第347話 ベルケ撃墜
「なっ!」
忠弥が想定した場所にいない。
ベルケは驚き慌てて、周囲を確認すると忠弥は、下の方に逃れていた。
ベルケが180度ターンを始めると、機体を90度傾け、真下に降下したのだ。
ターンが終わった時には、忠弥は下に逃れていた。
「貰ったわ!」
そこへ上空から隙をうかがっていた昴が突入してきた。
ターンを行ったため、スピードが落ちていたベルケは良い的だった。
ベルケも回避を行うが、すぐに加速出来ない。
昴の機銃がベルケの機体を貫いた。
十数発の弾を食らったベルケの機体はさすがに飛べず、帝国軍の陣地に向かって落ちていった。
「ベルケが落ちたわよ!」
昴は無線で大声で知らせた。
敵のエースが撃墜された事を知らされ、無線では歓声が上がった。
「浮かれるな!」
だが、忠弥は叱咤する。
「敵の攻勢は続いている。友軍を助けるために敵の戦闘機を掃討しろ!」
「了解!」
ベルケ撃墜の話は瞬く間に連合軍航空部隊の間に広まり、活動は激しくなった。
特に、戦闘機部隊の活動は激しく、一時は戦場上空を制圧するまでに至った。
「敵の攻撃が止みません」
だが地上の帝国軍は攻撃の勢いを止めない。
何度も出撃しているが、帝国軍の攻撃が休まることはなかった。
特に突撃隊の攻撃は激しく、あちこちの後方施設が攻撃されている。
忠弥達が降り立った前線飛行場にも突撃隊が襲撃してきたこともある。
配備された装甲車が撃退してくれたが、連携もないため簡単に撃退できた。
「連中は無線とか持っていないからな」
個人携帯できる無線機など無い。
通信機は大きく重量があり、飛行機に乗せるのも苦労しており、機動性を増すためにいっそ降ろそうかという話題も出てくる。
通信技術がこんな状況なので、突撃隊は通信機を装備せず、一度出撃すると後方との通信が出来ない。
与えられた命令の範囲で独自に攻撃するのだ。
そのため優秀な下士官や下級士官が指揮官となり彼らの自由裁量で行動する。
ベルケが落とされた事を知らない連中が多い。
「まあ、ベルケが落とされても構わず攻撃し続けるだろうが」
帝国には最早、あとはない。
戦うしかない。
少なくとも帝国はそう思っている。もし講和とか頭にあったらとっくに行っている。
「将軍、ベルケが落とされた事をビラで播こうという話がありますが」
指揮所で報告、上級司令部の命令や動向を聞いていた中に、ベルケ撃墜の後方を行うという話があった。
「やめておけ」
忠弥はすぐに否定的な意見を述べた。
「ですが効果的ですよ」
根拠がない訳でもなかった。
ベルケが落とされた時、直下の帝国軍部隊の動きが著しく下がったのが上空からも確認できた。
その後は普通に活動しているが。
「撃墜の確認が出来ていないんだ。無闇に報道する必要は無い」
「私が落としたことが信じられないの」
忠弥の意見に昴が怒った声で言った。
「撃墜が確実か確認できていない」
撃墜判定は難しい。
乱戦中だと余計に難しく、落ちたのを確認できないことが多い。
「確実に落としたわよ」
「でもな」
忠弥躊躇った。
誤認立った場合、ベルケが復活したときの味方の反応が怖かった。
「将軍、王国と共和国がビラを作ったので爆撃機からばらまくそうです」
「誰だ、そんなことを許したのは」
「連合軍最高司令部からの直接命令だそうです」
連合軍を統一指揮する新たな司令部。
忠弥は空軍の最高指揮官だが、この司令部の指揮下にある。
「全く、相談なしに」
人の頭越しに命令を下すのは忠弥や皇国を甘く見ているのだろう。
いや、意外とベルケを連合軍は評価しているのだろう。
連合軍の将兵の中でも赤い機体のベルケの名声は鳴り響いている。
味方の航空機を撃墜する憎き敵であり、単独で帝国を支える英雄。
青い空を紅い飛行機を駆って軽快に飛ぶ若き騎士。
敵でありながら人気は高い。
ベルケを撃墜したことを宣伝して士気を上げたいと思うのは司令部としては当然だろう。
特に全軍の半数が命令拒否していたラスコー軍では深刻だろう。
だからラスコー軍が最高司令部に派遣している人員を使って勝手にやったことも考えられる。
「忠弥、爆撃機がビラをまいているわよ」
指揮所から出ると昴が言ったとおり、ラスコー軍に所属する大型爆撃機がビラを投下していた。
ベルケ撃墜の文字が大々的に入れられているのだろうと思うとイライラする。
「どう書かれているのかな、誰か、取っておいてくれないから」
昴は自分の名前がビラに付いていると思いウキウキしている。
だが、その爆撃機は突如現れた帝国軍戦闘機によって撃墜された。
その光景に全員が声を失った。
現れたのが真っ赤に塗られたプラッツDr1だったからだ。
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