第191話 講和を求める代償
連合国に即時講和を飲ませるための条件は?
問いかけてきた参謀総長の言葉から、連合国が帝国に押しつけるだろう条件を軍務大臣と内務大臣は思い浮かべた。
占領地からの即時撤退
連合国の戦費の負担、賠償金の支払い
植民地あるいは本国の一部割譲
占領地からの撤退は国内の反発を受けるだろうが、出来ないことではない。
だが他は無理だ。
特に戦費と本国の領土割譲は痛い。
賠償金は戦勝国の平時国家予算一.五年分が相場だ。
複数の国家、帝国とほぼ同等の王国、共和国、皇国を相手にしているので、三カ国の予算一.五年分、およそ帝国の五年分の国家予算を要求される。
戦費は、帝国の戦時予算は既に国家予算の倍から三倍は使っている。
各国の戦費も同じような予算規模になっているはず。
三カ国の年間予算二年から三年分、帝国国家予算の六年から十年分かそれ以上を戦費として追加で支払う事になる。
賠償金の五年分を合わせて帝国の平時国家予算最低一五年分などとても払えない。
分割しても半世紀以上に渡って支払うことになるだろう。
事実上、他国に搾取されるのと変わらない。
誰もが講和を今まで言い出せなかった理由は、連合国から要求される条件が過酷だと予想されたからだ。
そして植民地と本国の一部割譲。
各地の植民地は既に陥落しており、領有権の譲渡を交渉条件に使うぐらいであり、痛くはない。
だが、本国を割譲すれば、国民の不満は高まる。
国土を守るのが国家であり、帝国が存在する意義だ。
特に小国の集合体で、周辺国の勢力に組み込まれていたハイデルベルクを一つにまとめ上げ強大な国を作り出し諸外国の内政干渉をはねのける事で帝国は成立していた。
領土の割譲は他国への切り売り、裏切り行為とみられ得も仕方ない。
割譲された州と国民はそう思うだろう。残った州も、今度は自分が帝国に売り飛ばされる、と疑心暗鬼に陥り、その前に他国の勢力下へ入ろうとするかもしれない。
帝国崩壊による小国乱立、群雄割拠、戦乱再来。
既に帝国の成立から、長年経ち帝国成立以前は歴史の中にあったが、幼い頃から昔話を、帝国成立前の戦乱を聞いていた帝国人、特に上層部に追っては恐怖、トラウマと言って良い。
その恐怖を会議の参加者が思い起こしたのを見た参謀総長は恐怖を更に煽るように言う。
「我々が講和を乞えば、連中は我らを奴隷、いや家畜のように搾取していくだろう」
参謀総長の言葉で進みかけていた講和の雰囲気が萎んで行く。
「勝てばいくらかは良い条件で講和できるだろう」
継戦すれば、もし勝てれば、少しは良い条件で講和できるかもしれない。
だが、現実は継戦が帝国を滅亡へ向かわせる破滅の道だ。いや、実際に滅亡へ向かいつつある。
しかし、継戦して勝利を得て少しはマシな講和となるかもしれない希望がある。同時に、もし負けたとしたらという不安が大きい。
だが、それを払拭するように参謀総長は言う。
「我らが苦しいときは敵も苦しいのだ。我々が講和を求めているなら向こうも講和を望んでいるはず。これまでの戦友達の死に報いるためにも、勝利まであと一歩なのだ。そのためにも戦力増強を」
「その武器製造も限界に来ている」
演説を中断させた軍務大臣に参謀総長は尋ねた。
「先も言ったとおり砲弾や砲身を製造するための希少金属の在庫が無くなりつつある。戦場で回収をさせているが、とても足りない。代用品を使用しているが、耐久性がなく、数を揃えてもすぐに使えなくなるだろう。戦力の維持は限界に近づきつつある。海上封鎖を解くか、即時講和をしなければ、砲弾さえ製造できなくなり、戦闘不能になる。敵国を占領したまま敗北することになりかねない」
「ならば、勝って封鎖線を払いのければ良いのだろう。ようは勝てば良いのだ。帝国は優位に立ち講和の条件も良くなるのだからな」
参謀総長の静かな声が、大本営に響き渡った。
「勝てば良いとはどういう意味だ?」
「勝てば講和の条件を有利に出来るし、封鎖線も排除すれば戦う事が出来るだろう」
「理屈ではそうだが、そのような方法があるのか」
「海軍から提案があった。王国海軍を撃滅し封鎖線を排除する作戦を立案してきた。インゲノール大将、入ってきたまえ」
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