第181話 霧中黎明の奇襲

「雄飛より電文! 想定していた環礁に敵の飛行船及び飛行船母艦を発見したとの事です」

「監視を続行。飛天は直ちに急行せよ」


 味方艦の報告で忠弥は飛天を向かわせる。

 敵に見つかりにくい雲の中を通り、接近して奇襲するつもりだった。


「全機発進用意! ゴンドラを降ろして目標を視認させるんだ」

「了解! ゴンドラ降ろせ!」


 格納庫の後方で、小さな籠のようなゴンドラが用意され、乗員が乗り込む。

 床のハッチが開き、ゴンドラはロープに吊されて、飛行船の外へ。

 猛烈な風の中、雲の中を降りて行き雲底を突き抜け、海の見えるところまで来た。


『左前方に環礁! 敵飛行船が飛行船母艦に繋がれ停泊しています。もう一隻飛行船が上空で航行中。飛行中の戦闘機あり』


 ゴンドラの乗員は電話を通じて偵察報告を行った。

 スピーカーで聴いていた待機中の搭乗員に忠弥は命じる。


「皆聞いての通りだ! 予定通り制空隊が発進。その後、攻撃隊が発進! 時間通り、コンパス通りに行動しろ! あとは命令に従って各自作戦目的を達成するため独断専行せよ!」


 忠弥は命じると、自ら乗った疾鷹を発進させた。

 すぐさま、予め決めておいた針路へ疾鷹を飛ばす。一分後、再び変針して飛天と平行になるように飛行させる。

 これで、後続機と接触しないはず。

 空中接触を避けるため、発艦したら各機定められた針路を一定時間進ませる。

 これで雲の中に飛行船を隠したまま一四機全てを発艦させる事が出来る。

 あとは時間が来たら、一斉に雲から出て行くだけだ。


「行くぞ!」


 時間が来て、忠弥は操縦桿を押し下げて雲の下へ出る。

 すぐさま周囲を確認。

 予定通り、環礁を囲むように自分を含めた制空隊の一〇機が降りてきている。

 残りの四機は雲の上に出て君もの上に居る敵機を掃討しているはずだ。


「攻撃開始!」


 忠弥は操縦桿を操り、敵機を目指した。

 攻撃隊が来るまでに敵の上空援護機を撃墜するのが忠弥達、制空隊の使命だ。




「何だと!」


 突如、環礁を囲むように現れた皇国戦闘機疾鷹にベルケは驚いた。

 何の前触れも無く、雲の中から戦闘機が現れた。

 この近くに皇国の飛行船がいる事は確実だ。そしてこのような芸当が出来るのは忠弥しか居ない。

 やはり予想の上を行く忠弥の行動にベルケは驚くしか無かった。


「隊長! ご命令を!」


 エーペンシュタインが叫び声を上げて指示を求める。


「全機出撃だ! 迎撃しろ!」


 ベルケもエーペンシュタインも格納庫に向かった。

 だが、発艦時が一番狙われやすいことを知っている。

 今外に居るのは、六機のみ。

 しかも二機は雲の上に出て警戒中だ。

 あっという間に、撃墜されてしまうだろう。

 しかし、出撃しなければカルタゴにアは撃墜されてしまう。


「発艦だ! エンジン回せ!」


 ベルケは命じた。

 すぐにアームが外に出て間伐入れずにフックが外れ、放り出される。

 めざとい、疾鷹の二機が後ろに付いてきた。

 ベルケは操縦桿を押し倒し海面すれすれに降下する。

 海という障壁を使い、攻撃させにくくする。その間に機速を上げて、戦闘可能な速度まで上げる。

 後続のエーペンシュタインも同じように発進した。

 あとは、上空援護機が持ちこたえてくれれば良いのだが。

 ちらっと上空に目を向けると、黒い煙を吐いて落ちてくる飛行機が見えた。




「よし、撃墜!」


 忠弥は二機目のアルバトロス戦闘機を撃墜した。

 他にも昴が一機、他の味方が一機撃墜している。

 雲から出てきたとき、上空に居たのは四機。

 飛行船から二機が出てきたが味方が追いかけている。

 これで攻撃隊の道は開けた。

 時計を確認する。そろそろ時間だ。

 その時雲から、機体の下に爆弾を積み込んだ四機の疾鷹が出てきた。

 疾鷹は、一直線に環礁に居る飛行船母艦に向かう。

 だが、そこへ銃火が伸びる。


「ベルケか!」


 海面を飛んでいたアルバトロス戦闘機がいつの間にか上昇して攻撃位置に付いていた。

 忠弥は機体をアルバトロス戦闘機へ向けて機関銃を放つ。

 真横から攻撃したのに簡単に躱された。

 あれだけの腕前を見せるのはベルケ以外にいない。

 そのまま乱戦に入る。

 互いに撃墜しようと後ろを取り合おうとする。

 エーペンシュタインも参戦してくるが、昴が後ろに付いて、牽制する。

 お互い撃墜できなくなったが、それは忠弥の勝ちだった。

 攻撃隊が、目標へ突進していった。


「しまった!」


 爆弾を搭載した疾鷹四機が飛行船母艦アルバトロスへ向かって爆弾を落としていった。

 二発は外れて海中に落ちたが、一発は中央に命中。改装されたガソリン貯蔵庫に命中し大火災を起こしていた。そして、もう一発は後部の飛行船係留塔の基部に命中した。

 爆弾は小型ながら当たり所が悪く、係留塔は大きく右に傾いた。

 そのため、緊急発進して飛行船母艦の右舷側を航行していたカルタゴニア級飛行船三番艦ヌミディアの船体中央部、格納庫近くを切り裂いてしまった。


「畜生!」


 被害が出たことにベルケは罵声を上げた。

 貴重な戦力が今また失われた。

 特に、飛行船母艦アルバトロスの損傷は、大きな痛手だ。

 気が付くと、忠弥は既に離脱していた。

 目的を達成したとばかりに、引き上げていったのだ。

 命拾いしたとベルケは思わなかった。

 必ず、次の攻撃があるとベルケは確信していた。

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