第346話 ガトリングガンの対空砲火

「なっ」


 今までに無い激しい対空砲火がエーペンシュタインに向けられてきた。

 量も多いが、いくつかの対空陣地からは、数倍の銃弾が、文字通り嵐のように降り注いでくる。


「連合軍の連中、新兵器を投入したか!」


 エーペンシュタインの推測は当たっていた。

 対空用の機関銃を忠弥の指示で新たに投入していた。

 ただし、新規にではない。既存の兵器ガトリングガンを改造した、対空機銃だった。

 ガトリングガンは比較的早く作られた連発銃で、近代的な機関銃より早い。

 複数の重心を円周上に並べ、ハンドルで回し発砲と装填を各銃身が交互に行い発砲するというすぐれた機能を持っており、ガトリング一丁で一個中隊を相手に出来ると言われていた。

 だが、大砲並みに大きいのと、目立つ上に小銃弾を使うため、射程が歩兵の小銃と変わらない。

 密かに近寄られ狙撃されたり突撃を受けて無力化されることが多かった。

 近代的な機関銃、兵士数人で扱える機関銃が出来ると廃れていった。

 だがこの新型の機関銃には弱点があった。

 発砲速度が速いと銃身が過熱して、命中率が悪くなったり、故障、最悪制御不能になり暴発する。

 過熱を抑える為に水冷式にする事もあったが重量がかさみ使い勝手が悪くなる。

 それでも毎分一〇〇〇発以下なら地上で使う分には問題なかった。

 だが、空では違う。相対速度が時速数百キロ。

 射撃のチャンスは一瞬で、一秒以下。

 その刹那に敵に何発も機銃弾を打ち込む必要がある。

 将来的には音速を超えることを知っている忠弥にとって発砲速度の遅い機関銃など役に立たない。

 複数の機関銃を積み込むことも考えられるが、スペースと重量を圧迫する。銃身加熱の問題も無視できない。

 そこで考えたのが、ガトリングガンの改良だった。

 倉庫でホコリをかぶっていたガトリングガンを取り出すと改良。

 装填をベルト給弾式に代え、手動で回していたのをモーターに切り替えた。

 更に高速で発砲出来るように機構も改良。

 現代の地球でも使われるガトリングガンが誕生した。

 毎分三千発から六千発を発砲可能なガトリングガンは対空砲として圧倒的な性能を見せた。


「くっ」


 エーペンシュタインは、引き返した。

 あんな危険な対空機銃があっては攻撃は危険だ。


「畜生!」


 上空へ逃れたが、プラッツDr1の得意な低空での格闘戦が封じられた。

 高度が上がると、敵は急降下による一撃離脱を繰り返してくる。

 攻撃の為に降下した後、上昇する余裕を得るために多少の高度が必要だ。

 低空だと、引き起こしに余裕がなく、地上に激突する恐れがあり、敵は低空で一撃離脱をしたがらない。

 だが、低空は連合軍の対空砲火のためプラッツDr1はとどまれない。


「ならば、上空で格闘戦をしてやる」


 エーペンシュタインは敵機を探した。

 丁度はぐれた味方を敵が襲撃している。

 上空からの一撃離脱を終えて、再上昇している最中だった。

 上昇することに夢中で、周囲への警戒が疎かだ。

 エーペンシュタインは三枚翼の揚力を最大限に使い、素早く上昇すると、見つけた初風に襲い掛かる。


「貰った!」


 素早く銃撃を行い一機撃墜した。

 もう一機撃墜しようとしたが、味方の危機を察知した青い初風が、追ってきた。


「させるか!」


 忠弥の機体だった。

 遠距離から正確な銃撃を浴びせ、攻撃を断念させる。


「くそっ」


 エーペンシュタインは、すぐに避けた。

 忠弥の射撃は恐ろしく正確で、真っ直ぐ飛んでいたら撃墜される。

 他のプラッツDr1も忠弥に狙われると逃げた。

 だが、例外がいた。

 真っ赤に染められたプラッツDr1を操るベルケだった。


「行きますよ忠弥さん!」


 青と赤の飛行機が互いに激しい空中戦を始めた。

 上昇性能、旋回性はプラッツDr1が上。

 速度と急降下性能そして銃の射程は初風が上。

 いくら接近戦で強くても外から銃撃をされてたまらない。

 しかしベルケは、ヒラリヒラリと忠弥の銃撃を躱す。


「拙いな。弾がない」


 ベルケに向かって撃ちすぎた。

 優位な射点を占めるとタイミングを見抜かれて簡単に避けられてしまう。

 幾ら長射程の高性能な銃でも遠距離だと弾が命中するまでに時間がかかり対処する余裕を与えてしまうのだ。


「仕方ない」


 忠弥は勝負をかけることにした。

 あえて接近して回避不能な距離から銃撃を食らわせる。

 並みの飛行士なら遠距離の銃撃で仕留められるが相手はベルケだ。

 避けられない距離から撃つしかない。

 忠弥はベルケに向かっていった。


「来ましたね」


 忠弥が接近してきたのを見てベルケは待ち構えていた。

 遠くから撃ってもあたらないとみれば、接近することは予測できた。

 ベルケは、忠弥から逃げようとする。

 だが、それは擬態だった。

 ワザと甘い機動で忠弥に追いかけさせ接近させ、真後ろに付かせた。


「貰った!」


 真後ろの至近距離に来たところでベルケは180度ターンを決めた。

 視界が流れ、真後ろに機首を向ける。

 だが、そこに忠弥はいなかった。

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