第27話 遠心式自動クラッチ

「……どんな仕組みなんだ」


 驚いた義彦だが直ぐに忠弥に向かって前のめりなって尋ねる。

 人類初の有人動力飛行を成功させ、その前は原付二輪を生み出した忠弥だ。

 不可能では無い、夢物語では無く現実に可能な技術だと確信し、開発しようとしているスクーターの話を聞く。


「要は停止したり減速するときクラッチが離れ、加速するときクラッチが入れば良いんです」


「そうだね」


 停止してタイヤの回転数がゼロでもエンジンのアイドリングは六〇〇回転。クラッチを離しておかなければバイクは前に進んでしまう。


「要は加速するとき、或いは速度を出して走っているときと、停止あるいは減速するときを分ければ良いんです。前者はエンジンの出力を必要とし、後者はエンジンの出力を不要にしています」


「そうだな。で、それがどうしたんだ?」


「エンジンの出力が必要な時はスロットルを開いてエンジンの回転が上がります。不要な時は閉じてエンジン回転を下げます。要はクラッチが繋がって手欲しいときにエンジン回転は上がり、不要な時はエンジン回転は下がります」


「そうだな」


「逆に言えばエンジン回転が上がるのはクラッチが繋がって欲しい場面、エンジン回転が下がるのはクラッチが離れて欲しい場面です。その条件を利用します」


「何をするんだ」


「回転数に応じてクラッチが離れる遠心式自動クラッチを取り付けます」


「遠心式自動クラッチ?」


 聞き慣れない単語に義彦は疑問符を浮かべる。


「どんな装置なんだ」


「はい、簡単に言うと、エンジンの回転に合わせてクラッチを入れたり切ったり出来る装置です」


「! そんなことが出来るのか!」


「はい、出来ます」


「信じられない。どういう仕組みなんだ」


「簡単です。エンジンの回転が上がるとクランク軸は勢いよく周り強烈な遠心力が発生します。その時の遠心力でストッパーが外れて繋がるクラッチを作るんです。回転が下がれば遠心力が下がり、バネの力でクラッチが離れるようにしておけば、停止してもアイドリングのままで動かせます。これでレバー操作もクラッチ操作も不要。エンジンの回転、それを操作するスロットルの開閉だけで走る事が出来ます」


「!」


 忠弥の説明に義彦は衝撃を受けた。

 エンジンの回転が上がるのは、発進する時と走行している時だけ。その時だけ、クラッチを繋げるようにする。

 減速、停止中のエンジンはアイドリングのため低回転になるから、クラッチが外れてタイヤが回らないようにする。

 この装置が完成すれば、バイクの難しい操作が殆ど不要になる。

 そこまで簡単なら誰にでも、女子供でさえバイクに乗ることが出来る。


「だがギアまで外すことは出来ないだろう。エンジンの出力に合わせないと壊れるぞ」


 ギアがあるのは走行中のタイヤの回転数とエンジンの回転数を合わせるためだ。

 エンジンは高速回るが、低速域力が必要な時はギアが必要だ。

 適切なギア比で無いと、回転数の違いから全力が出せないし、最悪の場合壊れる。

 特に低速で動くことが多いであろうスクーターにはギアが必要でその操作も必要になる。


「そこでで遠心式の無段階変速機を作ります」


「無段階変速?」


 聞き慣れない言葉に義彦は首をかしげた。


「クラッチの外にゴムベルトを回す円盤を設けそれを半分に割り、動かせるようにします。そして片方の中に円筒状の錘を入れて回転すると遠心力で外側に移っていくように仕掛けます。回転数が上がると錘が動き円盤を押し上げて行きます。円盤は一定の傾きがあるので、押されるほどゴムは外側に押されて出力軸側の半径が大きくなります。つまり、ギア比が大きくなります。入力軸側、タイヤの方も傾きの付いた円盤を付けてこちらはバネで円盤を押せ付けるようにしておけば長さを調整できる上、回転が上がるにつれて小さくなり、ギア比を大きくする補助をしてくれます」


 要は、回転数に合わせてベルトゴムが接触する半径が自動で変える装置を作ることでギア比を自動調整できる。

 これならギアの代わりをしてくれるのでギア操作は不要、寧ろギア比が常に最適の状態にしてくれる夢のようなシステムだ。


「素晴らしい! これを自動車に応用しても使えそうだ」


「いや、無理ですね。自動車だと出力が大きすぎてクラッチの摩擦が足りず空転してしまいます。それに無段階変速機はギアに比べて効率が悪いのです。ゴムの摩擦も足りません。そのため車ほど大きくなると燃費の悪化に繋がります。使えるのは精々バイクぐらいでしょう」


 転生する前自動車の修理工場でバイトしていたが、自動車の他にバイクも扱っていた。

 その時、自動クラッチや無段階変速機を見せて貰って車にも使えば良いと思ったが、先輩に今言った点を教えられ、軽自動車のCVTぐらいしか使えず、燃費も悪いことを伝えられた。

 世の中上手く行かないものだ、と思ったものだ。

 だが、スクーターに使えるので、今開発しようとしているスクーターには使える。


「早速、製造に入る事にしよう。普通のバイクにも使えそうだな」


「ええ、大丈夫でしょう。それでもう一つお願いがあります」

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