第183話 飛行船母艦アルバトロス撃沈

 報告を受けて忠弥は格納庫の窓に張り付く。

 外を見るとベルケの乗るカルタゴニア級飛行船二隻が雲を切り裂いて浮上してきた。

 雲の上に出てくると、カルタゴニアはハッチを開きアームを伸ばして戦闘機を出してくる。


「先手を取られたか。迎撃する! 発進可能な機は直ちに発進! 回天に連絡、合流を急げ!」


 忠弥は命令するとすぐにブリッジを飛び出して格納庫へ向かう。

 発進準備が終わっている愛機に乗り込み、エンジンを始動させ出撃した。

 ベルケもアルバトロス戦闘機で出撃し迎え撃ってきた。


「もう一隻は、出してこないな。損傷しているのか」


 先ほどの攻撃でハッチの近くに係留塔が接触し損傷しているのは確認していた。

 敵機の数が少ないと忠弥は判断していた。

 だが、甘かった。

 ヌミディアは、上空に出るとハッチを爆薬で破壊し、解放。アームを伸ばして戦闘機を発艦させた。


「無茶をするな」


 爆発の炎で水素に引火したり爆破の時出る破片が気嚢を破壊することを考えていないのか。

 いや承知の上でやっているのだろう。


「必死に守ろうというのか。相手になってやる」


 相手の覚悟を見て自分も覚悟を決めた忠弥は操縦桿を握りしめ、ヌミディアから出てきた戦闘機に向かっていった。


 忠弥とベルケの空中戦は激しさを増していった。

 両軍の戦闘機が乱舞し、相互に撃墜しようと格闘戦になる。

 だが、乱戦の常の通り、撃墜される機体は少なかった。

 互いに激しく動き回っているため撃墜のチャンスが少ないのだ。


「攻撃隊が出せないな」


 徐々に下の雲が晴れて行き、環礁が見えてきた。

 飛行船母艦アルバトロスの姿は既に環礁内には無く、外洋に出て逃げている。

 追いかけて沈めたいがベルケの制空隊が邪魔をする。

 飛行船母艦への攻撃隊を出す余裕など今の忠弥にはない。


「こちらの目的を知っていて邪魔をするのか」


 ベルケも忠弥の狙いに気が付いて、妨害しようと戦闘機を出してきていた。

 飛行船母艦アルバトロスを攻撃しようとすればベルケの戦闘機隊が飛天を襲撃し、撃墜してしまう。

 忠弥の手元には飛天の一八機に雄飛の四機、合計二二機。

 ベルケの手元にはカルタゴニアの六機にヌミディアの一二機、合計一八機

 ほぼ互角であり今の忠弥は守るしかなかった。

 しかし、戦局は間もなく変わる。

 新たな疾鷹戦闘機が襲来したのだ。


「回天の艦載機だ!」


 後続していた回天がようやく現れたのだ。

 艦載機一個中隊一四機の参入は一挙に忠弥達を優位に立たせた。

 数的に劣勢になったベルケは機首を翻し、カルタゴニアへ引き返していった。


「追撃するわよ」

「待つんだ。飛行船母艦アルバトロスを撃沈する」


 追いかけようとする昴を忠弥は止めた。


「でも」

「目的は飛行船母艦を撃沈して、ベルケの足を止めることだ。すぐに仕留められる」

「海軍に任せたら?」

「連中はプリンツ・ハイドリヒにかかりきりだ。撃沈できたとしてもこちらに到着する前に飛行船母艦は逃げる。僕たちで仕留めるんだ」

「分かったわ」


 渋々昴は忠弥の命令に従った。

 飛天に帰還した忠弥すぐに爆装すると出撃し逃走する飛行船母艦アルバトロスへ攻撃を行った。

 必死に逃げようとしているのか、真っ直ぐ進んでいたため簡単に爆弾は命中した。

 次々と爆弾を落とされ、元々が商船改造のため大した防御もない飛行船母艦アルバトロスは撃沈された。


「作戦成功」


 沈んだのを確認して忠弥はようやくほっとした。

 だが、違和感を感じていた。


「ねえ、船が沈んだにしては逃げ出す乗員がいないわね」


 昴の一言で、忠弥はようやく気が付いた。

 攻撃を受けても飛行船母艦は回避行動を行わず真っ直ぐ逃げていた。

 被弾して火災が発生しても消火する乗員はいなかたっし、沈没寸前になっても逃げ出す乗員もいない。

 何よりベルケの姿が居ない。

 飛行機への補給物資を満載した飛行船母艦はダイヤより貴重である事は、航空戦を理解しているベルケが一番よく知っている。

 そもそも、カルタゴニア級飛行船は別方向に向かって航行していた。


「やられた。逃げられたか」

                                                                                                                                                                                          

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