第182話 ベルケの反撃と忠弥の再攻撃

「残存機はカルタゴニアの六機のみです」


 上空援護で発艦していたアルバトロス戦闘機四機は撃墜された。

 雲の上に二機が出ていたが、未帰還。恐らく、撃墜されたのだろう。

 エーペンシュタインに続いて発艦した二機は撃墜され、残ったカルタゴニアの稼働機は六機だけだった。


「ヌミディアに一四機ありますが着発艦装置があるハッチが係留塔との接触で歪み解放不能、発進不能です」


 着艦し被害集計をしていたエーペンシュタインが報告した。

 航空戦力が半減したと言っても良かった。

 だがそんなのはまだ軽い方だ。


「飛行船母艦アルバトロスは、鎮火しましたが、火災により航空燃料をほぼ失いました。係留塔も破壊され、補給能力は半減以下となりました」


 活動拠点であり補給拠点であるアルバトロスが破壊されては、これ以上の活動は不可能だ。

 かねてから近々作戦終了と考えていたが、飛行船母艦が機能喪失となっては、ここで終了だ。


「撤退するしか無いな」

「ですが、飛行船母艦のアルバトロスはどうします? 航行に支障はありませんが、これ以上連れて行くのは」


 言いにくそうにエーペンシュタインは言う。

 支援機能が無くなった今、飛行船母艦アルバトロスはお荷物だ。


「ルーディッケ少佐は、通商破壊活動を行うので心配ご無用と言っていますが、二宮大佐に睨まれていては撃沈されるでしょう」


 忠弥に見つかった状態で、逃がすのは不可能だ。

 飛行船に比べて足の遅い船舶ではすぐに見つかって攻撃を受けてしまうだろう。


「それだ!」


 ベルケが突然叫び、エーペンシュタインは驚いた。


「ど、どういうことでしょうか」

「不可解に思っていたが謎が解けた。忠弥さんの狙いは飛行船母艦だ」

「何故そう思われるのですか?」

「先の攻撃を思い出せ。我々は奇襲された。もしロケット弾を持ち込まれていたらカルタゴニア級飛行船をすべて失いかけた」

「はい」

「だが忠弥さんは制空権を取りに行った。そして爆装した戦闘機で飛行船母艦アルバトロスを狙った。何故だ」

「最初から飛行船母艦アルバトロスが目的だった」

「そうだ。目的は飛行船母艦アルバトロスだ。本来ならプリンツ・ハイドリヒを捜索するよう命令を受けていたはずだ。捜索のために航空隊を出していた。なのに我々の元に来たのは、飛行船母艦アルバトロスを撃沈するためだ」

「何故」

「我々の燃料、物資を奪うためだ。我々と同じ飛行船を運用しているのだ。弱点を知っている。続けて航空機を運用しにくいことを、航空機に補給できる燃料が少ないことを」


 全て合点がいってベルケは命じた。


「直ちに作戦を立案する。ルーディッケ少佐にも命令を下せ。スピードが大事だ」




「再攻撃の用意を!」


 飛天に戻った忠弥は格納庫で部下を指揮していた。

 攻撃終了と共に飛天は雲の上に上昇し、攻撃隊を収容した。

 雄飛も浮上し、周囲を警戒している。

 他にも弾薬の残っている機体四機が空中給油を受けつつ上空援護をしてくれている。

 忠弥は急いで再度爆装して飛行船母艦を撃沈しようとしていた。


「回天はまだか?」

「まだ少し時間がかかります」


 視界の悪い雲の中に共に入っての空中接触を恐れ、回天は攻撃成功後に合流することにしていた。

 成功後はともに第二撃を与える事にしていた。


「待てないな。準備終了と同時に出撃する」

「打撃力が足りないんじゃ?」


 昴が話しかけてきた。


「飛天の援護にも機数がいるわよ」


 現在飛天には二〇機の疾鷹が搭載されている。雄飛にも四機が搭載されている。

 だがベルケ相手には機数がほぼ互角と言えた。

 何機か撃墜していたが、攻撃を受けたら飛天が撃墜される恐れがある。


「だが、飛行船母艦を逃すわけにはいかない」


 ベルケ達の機動力の源泉であり燃料庫である飛行船母艦を野放しにすることなど出来ない。野放しにすればベルケに作戦能力を与え、連合軍への奇襲を許し続ける事になる。


「飛天を撃墜されても大変よ」

「くっ」


 忠弥は焦っていた。

 ベルケの予想外に素早い動きにこれまで翻弄されてきた。

 飛行船を撃墜できれば良いが、出来なければ暴れられてしまう。だから、飛行機の燃料や予備部品を積んでいる飛行船母艦を狙った。

 補給が必要なように執拗に空戦を行い燃料を消費させる小細工もした。

 撃墜しないよう命令したのは、補給させて飛行船のガソリンを減らすためだ。

 母艦と合流せざるを得ない状況を作り出し、一緒に居るところを狙ったのだ。

 飛行船母艦攻撃を優先し、飛行船は後回しにしたのだ。

 だが、どれくらいの戦果を挙げたか分からない。少なくとも浮いているのは確認している。

 再度攻撃して止めを刺したかった。

 その時、見張りが叫んだ。


「雲の下より、何か浮上してきます!」

 

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