第六部 艦隊決戦支援
第185話 海上封鎖
「哨戒機より報告。本艦の六〇海里前方に中立国の商船発見」
飛天のブリッジに通信員の報告が入り忠弥は命じた。
「直ちに王国海軍に通達せよ。誘導できるか? 手近な艦はいるか?」
「陽飛が近くを飛んでいます」
飛天艦長の草鹿中佐は素早く答えた。
「陽飛に向かわせろ。監視と王国海軍の誘導を命令するんだ」
「はっ、信号! 陽飛に打電と信号灯で通達せよ」
隣を飛行していた飛行船が速力を増して飛んでいく。
「王国海軍の要請とはいえ、下働きが過ぎますな」
「致し方ない」
忠弥は宥めるように草鹿中佐に言う。
カルタゴニア大陸の戦いは苦い勝利で終わった。
飛行船母艦を破壊することに成功しベルケの行動を阻害することに成功したのだが、本来の目的であるベルケの空中空母の撃破に失敗。
帝国本国に逃げ帰らせてしまった。
広大な領域をヒットアンドランで暴れ回られていたのを止めたのは、上出来の部類だろう。
しかし、ベルケを逃がしたのは事実だった。
ベルケを仕留め制空権を確保しようとする忠弥の行動が理解できず、目の敵にされた。
そしてベルケ追撃を優先するあまり、他の連合軍の海軍、陸軍の要請を無視した点も上層部の印象を悪くした。
旧来の思考を持つ彼らにとって、自分たちの脅威――地上部隊や艦艇を攻撃せず、大空を飛び回っているだけ――その航空機にコテンパンにやられたことを彼らは忘れて忠弥たち空軍を責めた。
忠弥達空軍がが、予算と資材、そして有能な人材を奪っていく邪魔者であり現実の敵である事実も加わり印象が悪い。
そのため皇国空軍は孤立気味だった。
なんとか内親王である碧子が間を取り持ってくれているが、陸軍海軍の不満は解消できず、共同作戦――と言う名の下働きを忠弥は行っていた。
今はその一つ、海上封鎖線の監視任務に就いていた。
「広大な海上を監視するには我々が一番良い」
帝国は北部のみ海岸線を持っている。
そのため、北部沿岸を封鎖すれば、簡単に海上貿易を塞ぐことができる。
帝国は大陸国家だが、海上輸送は無視できない。
大量の物資を低コストで運び込んでくれる船舶は、富国強兵を国是とし、成長著しい帝国に必要な者を運んできてくれるかけがえのないものだ。
特に帝国で産出しない希少金属やゴム、そして工業化により農民を工員へ転職させたため自給率が低下して、不足しがちな食料品を運び込むのに海上輸送に依存していた。
それを締め上げれば、海上貿易を途絶させれば、どうなるか。
たちまちの内に帝国の経済は瓦解する。
「帝国を講和の席に着かせるには有効な手だよ。海上封鎖は」
緒戦での勝利に失敗し、短期決戦から予想外の長期戦に移行した今、軍備を支える経済の維持は帝国にとって至上命題となっている。
海上交易を途絶させられたら干上がるのは目に見えている。
そこで連合軍は開戦と同時に海軍を派遣し、帝国沿岸部に封鎖線を設定。
封鎖線上の商船を片っ端から臨検し、帝国行きの船は拿捕した。
帝国は封鎖線を解除しようと艦隊を出したいが強力な王国艦隊がいるため、手出しできない。
それでも希少金属などを手に入れるために封鎖突破船――封鎖線の目を盗んで突破する商船を送り出し、帝国へ物資を運び込んでいた。
連合軍も気がついており監視を強化していたが、広大な海域を全て監視するには艦艇が少なすぎ、見落としが出ていた。
そこで、空を飛び広大な領域を監視できる飛行船部隊に封鎖線監視の命令が下った。
皇国の飛行船の多くは飛行機を搭載できるので、水平線の向こう側にさえ、監視の目を行き届かせることが出来る。
特に飛天型は二〇機の航空機を搭載し周辺へ哨戒機を多数送り出せるため、監視能力は大きい。
「実際、海上封鎖には航空機は役に立つ。ここで点数を稼げるし、帝国を苦しめることも出来る」
一石二鳥の作戦に忠弥は満足していた。
王国では帝国による本土空襲への報復として帝国本土への空爆を主張する人間がいることもあって皇国へも参加を要請されている。
しかし、航空戦力の中心である皇国空軍、忠弥の反対により行われていない。
機材は開発しているが、現状では本土へ空襲を行っても無差別殺戮爆撃になるので行っていない。
それ以上に戦略爆撃というのは、効果が無い。
建物を簡単に破壊しているが、意外と社会システムというのは冗長性、代替性があり、見た目に反して被害は少ない。
勿論、爆撃を受けた人には、激甚な被害だろうが、国民総生産から見ると大したことは無い。
実際、第二次大戦における米軍の調査でも米軍による空爆の効果は日本、ドイツ共に限定的だったと結論づけられている。
日本とドイツの国力を奪ったのは物流網の遮断――鉄道網の破壊と海路の封鎖だった。
忠弥はそのことを知っており、被害が大きい上に効果が無く、戦後帝国の国民から恨みを買う可能性が高い空爆は無意味と考えて実行していない。
より効果の高い海上封鎖への協力に自ら赴いているのはそういう理由からだ。
西部戦線の塹壕戦の援護――屠殺場となっている戦場上空を飛ぶよりマシというのも理由だ。
大砲と機関銃の銃撃で大勢が死に、味方を助けるために、敵の陣地に爆弾を落として助ける、あるいは発煙弾を投下して味方の砲撃を誘導する。
これらの任務は重要だが、ほぼ毎日であり、終わりが見えない中やるのは心身共にキツい物がある。
だから洋上の哨戒任務に出向いてきたのだが、その安寧の時も終わりとなる。
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