第28話 ローン
忠弥の提案した遠心式自動クラッチと無段階変速機を使ったバイクとスクーターは短期間の内に開発され、生産に移り大量販売された。
クラッチもギアの操作も不要、スロットルを捻れば自動で走り出すという夢のようなバイクはあっという間に売れていった。
自動二輪の顧客リスト、それとガソリン購入スタンプカードの景品交換者名簿で効果プレゼント、ガソリンの大量購入者へ優先的に販売したところ、販売して間もなく非常に高額であるにも関わらず、快く購入して貰った。
お陰で開発費をあっという間に回収して大量生産の資金にして新規の工場を作って売り出した。
原付二輪の利便性を認めつつも非力だと思っていた利用者が多数いて買い替え需要が発生し島津に原付二輪を上回る収入を与えた。
特に配達業の人々は大量の荷物を載せたままでも操作が簡単で素早く移動できることを絶賛し、高価であっても購入していった。
そして使用結果は満足のいくものであり、価格に見合う働きをしていたと口を揃えて証言した。
「全く、大ヒットだよ」
売り上げ成績と購入希望者の人数を記した書類を掲げながら義彦は忠弥に興奮気味に言う。
オートマチックトランスミッション――遠心式自動クラッチと無段階変速機で構成された駆動装置を内蔵したバイクとスクーターの販売に成功した島津は更に規模を大きくした。
「強気な価格にもかかわらず、大勢の人が購入してくれているよ。君の言うとおり月賦で買いやすくしたのが効いたね」
皇国のこれまでの問い引きは現金取引か、年二回の締め――いわゆるツケ払いが主だった。そのため高価な物を買うのにはハードルが高かった。
そこで忠弥は月賦制度を入れる様にした。
購入後毎月決まった額を払う事、ローンも選択肢に付けて売り出した。
個人の運送業ではスクーターは便利だが、購入するのには高額だ。しかし月賦なら使いながら支払う事が出来る。しかも使用することで購入者の仕事の能率が上がり収入も大幅アップ、月賦を払っても余裕が出来て、残りを纏めて返済する人も多かった。
「これも島津産業が銀行を経営していたお陰です」
殆どの皇国の財閥は自前の銀行を持っている。そして自分の銀行から各グループ会社へ融資をして資金源としているのだ。
島津もその例にもれず銀行を持っていた。
他の財閥と同じように、主に関連会社への貸し付けのために設立されていた。
そこを忠弥は利用した。銀行がある事を利用してローンを作りやすくしていたのだ。
同時に、関連企業だけではなく力を付けつつある中産階級の資産、預金を集め利用出来るようにしたのだ。
勿論、銀行の本業である貸し付けをローンで満たすという狙いもあった。
実際、銀行の業績は上がっており、グループ全体の資金調達を容易にしていた。
「それと君の言うとおり石油精製の会社を作って良かったよ」
前々から忠弥は石油精製会社を作るよう言っていた。
原油から石油製品を作るのだが大規模なプラントになるため二の足を踏んでいた。
しかし、原付二輪とスクーター、バイクの普及で燃料消費量が大きくなり需要が高まると考えられたため建設を開始していた。
石油製品を輸入した方が投資は少なく簡単に操業し資金を回収出来るが、原油精製業はプラントを持つ分、初期投資が大きくなり初期の資金繰りに苦しむことになるがそれ以上の事業拡大を見込める。
一般に石油製品と言うが原油に含まれている多様な成分、天然ガス、プラスチックの原料となるナフサ、灯油、燃料のガソリン、軽油、重油などが一度に生産される。それらを販売することが出来れば、大きな利益になる。
特に重要なのがアスファルトだった。
川の小さな石ころに一割ほど入れれば道路の舗装に使用可能である。これで道路の舗装を行えば自動車は通り易くなる。
当然のことながら飛行機の滑走路にも使用可能であり、忠弥はアスファルト舗装するためにも石油精製会社とプラントを必要としていた。
何より、今後飛行機を普及させるにはエンジンを回す為の燃料が大量に必要となるので石油精製プラントはなくてはならない存在だった。
だからこそ忠弥は早い時期からプラントの建設を依頼していた。
義彦も、今後の事業添加に必要と判断して建設にゴーサインを出していた。
その資金に業績の意欲なった島津の銀行から融資されたのは言うまでもなかった。
「ははは、素晴らしい事だ。君のお陰で私も会社も大きくなった。一年前には考えられないくらいにね。初飛行のお陰で我々の名前を知らない人間は皇国にいなくなったほどだ」
忠弥の人類初の有人動力飛行は秋津で大々的に報道され、全国津々浦々までその名がし荒れている。
忠弥が所属する島津産業も原付二輪とオートマチックトランスミッションのバイクの成功もあり有名だった。
「そこで実は政治の世界に進出しようと思うんだ」
諸外国の情報が入るに従って普通民権運動、普通選挙の思想や情報が入ってきて、平民の間にも普通選挙を求める動きが強まった。
そして身近な地域から自治を始めようという動きから県知事の公選制が導入されようとしていた。
「近々、県知事の選挙があるようだから立候補してみようかと」
「まあ、素晴らしいですわ」
隣で訊いていた昴が相づちを打つ。
知事となれば社会的な栄誉があると見られている。
県知事の娘という箔が付くことに昴は鮮やかな未来を夢想した。
「いや、止めて下さい」
しかし、忠弥が止めた。
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