浮かんでいる方が不可が少ないからである。下手に地面に接地すると、接地部分に力が加わり変形する恐れがある。

 乗客が乗り込む時も同じであり、浮いた状態を維持する。

 しかし、乗客が乗り込むと重量が増える。

 そこで、乗客の体重を予め量り、飛行船へ搭載。乗客が乗り込むと共にバラストを地上に降ろす作業を行っている。

 こうして、飛行船のバランスをとっているのだ。

 乗客が全員乗り込むと、百人ほどの作業員が格納庫から飛行船を引っ張り出し、離陸準備を始める。

 しかし、そこへ魔の手が、一台のカメラが近づいてきた。

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