第345話 プラッツDr1への対策
「上方から敵機接近! 敵に制空権を渡すな! 戦闘開始!」
ベルケが命じるとプラッツDr1全機は勇躍し初風に向かっていった。
これまで不満足な出撃、撃墜しようにも敵に逃げられる事ばかりだった。
今度は向こうが来てくれる。
「撃墜してやるぜ」
エーペンシュタインは、機首を敵機に向けて突進する。
すると敵機は機銃を撃ってきた。
「素人か、遠すぎる、ぜっっ!」
明らかに射程外だったのに、敵機の銃撃が伸びてきたことにエーペンシュタインは驚いた。
「くっ」
エーペンシュタインは、機体を横滑りさせて、射線から逃れる。
だが、上昇して逃れようとした味方は、敵に腹を晒したため、そこに銃撃を食らい、穴が空いた。
「なっ」
その光景を見てエーペンシュタインは絶句した。
被弾箇所が撃ち抜かれているのではなく、えぐり取られている。命中した箇所の骨組みがバラバラだ。
明らかに威力が上がっている。
飛行機に搭載されている機銃は、地上で使われている軽機関銃と同じで、小銃の弾を発射する。
一〇〇〇メートル人間を殺傷するために作られているため、飛行機に対しては、少し威力が弱い。
射程も短いと評判が悪く、大口径の新型機銃を作って欲しいと頼んでいた。
だが、どれくらい大きくするか、威力はどの程度にするかの試案が纏まっていない。
数種類の試作品を作って、実験している段階だった。
だが、連合軍は、新型の航空用大型機銃を作り上げたようだ。
「この五〇口径機銃は良いわね」
銃撃を浴びせた昴が嬉しそうに言う。
新たに搭載されているのは忠弥が開発を命じた五〇口径――、一二.七ミリ機銃だ。
元ネタはブローニングが開発したM2機関銃だ。
第一次大戦で航空機用の機銃の威力不足を感じた合衆国が開発したのがM2だ。
小銃の七.六二ミリより大きく、その分威力と射程が伸びている。
一番の特徴は装薬を増量した事により弾道特性が直線――重力によって弾が地上へ曲がらず、まっすぐ進んでくれる。
遠距離、高速での撃ち合いが多い航空機には素晴らしい性能だった。
有効射程二〇〇〇メートルのこの機関銃は、何度も更新計画が立てられたが、開発費用に対して明確な代替メリットがないため、ことごとく頓挫。
百年を経た今でもM2は現役である。
そんな名機関銃を忠弥は当然知っており、真っ先に開発を命じた。
本来ならいくつかの口径や装薬量を変えた試作型を作り、一つ一つ実用性を試し、実戦試験を経て正式採用、大量生産が行われる。だが、忠弥は鶴の一声で、自分の計画した案を実行させた。
これはチートだったが戦争を終わらせるには圧倒的な兵器が必要だった。
遠距離から一撃で敵機を葬れる、狙いを付けやすい航空機銃が必要だったので、ためらいはなかった。
その判断が正しかったことは、今証明された。
遠距離から一方的に撃たれた帝国軍機は、なすすべがないように見えた。
「見くびるな!」
エーペンシュタインは急降下して来きた初風がすれ違うと、その後ろをとり、追い打ちを掛けた。
上を取れば、敵機に優位に立てる。
奇襲されたが帝国航空隊エースとしての意地があり、敵を葬ろうと仕掛ける。
「旋回中は速度が落ちるだろう!」
逃げる初風の真後ろに僚機と共に食らいつく。
だが初風は、左へ機体を傾けそのままロールさせた。
「甘いぞ!」
エーペンシュタインも続けてロールする。
ロールの早さはプラッツDr1の方が上だ。簡単に追いつける。
しかし、初風はロールを続ける。
「いつまでロールする気だ! その程度の機動、プラッツDr1なら追随出来る」
「うわああっっ」
エーペンシュタインが追い続けたとき、無線から悲鳴が聞こえた。
僚機がコントロールを失って、墜落しつつあった。
「ロールしすぎてコントロールを失ったか」
機動力を高めるため左右への安定性が劣るプラッツDr1はロールをし続けると水平飛行へ戻るのが難しくなる。
エーペンシュタインはロールをして敵機を追いかけていても、その限界を見極めて、コントロール不能になるのを防いでいた。
だが、僚機はその限界を見誤り、コントロールを失って墜落した。
「畜生めっ!」
エーペンシュタインは怒声を放って、なおも敵機を追いかけ続ける。
機動力のあるプラッツDr1は上手く扱えばどんな敵機にも追いつける。
だが、振り切れないと悟った初風は味方の陣地に向かって急降下して逃げ込んだ。
「逃がすか!」
エーペンシュタインは逃げていく初風を追いかけていく。
しかし、エーペンシュタインに向かってきたのは連合軍の対空砲火だった。
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