第179話 空中空母戦

 敵機との接触報告が入りカルタゴニアのブリッジに緊張が走った。

 海上を飛行できる航空機など、連合軍でも忠弥の空中空母ぐらいだ。


「出撃用意! 敵空中空母は近くにいる。見つけ次第、攻撃する」

「隊長! 敵飛行船部隊を発見したとの報告です。多数の航空機を発進中」

「出撃する! 全機発進!」


 空中空母を発見したベルケは先手必勝とばかりに航空隊を発進させた。

 索敵の為に半数の艦載機を出していたため、手元にある二隻の飛行船から六機ずつ、一二機のアルバトロス戦闘機を出すのが精一杯だった。

 それでも奇襲が出来れば、打撃を与えられるはずだった。


「上手くいかないか」


 忠弥の飛天型飛行船が見えた時点でベルケは作戦が失敗したことを悟った。

 既に、飛行船の周囲に疾鷹戦闘機が乱舞していた。

 八機の疾鷹戦闘機が周囲を飛行し、ベルケ達を発見した雄飛型飛行船が信号弾を発射して、警報を出して、ベルケ達へ向かってくる。

 飛天からも更に疾鷹戦闘機が出撃しており、上空を飛ぶ敵機の数は増えていた。


「全機、爆弾を投棄! 空戦に入れ!」


 このまま飛行船を攻撃しても撃墜される、と判断したベルケは爆弾を捨てて、疾鷹と戦う事を選んだ。

 疾鷹とアルバトロスが、ドッグファイト――犬の喧嘩ように互いに後ろを取ろうと空中を駆け回る。

 だが、徐々にベルケが不利になっていく。

 飛天から次々と戦闘機が送り出されるのに対して、ベルケの方は一二機のまま。

 数で押されている。


「振り切れない! 忠弥さんか!」


 しかも真後ろに張り付いている疾鷹に忠弥が乗っている。

 他の疾鷹も、手練れのパイロットが乗っており、撃墜されないようにするだけで精一杯だった。


「離脱する!」


 空戦の最中、ベルケは合図した。

 逃げないと、数の力で圧倒されて全滅だ。

 ベルケは一目散にカルタゴニアへ戻っていく。

 だが、ただで帰るつもりは無かった。

 何機か追撃に来ているが、長時間上空哨戒していたであろう機体は引き返している。


「頼むぞ、ウーデット」




 空戦空域から少し離れたところを、爆装した二機のアルバトロス戦闘機が飛んでいた。

 ウーデット率いる特命攻撃隊だった。

 先日と同じように帰還する疾鷹に紛れて、忠弥の空中空母に襲撃をかけようとしていた。


「敵機が戻っていくな」


 一部の機体が飛天に戻っていくのを見て、ウーデットは、同じように機体を動かす。

 空戦の後、完全に編隊を組み直すのは、ほぼ不可能。

 各機がバラバラに帰ってくることが多い。それは帝国であっても皇国であっても同じ。

 はぐれて母艦に帰投する機体のように見せなければならない。


「見えた」


 飛天型飛行船が見えた。

 何機か空中を飛んでいる。上空哨戒中か着艦待ちだろう。

 周囲には雄飛型飛行船が警戒のためか飛んでいる。

 紛れ込もうとした疾鷹は高度を下げつつ雄飛型飛行船へ向かっている。


「見つからないように雄飛型飛行船を迂回する」


 接近するとアルバトロス戦闘機と見破られる可能性があり、ウーデットは僚機と共に迂回し、攻撃ポジションに付くべく上昇していった。

 だが徐々に嫌な予感がしてきた。

 帰投してきた機体の多くが、高度を下げている。

 上空にも疾鷹がいる。

 そして雄飛型飛行船が発光信号を灯してきた。

 ウーデットの脳裏に本能からの警告が響く。


「敵味方の識別か」


 先の空中空母撃墜で、敵も警戒を強めている。

 敵味方の識別を行っていても不思議ではない。


「突っ込むぞ!」


 応答しようにもウーデットは敵の識別信号を知らず、目標である飛天に向かって突っ込む以外に手は無かった。

 直後、雄飛型飛行船から赤い信号弾が上がり、各艦より対空砲火が放たれ、ウーデット達に向けて浴びせられた。




「敵機、引き返していきます」

「よし」


 ブリッジで報告を受けた忠弥は満足した。

 越天が被弾、戦列離脱した後、再発防止策を忠弥は何度も検討していた。

 撃破出来る方法があるのなら、敵は再現を狙ってくるはずだ。

 味方機に紛れて襲撃する事は十分に考え得られていた。

 そこで、帰還する味方機は、常に周囲警戒にあたっている雄飛型の周囲を飛び敵味方を確認してから飛天に向かうようにした。

 飛天の周囲で着艦待ちを減らす為でもあり、上手くいった。

 そして、爆弾だろうとロケット弾だろうと、攻撃には飛行船の上空へ行かなければならないので飛行船より下に飛ぶように命じた。

 着艦装置が飛行船の下に搭載されていることもあって上手くいった。

 今後の事を考えると懸念はあるが、とりあえず機能していた。

 それでも、奇襲を許した場合を考えて上空援護の戦闘機を常に飛行船の上空に上げていた。

 攻撃位置である飛行船上空にやってくる敵機の頭を抑えて、攻撃のチャンスを奪うのだ。

 これらの対策は上手く行き、攻撃は避けられた。


「ベルケを追い詰める。波状攻撃を仕掛けてくれ」

「了解。しかし良いのですか?」


 飛天の艦長草鹿中佐が尋ねた。


「作戦通りだ。飛行船を撃破しても作戦は成功しない」

「了解。索敵を強化します」

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