第180話 ガソリンの残量を見ながら戦う
「すぐに出るぞ! 燃料の補給を急いでくれ!」
カルタゴニアに戻ったベルケは部下に命じた。
忠弥は波状攻撃が繰り返しており、ベルケ達は迎撃にてんやわんやだ。
何度出撃したか分からない。
機数が足りなくて三機編隊が出来ず、二機編隊に減らしている程だ。
だが、左右に気を遣う必要が無いため、前より機敏に動けていた。騎兵を真似て三機編隊にしていたが、二機編隊の方が機動力が良い。
このあとは二機編隊で動こうとベルケは決めた。
「今のところは、被害は出ていないがこの後の事を考えると撤退しか無いな」
パイロット達の奮闘もあってか、損害は出ていない。
元々、乱戦では撃墜される飛行機は少ない。
互いに後ろを取ろうとしたり、避けようと動き回るからだ。
しかしいつか撃墜されてしまう。貴重な機体と、それ以上に希少な熟練パイロットを失うのは厳しい。
「隊長、航空機へ供給する燃料が足りません」
深刻な顔をして整備長がやってきて報告した。
カルタゴニア級は元々、航空機を飛行場適地へ飛行しアルバトロス戦闘機を降ろして運用するために作られた。
燃料などの補給は随伴する補給用飛行船に任せているため、全機に二回分の燃料を渡す分しか持っていない。
「カルタゴニアが使うガソリンも回してもらっていますが」
「ああ、それでいい。もうすぐ日没だ。夜間飛行は出来ないはずだから、闇に紛れて逃げることが出来る。それまで何とか燃料を保たせてくれ。今夜中には飛行船母艦アルバトロスと合流出来るから、合流すればガソリンは補給できる。なんとかやりくりしてくれ」
「了解」
そして暮れかけた夕日を見ながら言う。
「夜だ! 夜になるまで皆耐えるんだ!」
「何とか、合流できたな」
日没後、予想通り忠弥の航空隊は引き返し、ベルケは闇夜に紛れて離脱。
夜間の内に飛行船母艦アルバトロスと合流できた。
飛行船母艦とは作戦前に予め、無人の島の環礁で合流するよう決めていた。
最後はアルバトロスから灯火を出して誘導して貰ったおかげで夜の内に合流できた。
燃料を補給して次の戦いに備えなければならない。
「プリンツ・ハイドリヒはどうなった?」
「はい、偵察機の接触を受けていましたが、機数が少なく。暴風圏へ向かうと離脱し、無事に逃げられたそうです」
「忠弥さんなら執拗に追いかけると思ったんだが」
エーペンシュタインの報告にベルケは違和感を覚えた。
航空戦力を重要視する忠弥なら、空中空母となったカルタゴニアを追いかける。プリンツ・ハイドリヒなどその後と考え、自分たちを追いかけてくることをベルケは予想していた。
実際、忠弥はプリンツ・ハイドリヒは捨てて、ベルケ達カルタゴニア級を狙ってきていた。
しかし、カルタゴニア撃破を目標にしていたとしたら、攻撃が緩かったようにベルケは思えた。
最悪、全滅も覚悟していたが、貴重なカルタゴニア級二隻は健在なのが、その証拠。
忠弥が本気ならばカルタゴニア級の最低一隻は撃墜されているハズだ。
だが、二隻とも健在で、やることが多く、それ以上考える事を許されるほどベルケには余裕が無かった。
「それと隊長、燃料の消費が激しく、作業終了は夜が明けた後になります」
エーペンシュタインは心配そうに言った。
撃墜された機体は二機だけだったが、その分、燃料消費が激しく、全機に燃料を補給しておく必要もあり、燃料の搭載に時間がかかっている。
合流できたのが深夜ということもあり、作業は夜遅く、夜明けに近い時間にようやく始まった。
「このままでは夜明けには見つかってしまいます」
エーペンシュタインは忠弥が執拗に索敵し自分たちを見つけ出そうとしているのではないかと心配していた。
補給中を攻撃されたら、いくらカルタゴニア級でも撃墜されてしまう。
「大丈夫だ。しばらくは見つからない」
ベルケは空を見ながら言った。
そして夜明けになると、空が徐々に白くなっていった。
「これはいい」
上空、二百メートルあたりを雲底に雲が広がっている。
これなら敵機から見えない。念のためにカルタゴニア級一隻を雲の真下で走らせて、上空援護の機体を飛ばしているが、問題なさそうだ。
「上空にも敵の飛行船は見えないそうです」
時折、アルバトロス戦闘機が晴れ渡る雲の上に出て哨戒しているが、敵の影は見えない。
「間もなく僚艦ヌミディアの補給も終了します。補給用飛行船も間もなく補給を始めます」
「よし」
ベルケは、気象報告から翌朝低い雲が発生すると予測しており、絶好の隠れ蓑になると考えていた。
目論見は当たり、ベルケは安心して飛行船への補給が終了できると考えていた。
薄い雲の中を航行するとしても、攻撃前に目標を確認しなければならないので姿を見せる。その時行動すれば良い。
接近を許しても発艦時には視界の悪い雲の外に出なければ戦闘機を安全に発艦させる事が出来ないと考えており、忠弥がその危険を冒すとはベルケには思えなかった。
周囲をもう一度ベルケは見渡した。誰も居ない。
しかし、彼らを見ている存在が雲の境目にいることに、ベルケ達は油断と慢心していたため、気が付かなかった。
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