第186話 ロッテ戦法

「哨戒機より打電! 帝国軍の装甲巡洋艦多数を発見!」


 緊急電が入り、忠弥はすぐに対応する。


「王国海軍に通報! 敵の位置を伝えるんだ。それと追加の機体を出すんだ」

「敵艦上空に敵機多数! 接触は危険です。未確認ながら空中空母、カルタゴニア級の目撃情報あり!」

「敵も本気だな。こっちも出て行くぞ! 戦闘機を出すんだ! 他の空中空母にも集結命令を出して攻撃しろ。僕も出る」


 忠弥は、ブリッジから飛び出すと格納庫へ走り込み戦闘機に乗り込む。


「回せ!」


 整備員に命じてエンジンを始動させ、翼を展開する。天井のフックを使って発着艦装置へ運ばれ、床のハッチが開くとアームが降りて飛行船の外に出されるとフックが解放され大空へ向かって飛び出した。

 飛行船は既に味方の元へ向けて全速で航行している。

 搭載機疾鷹の離陸速度を軽く超えているため、フックで外に出されるだけで飛んで行ける。

 外に出た忠弥の疾鷹は軽々と飛びスロットル全開で進む。

 忠弥に続いて飛び出した味方を率いて敵機の乱舞する空域へ忠弥は向かった。


「敵機多数発見! 攻撃せよ!」


 敵機と出会うとすぐに空中戦が始まる。

 上下左右に動き回り、互いに後ろを取り合おうとするドッグファイトとなった。

 敵味方入り乱れ、空を乱舞する。


「失敗かな」


 空を飛びながら忠弥は呟いた。

 帝国軍の航空機の数が多い。

 カルタゴニア級の背後に二隻程大型飛行船が居る。

 その周囲には多数の戦闘機が飛んでいる。

 よく見ると飛行船下方にいる機体が飛行船から伸びているホースを翼の端に繋いでいる。


「空中給油を行っているのか」


 カルタゴニア級の搭載機は一四機と想定されている。あと補給用飛行船にも搭載している可能性がある。

 それらの他にも空中給油を繰り返し、この海域にやってきている機体もいるだろう。

 現に戦場となっている空域には飛天の一四機を超える機体が敵にはある。

 数的な優位を確保した上で戦うのが忠弥の戦い方だが、敵の方が数が多い。


「しかもロッテで来ている」


 これまで帝国軍はケッテ――戦闘の一機の後方左右に一機ずつの三機一組で来ていた。騎士の時代の陣形をそのまま採用しており、戦闘の騎士を左右の従者が援護する合理的な陣形だが、空では違う。

 平面、それも直線的に動くだけの騎馬には有効だが、上下左右自在に動く空中戦では、後方の僚機に気をつけないと容易に接触する。

 そこで開発されたのがロッテ――二機一組で、長機の左右どちらかの後方下に位置して追随する方法だ。

 これなら長機のみに注意を向ければ良いので組みやすく機動性も上がる。もう一組のロッテと互いに援護し合うように組むことで、より戦力を発揮できる。

 忠弥はこのことを知っており、航空隊を創設した時から採用していた。

 当初こそ、数的な優勢もあって機動性に優れた忠弥のロッテ戦法が、ベルケのケッテ戦法を上回っていた。

 だがベルケもロッテ戦法へ移り攻撃を仕掛けてきた。

 機動性が良く帝国軍の一機が忠弥の機体に向かって突っ込んできた。


「危ない」


 忠弥は、敵機の攻撃を躱すと同時に、ひねり込みを掛けて敵の背後に向かう。

 体重が軽いので、その分小回りがきくことを利用して背後を取る。

 引き金を引き、敵のエンジンに命中させ撃墜した。


「くっ」


 撃墜した瞬間横合いから、銃撃を受ける。

 僚機がいるが、忠弥の機動に付いていけず、忠弥が振り切ってしまい結果単独で突出することになり、そこを攻撃された。

 これも躱し、捻りこんで背後をとって銃撃する。


「ふうっ」


 撃墜して安心したのも束の間、味方のピンチを見つけて救援に向かう。

 敵機は味方機を撃墜しようと躍起になっており、後方への警戒が疎かだった。

 後ろに滑り込んだ忠弥は、捕食者と思い込んでいる敵機に銃撃を浴びせ、撃墜した。

 だが、すぐさま忠弥の後ろに敵機が現れ銃撃してくる。


「きりが無いな」


 見ると、敵機の数が当初より多い。

 遠くを見ると、カルタゴニア級らしき飛行船が新たに一隻見えた。

 忠弥達が登場したことで救援に駆けつけた、いや、装甲巡洋艦の上空援護で予め近隣の空域に待機していたのだろう。


「一点集中突破か」


 監視哨戒のために、忠弥は広範囲に飛行船を点在させていたが、帝国軍は装甲巡洋艦のために一箇所に戦力を集中していた。

 これでは、負けてしまう。

 敵機に囲まれてしまい味方機も何機か落ちている。


「不味いな」


 不利を悟った忠弥は味方機に集まるよう指示を出した。

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